第11話 結成、リレー小説部

 わたしたちは約束どおり、リレー小説部を結成した。


 ひぐらし小学校には部活動がない。リレー小説部といっても、勝手に名乗っているだけだ。別に学校の許可は必要ないのだが、いちおうカナ先生に報告した。


 カナ先生は、ずっと図書室にこもっていたソーサクくんがわたしたちと活動することを喜んだ。


 ソーサクくんとクラスのみんなとの交流をカナ先生もいろいろ試していたのだが、ソーサクくんがなかなかその気にならなかったらしい。


「楽しそうね。他にも参加したいっていう子が出てきたら、ぜひ入れてあげてね」


 先生のそんな言葉を受けて、わたしたちは、ひぐらしウイークリーに広告をのせることにした。こんな感じだ。


 リレー小説部

 ・部員募集中!

 ・みんなで小説を書くよ!

 ・活動日、月と木の放課後

 ・部長、夏目夢(五年二組)

 ・問い合わせは夏目まで!


 わたしが言い出しっぺということで部長になった。


 ひぐらしウイークリーに広告がのると、なんだか本格的な部活動って感じがした。友達からも「何これ?」などと質問を受けた。入部希望者はいなかったけど。まぁ、それは別に構わない。


 次の日曜日の午後、わたしたちはみんなでサトちゃんの病院に行くことにした。


 サトちゃんにリレー小説部のことを説明し、ソーサクくんも紹介するつもりだった。サトちゃんにも入ってもらって、できればその場でリレー小説もやってみたかった。


 日曜日なので、先生は一緒に来ない。サトちゃんのママに連絡して了解をもらった。


 わたしとエマはバスに乗っていく。アラタはサッカークラブが終わった後、そのまま病院に直行するという。


「ソーサクくんもバスでいっしょにいく?」

 ソーサクくんに大学病院の名を告げると、「場所はわかるから大丈夫」と言われたので、現地集合にした。


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎


 さて、日曜日。わたしとエマが病院の談話室に着くと、サトちゃんは水色のブラウスに、グレー色のチェックのスカートをはいて待っていた。


「サトちゃん、スカートかわいい」

「えへへ。ありがと」

「サトちゃん。この前はパジャマだったのに、きょうはオシャレだねぇ」

 エマがニヤニヤしながらからかうと、サトちゃんがあせった。

「もう、やめてやめて」

 きょうはアラタがくるからオシャレをしたのだろう。照れる姿がまたかわいい。


 さて、そのアラタは、サトちゃんのオトメゴコロをまったくわかっていない様子で、サッカーのユニフォームのままやってきた。


「おまえ、汚れてるぞ」

 エマが文句を言う。

「ごめんな。そこの区民グラウンドで、さっきまで練習試合をやっていたんだよ」

 窓の向こう、病院のすぐそばに区民グラウンドが見える。


「ちょっと、アラタ。家でシャワーを浴びてきたらよかったのに」

 わたしも顔をしかめる。

「ちゃんと手洗いとうがいはしたぞ。新しいマスクもしてるし」

「それは当然でしょ」


「アラタくん、病院でシャワーかりる? 看護師さんに聞いてみようか」

 サトちゃんがたずねる。

「え、ホント? すげぇ、たすかる」

「うん、いまの時間はシャワーあいているから。頼んであげる」

「病院にお見舞いにきて、もらい湯するやつなんて、聞いたことないぞ」

 エマがあきれた顔で言った。


 サトちゃんがナースステーションに確認に行って、戻ってきた。

「シャワー、大丈夫だって」

「おー、ありがたい!」

「はい、これ。バスタオル」

 アラタはバスタオルとTシャツまで借りて、本当にシャワーを浴びにいった。

「もぅ、サトちゃん、マジ天使!」

 エマが言う。

「ほんと、よくできたツマだよ」

 わたしも笑った。

「付き添いの人もシャワー使えるから」

 サトちゃんが真っ赤になって言った。


 しばらくすると、アラタがホカホカの姿で戻ってきた。

「あー、サッパリした」

「おまえ。ホント、何しに来たんだよ」

 エマがあきれたところへ、ソーサクくんがやってきた。

「お待たせ。ここでいいのかな」

「おー、ソーサク」

「来た来た」


 ソーサクくんとサトちゃんは初対面だったので、おたがいあいさつをした。

「森創作です。よろしく」

「太宰里です。よろしくね。あっ……」

「うん?」

「ううん、何でもない」


 それから、みんなで談話室のテーブルを囲むことになった。


「飲み物、買って来ない?」

「一階にコンビニがあったよね」

「じゃあ、行ってこよう」

「俺もいく」


 エマとアラタとソーサクくんが買い出しに出かけ、わたしとサトちゃんは待っていた。


「ね、サトちゃん」

「何?」

「さっき、ソーサクくんに何か言いかけてた?」

「あ、気づいた?」

「なんとなく」

「言っていいかわからなくて。遠慮したんだけど。わたし、ソーサクくん、見たことあったから」

「そうなの?」

「うん。たぶんお母さんが入院されているのかも。病院のお庭で、よく二人で散歩しているから」



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