第9話 ボールをひろう
ソーサクくんが原稿用紙を前に、考えこんでいる。アラタのように顔をしかめたり、うなったりはしない。静かに目をつむったままだ。
その横顔を見ながら、エマとわたしはひそひそ話した。
「ユメっち。ソーサクのやつ、ここからどうやって話をまとめると思う?」
「難しいよね。まぼろしのタコ焼き、ちゃんと真相にたどりつくのかな」
「タコ焼き事件の真犯人として、なぞのタコ焼き怪人が登場するの、どう?」
「あはは。なぞをこれ以上増やしちゃダメでしょ」
ソーサクくんはしばらくすると目をあけ、鉛筆を手にした。考えがまとまったらしい。原稿用紙にサラサラと書き始めた。
「まぼろしのタコ焼き」は、ついさっき、わたしが思いついた物語だ。
タイトルをつけたときは、結末なんて、何も考えていなかった。それがこうして続きが書かれて、ソーサクくんの手で結末をむかえようとしている。
なんだか不思議だ。
「お待たせ。できたよ」
しばらくするとソーサクくんが言った。途中で消しゴムを使うこともなく、一気に書き上げたようだ。
ソーサクくんは自分でコピーして、みんなに配った。
物語をあそこからどうやって結末に持っていくのだろう。わたしには、まったく想像がつかない。ドキドキしながら続きを読む。
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④森創作
「まぼろしのタコ焼きのせいでしょうか」
若い刑事はいぶかしんだ。
「タラア先生によると材料に問題はない」
警部が言う。まぼろしのタコ焼きを長年追うベテランだ。兄妹が倒れたのは、暑さで体力が落ち、すき腹に食べたせいだった。
「どこでタコ焼きを手に入れたのか」
「聞いても教えてはくれないだろうな」
みなさんは、まぼろしのタコ焼きを知っていますか。
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あれ?
これで終わり?
読み終わった直後、わたしの頭の中にはハテナマークが浮かんだ。
エマも同じことを感じたらしく、疑問を口にした。
「ソーサク、これで終わり? まぼろしのタコ焼きがなぞのままじゃん」
何も解決していないように見える。
でも、ストンと納得できる気もする。
奇妙な読後感だ。
繰り返し読み返すうち、わたしはあることに気付いた。
「あっ。ソーサクくん」
「うん、何?」
「これ、最後の文章が同じだ。わたしが書いた一行目の文章と」
アラタとエマが、わたしの書いた一話目を読み返した。
「あ、ホントだ」
「ユメっちの文章と同じだ」
ソーサクくんは言った。
「正直、すごく難しかったよ。どうやって終わらせようかと。ずいぶん迷った」
「まぁ、そりゃそうだよな」
「ヒトゴトみたいに言うな。三話目があんな内容だったからじゃん」
エマがアラタをつつく。
ソーサクくんはわたしを見て話す。
「でも、途中で気づいたんだ。ユメが書いた一行目だけが『です・ます』調だったことに。この文章を最初と最後に置いたら、まとまるんじゃないかって」
「うん。こう書いたら、まとまっている気がする」
「
ソーサクくんが言う。「枠物語」というのは、
「ぼくも本当は、エマやアラタみたいに、物語を飛躍させるのが好きなんだ。でも今回はなるべく、みんなが投げたボールをひろうことにしたよ」
「ボールをひろうって?」
わたしはソーサクくんにたずねる。
「ボールっていうのは物語をふくらませる材料だよ。みんなが投げたボールが散らばっていたから、ひろい集めた」
四話目を改めて読んでみる。
言われてみれば、刑事たちの会話は、エマが書いたひぐらし署の話とつながっている。アラタが書いたタラア先生の発言も取り込まれている。もちろん、わたしの書き出しと、そして「まぼろしのタコ焼き」というキーワードも。
こういうのを「
「そのぶん物語に飛躍がなかったから。あまり面白くなかったかな」
「ソーサクくん、そんなことないよ。四話目のおかげで、すごく小説っぽくなったと思う」
「アラタの三話目が面白すぎたからな」
「エマの二話目だって、かなりのもんだろ」
「一緒にするな」
ソーサクくんの四話目は、最初に読んだときは、ピンとこなかった。
でも、読めば読むほど、良い終わりかただと思えてきた。
「これがリレー小説だよ」
ソーサクくんがみんなに言った。
「リレー小説って、おもしろい」
「うん、おもしろいな」
エマとアラタが声をそろえた。
わたしは言った。
「もっと書きたい。こんな短いのじゃ、全然書き足りないよ」
「ユメっち、わたしもそれ思った。もっと長い字数でも書けるよねー」
「書ける書ける」
調子に乗ったわたしは言う。
「ねぇ、みんなで文芸部つくろうよ。サトちゃんにも入ってもらって」
「おっ。それいいね」
エマがこたえた。
「いっそリレー小説部でもいいかも。活動内容はリレー小説が中心だから」
「さんせい!」
リレー小説部!
そんな部活、聞いたことない。
でも絶対に面白いはず。
面白さは保証する。
みんなで書き終えたあとの達成感は、味わったことがないものだった。
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