第8話 予想もしない展開

 エマはゴキゲンな様子で、鼻歌を歌いながら書いている。

  

「できた。これでどうだ!」

  

 まもなくエマが鉛筆を置いた。さすがは、ひぐらしウィークリーを毎週書いているエマだ。その気になると書くのがはやい。

  

 ソーサクくんがプリンターでコピーしてみんなに配る。


 続きはどうなったんだろう。わたしは気になって、あわてて読んだ。


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 ②中島絵真

  

 じけんはおきた。ひぐらし署によると、通行人から、110番つうほうがあった。

「道ばたに人がたおれています!」

 たおれていたのは、近くに住む、びんぼうな兄と妹だった。二人はきゅうきゅう車で病院に運ばれた。きゅうきゅう隊員が電気ショックをバリバリと当てた。 

「ううーん。むにゃむにゃ」

 二人ともねむっている。二人の手には、タコ焼きのつつみがあった。


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「えー!」

 わたしは声をあげてしまった。

  

 わたしが書いた流れで、そのまま兄と妹の会話が続くのかと考えていた。それなのに、話が飛んで、予想もしない展開になっている。

「エマ、まさかの展開だよ!」

  

 アラタもうなった。

「おいおい、おれとユキコが救急車で運ばれてるじゃん!」

 わたしは笑いながら指摘した。

「アラタ、ちがうちがう。これ別にアラタとユキコちゃんじゃないからね」  

「次はタコ焼きを食べる場面かと思っていたら、とつぜん事件って。何が起きたんだよ。ていうかこれ新聞記事じゃん」

  

 エマが満面の笑みをみせた。

「ふふふ、ひぐらしウイークリー風にまとめてみたよ。わたしが書くなら、やっぱりこうでしょ」

  

 ソーサクくんが言う。

「面白い。何が起きたんだろうね。それを考えるのが、後の人の役割かもね」

「うぅ、次はおれだ。責任重大だわ」

「ユメっちとわたしは書き終わったからさ。どうオチをつけるか、期待しながら待ってるよん」

  

 アラタは鉛筆を手に考えこむ。顔をしかめていたが、ふとソーサクくんにたずねた。

「なぁ、ソーサク」

「何?」

「これ、全然ちがう話とか、ムチャクチャな話とかを書いちゃってもいいのか?」

  

 それを耳にしたエマがアラタにつめよる。

「アラタ、聞きずてならないな。ムチャクチャな話って、どんな話だよ?」

「例えば、いん石が落ちてきて地球が滅亡するとか」

「ひどいね、それ」

 わたしは吹き出した。

  

 ソーサクくんは平然と答える。

「もちろん、何を書いてもいいよ」

「えー。つながっていない話はナシじゃないの?」

 エマが口をとがらせる。

  

「つながっていない話っていうのも、それはそれで面白いよ。だけど、本当に面白いのは、話がうまくつながった時だね」

 ソーサクくんが淡々と言った。

  

「ふうん、なるほどな」

 アラタがまじめな顔になる。消しゴムをガシガシとかけながら、もくもくと続きを書いた。


 時間がかかりそうだったので、わたしとエマとソーサクくんはユキコちゃんを誘い、トランプをしながら待った。


「よっしゃ、できた!」


 アラタがガッツポーズをした。

「ふぅ、苦労したわー。でも、いい感じに書き上がったぞ」


 ソーサクくんがアラタの原稿用紙をさっそくコピーしてみんなに配った。


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 ③谷崎新


「これはだいじけんだ」

 タコ焼きの、せんもんかが呼ばれた。東大タコ焼き学科のきょうじゅ、名前はタラア・キザニタというフランス人だった。

「ボンジュール」

 タラア先生は、かっこいい兄とかわいい妹が持っていたタコ焼きを調べた。

「粉はカツオだしでといていますね。粉とだしの割合は一対三ですね。かくし味にアゲダマを入れると、ふんわりするザマス」


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「ぷっ。あははは」

 わたしは読んだとたん、思わず笑ってしまった。

 エマも大笑いしている。

「ぶわははは。アラタ、おまえ、ふざけてるだろ、これ」

「ふざけてねえよ。力作だろ」

 アラタは意外に大まじめだ。


「なんでいきなりフランス人が出てくるんだよ」

「それに東大にタコ焼き学科なんてないよね」

「あるかもしれないだろ」

「ないない。百パーセントないから!」

 エマとわたしがツッコむ。


 するとソーサクくんが言った。

「アラタ、よく書けているよ」

「ほらほら、ソーサクはほめてくれたぞ」

「どこがよく書けてるんだよ。後半、タコ焼きのレシピになってるじゃん」

 エマがまぜっ返す。

「ぼくは面白いと思った。これでいいんだよ。ちゃんと話はつながっている」

 ソーサクくんはまじめな顔で答えた。


「ソーサク。あんましアラタを甘やかしちゃダメだぞ」

「エマ、わかるやつにはわかるんだよ。おれの作品のミリョクってやつが」

「これからはアラタのこと、タラア先生って呼ぶからな」

「いいね。ボンジュール、タラア先生」

「エマもユメもやめろ」


 にぎやかに盛りあがっているわたしたちをよそに、ソーサクくんが原稿用紙を手にした

「さて、最後はぼくだね」


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