第6話 小説なんて読まない
「よし、焼けた。食べようぜ」
アラタの声に、みんなが競うようにタコ焼きを小皿にとる。ソースをかけて、ハフハフとかぶりついた。
「うまい。ウインナー、いける」
「チーズとツナのタコ焼きもおいしい!」
エマとわたしは顔を見合わせた。
「ユメっち。タコがないからタコ焼きじゃないよ」
「新しい名前つけよう。じゃあ、ピンポン焼き!」
「あはは。ピンポン球っぽい」
アラタがソーサクくんに言った。
「うまいだろ?」
「うん、おいしい」
「えんりょしないで、どんどん食えよ」
「家でタコ焼きって、初めて食べた」
「タコ焼きは家でつくった方がうまいんだ」
アラタとソーサクくんの会話を聞きながら、ふと思う。
ソーサクくんのお家って、どんな感じなんだろう。質問しようかと思ったけど、何となく、遠慮してしまった。
アラタが次のタコ焼きをつくり始める。手慣れたもので、タコ焼き職人みたいだ。
「ふぅ。お腹いっぱい」
「もう入らないよ」
ひとしきり食べると、みんな満足した。
「ユメちゃん、トランプしようよ」
「いいよー」
ユキコちゃんの誘いに応じかけたとき、ソーサクくんが言った。
「夏目さん、目的を忘れてない?」
「ハッ、そういえば」
そうだ。みんなを呼んだのはタコ焼きパーティーをするためじゃない。リレー小説のことを話さなければ。
あ、その前に。
「ソーサクくん。わたしのこと、わざわざ名字で呼ばなくてもいいよ。みんな名前で呼んでるから」
「じゃあ、ユメ」
「ぐふっ」
いきなり呼び捨てにされて、わたしは顔が熱くなる。ソーサクくんは何ていうか、距離のつめかたがスルドイ。
ゴホゴホとむせるわたしをエマがからかった。
「ユメっち、照れてる」
「照れてない!」
「イケメンだもんね。ユメっちもイケメンには弱いんだ?」
「違うから! そういうんじゃないから!」
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
「コホン」
わたしはせきばらいをすると、改めて話を切り出した。
「あのね。今日みんなを呼んだのは、小説を書くのを手伝ってほしいからなんだ」
「小説?」
「そう。小説。みんなで書きたくて」
エマは「あっ」と気づいた様子だった。
病院でのやり取りを思い出したのだろう。
アラタはキョトンとしている。
そりゃそうだよね。
「メンバーはね、この四人と、それからサトちゃん」
エマがたずねた。
「ユメっち。みんなで書くって、どゆこと? 文集でもつくるのか?」
「違う。リレー小説っていうのを、やってみたい」
「リレー小説って、何それ?」
何それ、だよね。
わたしも実はそうだ。
わたしは助けを求めるように、ソーサクくんの方を見た。
ソーサクくんはハンカチで口元をふくと、言った。
「リレー小説は、複数の人が順番に書く小説なんだ」
「複数の人?」
「そう。誰かが書いた話の続きを、別の人が書く」
ソーサクくんはそこでみんなを見わたした。
「みんな、太宰治の『ろまん
「知らない」
「知らないなぁ」
全員が首をふった。
くやしいことに、わたしも知らなかった。
「家族でリレー小説をする物語だよ。あれを読んだら、リレー小説のことがよくわかると思う」
よし。絶対に読もう。覚えておこう。わたしは心の中に「ろまん燈籠」というタイトルを刻み込んだ。
「何人で書くの?」
「四人で書くことが多いかな。
「ふうん」
「ろまん燈籠は五人兄妹で書いていたけどね。イベントではもっと大人数で書くこともある」
「イベントなんてあるんだ?」
アラタが「うーん」とうなった。
「小説かぁ。おれはちょっと協力できそうにないなぁ」
ソーサクくんがアラタにたずねる。
「きみも本は読むだろ。好きな本は何?」
「おすすめは『BE BLUES!〜青になれ〜』全四十九巻だな。あと『ブルーロック』」
「ぜんぶサッカー漫画じゃん」
エマがツッコミを入れた。
「いや、おれも最近は、字の本も読むぞ」
「どんな本?」
「伝説の家政婦、志麻さんの料理本とか」
「それ、レシピじゃん!」
アラタは小説なんて読まない。
夏休みになるたびに読書感想文に苦しんでいる。
わたしは毎年、アラタの読書感想文の本選びを手伝っている。ちなみに昨年は、サッカー選手メッシの自伝「ハンデをのりこえた小さなヒーロー」をむりやり読ませた。
アラタにいきなり「一緒に小説を書こう」といっても、無茶かもしれない。わたしも誘うのはためらった。でも、アラタがいた方がサトちゃんが喜ぶと思って、声をかけたのだ。
「そんなに難しいことじゃない。今からみんなでやってみよう」
ソーサクくんは何でもない口ぶりで、そう言った。
そして、通学かばんのリュックサックから、原稿用紙を取り出した。
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