第二章 初めてのリレー小説

第5話 メンバーが必要

 放課後の図書室。わたしはソーサクくんに近づく。スパイになったみたいに、コソコソと。


 カナ先生にソーサクくんのことを教えてもらった次の日のことだ。


 ソーサクくんはいつものように、窓ぎわで本を読んでいた。


「よし!」


 わたしは意を決し、ソーサクくんの向かいの席にパッと座る。何ごとかと顔をあげたソーサクくんにたずねた。


「ソーサクくん。読書中にじゃましてごめんね。わたし、夏目ユメ」

「知ってるよ。同じクラスだよね」

「あのさ、質問があるんだけど」

「何?」

「小説って、どうやったら書けるの?」


 いきなり聞いてしまった。


 聞いた後で、急にはずかしくなる。

 初めて話したのに、いきなりこんな質問されたらビックリするよね。ソーサクくんに「変なやつ」って思われたかな。


 でもソーサクくんは平気な顔でこたえた。

「小説なんて、すぐに書けるよ」


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎


 こうして、わたしとソーサクくんは、小説について話した。ソーサクくんはわたしの疑問にあっさりと答えてくれた。


「ひとりで書くのが難しければ、チームで書いたらいい。どう書けばいいか、コツがつかめるかもしれない」


 そして、リレー小説を勧めたのだ。


 リレー小説!


 そんな小説あったんだ?

 チームで書くなんて、想像できない。


 あ、でも。この前、エマとサトちゃんと三人で、シャーペンたろうの話で盛り上がった。あんなノリだろうか。だとしたら、ちょっと面白そうだ。


 わたしはソーサクくんの方を向いた。


「そのリレー小説ってやつ。わたしもやってみたい。ソーサクくん、やり方を教えてくれないかな?」


 わたしがそう言うと、ソーサクくんは宙をにらんでつぶやく。

「……自由にできる、か」

「どうしたの?」

「いや、何でもない」


 ソーサクくんはわたしを見てうなずいた。

「わかった。ぼくでよければ教えるよ」

「本当に? いいの?」

「いいよ。ぼくが言い出したことだから」

「ありがとう!」

 図書室じゃなければ、バンザイを唱えたい気分だ。


「でも、メンバーが必要だよ」

「メンバーかぁ。何人くらい必要?」

「きみとぼくの他に、少なくとも二人」

「わかった。集めるよ」

「メンバーが集まったら、声をかけて」


 ソーサクくんはそこまで話すと、読みかけの本に視線を落とした。


 話してくれるかどうか、不安だったけど。ちゃんとこたえてくれた。


 わたしは緊張がとけて、ホッとした。

 ソーサクくん、もっと他の子とも話せばいいのに。

 そんなことも思った。


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎


 さらに翌日。


 わたしは、エマとアラタの二人を放課後の図書室に引っ張ってきた。

  

 ソーサクくんは前日に続いて姿を見せたわたしに、少し驚いた様子だった。

「夏目さんって、行動力あるね」

「ふふん。善は急げ、だよ」


 アラタがわたしとソーサクくんを見比べながら言う。

「えっと。おれ、何で図書室に連れてこられたんだ?」

「あ、まだ話していなかった。いまから説明するよ。でも、図書室って、おしゃべりには向いてないよね」

「ユメっち、外に出ない?」

「よし。じゃあ、おれの家に行こうぜ」

 アラタが言ったので、連れだって図書室を出る。

  

 アラタは運動場で遊んでいた女の子に声をかけた。アラタの妹で一年生のユキコちゃんだ。

「ユキコ、帰るぞー」

「うん、お兄ちゃん。あ、ユメちゃんもいっしょだ。やったー」


 ユキコちゃんがかけよってきて、わたしの手をひく。わたしとエマとアラタ、それにユキコちゃん。このグループで帰ることは珍しくない。ここにソーサクくんが加わると、何だか不思議だ。


 アラタの家は、学校から歩いて五分くらい。商店街の中ほどにあるフラワーショップだった。わたしの家からも近い。


 店では、おばさんが店番をしていた。おじさんは配達に出ているらしい。


 アラタはみんなを引き連れ、裏手のとびらから自宅に入る。わたしも小さい頃から出入りしているので、よく知っている。


 リビングダイニングに入ると、アラタが聞いた。

「腹が減ったな。何か食べるか?」

「お兄ちゃん、タコ焼きがいい」

「じゃあ、そうするか」

  

 アラタはタコ焼きのホットプレートを出して、テーブルにセットした。

「すごいな。玄関あけたらタコ焼き!」

 エマが感心する。

「タコはないけどな」

「タコがないなら、何をいれるの?」

「テキトウだよ。ウインナーとか」


 わたしたちはアラタのゆるしをもらい、キッチンをゴソゴソとあさる。

「おっ、これよくないか?」

 エマが冷蔵庫からキャンディーチーズを見つけた。わたしはツナ缶を提案する。

「よし。どんどん試してみよう」


 いつのまにかタコ焼きパーティーになった。


 アラタが粉を溶き、玉子をチャッチャとかき入れ、ネギを刻んで混ぜる。

 わたしがそれをホットプレートに流しこむ。

 具材を入れるのはエマとソーサクくんだ。

 ユキコちゃんが揚げ玉をスプーンでまくように入れた。


 それから、みんなでワイワイ言いながら、竹ぐしでひっくり返した。


 アラタが一番上手だ。手つきがいい。アラタは毎日晩ご飯の準備をして、ユキコちゃんに食べさせているのだ。

  

 途中でおばさんが顔を出した。

「あ、おばさん、おじゃましてます」

「あら、いらっしゃい。なんか大ごとになっているわね」

「勝手にごめんなさい」

「あはは、大丈夫よ。アラタ、後片付けはちゃんとしてね」

「ういーす」


 部屋のなかに香ばしいにおいが広がってきた。

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