自分の気持ちを自覚する百合

川木

気が付いた

 ふいに目が覚めた。部屋は真夜中というにはほのかに明るい。ぼんやりと寝ぼけた頭で考える。エアコンの稼働音がする。私が起きたことを察知したのだろうか。ひんやりした風が手に当たる。最近は少しずつ暑くなっていたけど、今日は夜にもエアコンを使用していたらしい。昨日までは寝る前に切っていたのに。

 昨日は確か、お酒を飲みながら映画を見ようとしていたところまでは覚えている。オープニングまでは記憶があるけれど、途中で寝てしまったようだ。ぼんやりと途中で起こされた記憶がある気もするけれど、無事に布団にはいれたようだ。


 天井を見ているとまたうとうとと眠気がやってくる。このまま二度寝をするのがいいだろう。そう思っていたが、尿意がわきあがってくる。どうやら私の体はトイレで起きたらしいと知る。だったらこのまま起きるしかない。目をこすりながら起き上がる。目がなれたので電気をつけなくてもよさそうだ。

 隣を見る。大きめの寝具なので少々動いた程度で起こすほどの振動にはならないだろうが、目を覚ましていないようだ。手早く静かにトイレを済ませる。明かりをつけると部屋にもれてしまうのでつけず、足元を確認しながら移動してトイレに行く。トイレの明かりは普段なら暖色の柔らかな光だが寝ぼけ眼にはとてもまぶしくて顔をしかめながらすませた。手を洗う頃にはすっかり目がさえてしまいながら部屋に戻る。

 できるだけ静かに寝室に戻りドアを閉めて反応はないので、しっかり眠っているようだ。時間は四時半。このまま起きてしまうには早い。起こさないようゆっくりベッドに戻り、隣に目をやる。


 寝ているのは同棲相手の笹垣市子だ。高校生の時に付き合うことになり、それから今までずっと恋人で、社会人になった去年から一緒に暮らしている。すやすやとこちら側をむいて眠っているその顔は緩やかなウェーブを描く髪に半分隠れている。

 冷風が直接当たるのはよくないので腰までめくれている掛け布団を肩まであげようとして気が付く。薄いタオルケットの掛け布団が夏使用の冷感のものになっている。

 自分のもそうであったが、足元まで蹴っ飛ばしていたので全然気が付かなかった。きっと昨日のうちに市子が入れ替えてくれたのだろう。彼女はそういうマメさがある。市子は私だったらおざなりにするような日常のささいなことをしっかりと丁寧にこなしていく。私はそれを気づかないほど自然に受け入れていて、本当にありがたいことだ。


「ん……」


 ついでにそっとその髪をかきあげ、顔にかからないようにしてやると、市子は少しだけ声をあげてほほ笑んだ。起きたのではないだろう。いい夢をみているのだろうか。そうであればいい。

 可愛らしい市子の笑顔に、私まで口角があがってしまう。彼女が私の前で無防備に、心から安らいだように眠っている。その当たり前の事実が何故か心温かくなって、なんだか抱きしめたくなってしまう。本当に、私にとって彼女の存在は大きくなってしまった。とても、とても好きだ。もう、市子がいない日々を想像ができない。そう考えて、胸の中にわきあがる気持ちがあることに気づいた。


「……」


 私はそっと、その気持ちに逆らわずに市子にキスをした。









 私は流されやすい人間だ。子供のころからそうで、あんまり好きじゃないと思っていたものも、人からいやこれはこういうものでこういう理由があってこういういいものなんだよ。と言われると途端にいいものな気がしてしまう。逆もまたしかり。自分の好き嫌いが人の意見でころころ変わる。

 そんな私に親が呆れたように、心配したように言ったのだ。自分がない子だ、と。そうして初めて自分のことを自覚した。私は自分の意志が弱く、主体性がなく、自分がないのだ、と。

 自我が希薄とか、そういうわけじゃないし、主義主張もちゃんとあるのだけど、人の意見を押しとおすほどでもない。事なかれ主義は自分を飲み込むけれど私は自分を抑える必要もなくただただ染まりやすい人間だった。


 そんな自覚から成長して髪を切ったり伸ばしたり、そうするだけの時間があっても私はあまりかわらなかった。中学生になったころから周りの人は恋愛ごとに関心をもつようになったようで、そういう風に人に好かれたり嫌われたりするようになった。友人として好かれる分にはいいけど、恋愛事に巻き込まれるのにはうんざりした。

 私には人を押しのけるような強い気持ちはないようで、人を好きになるというのもぴんとこなかった。告白をしたり、嫉妬して嫌がらせをしたり人を蹴落とすほど誰かを思うというのは自分と無縁なものだと思えた。


 そんな中、高校生になり、小学校からの友人に告白された。それが市子だった。私は市子に正直に、市子のことをそういう意味で好きではないと説明した。これで友情が壊れてしまうかもしれないことは悲しかったけれど、嘘をつくのは好きではなかったから。

 だけど市子は私を説得した。もしほかに好きな人ができたらお互い別れると約束をする。嫌なことはしないし、無理強いはしない。市子と付き合えばほかの人に告白されて嫉妬される煩わしさからは解放される。悪いことなんてない、と。

 それは逆に、私にメリットがありすぎて申し訳ないし、そこまでしてもらっても市子のことを好きになるとは限らない。そもそも人を好きになれるかすらわからない。そう言う私に、それでもいいと市子はいった。

 好きあっていなくても恋人になり一緒にいることはできる。市子を恋愛感情で好きにならなくても、嫌じゃない限り傍にいさせてくれたらそれでいい、と。お見合い結婚だって世の中にはある。人を好きにならないかもしれないならなおさら、一生一人で生きていくのではないなら、いつか家族になる相手として市子を選んでほしい、と。


 そうまで言われて、なるほど、一理あると私は思ったので恋人になった。要するにいつも通り流されたのだ。


 それからずっと市子と一緒にいた。恋人として、手をつないでデートをした。少しずつ市子との親密度があがり、パーソナルスペースが小さくなり、市子とキスをしても不快ではなくなった。肉体的接触を快いものに感じるようになった。

 友人でいた時より市子のことが好きになっていたのは間違いなかった。だけどそれでも、恋愛感情かと言えばわからなかった。キスを乞われるのも嫌ではなく、お願いする市子を可愛らしいとは思うけれど、自分からキスをしたいとは思わなかった。


 きっと私は死ぬまでこのまま理解できないままなのだろうと思った。それでもいいと市子は言ってくれている。私は家族として市子に情を持っている。愛情をもっている。それは間違いないから。

 そう思っていた。


 だけど間違いだった。今、私の胸にわきあがるこの思い、勘違いや間違いではなく、これが恋なのだろう。今、唐突に恋に落ちたわけではない。

 きっともうずっと前から、市子のことは好きだったのだ。ただの好きと見分けがつかなくて、自分でもどこからかわからない。でも今、突然はっきりとわかった。


 市子が可愛くて大好きなのは友情で、市子が大切でいつでも笑顔で幸せでいてほしいのは愛情で、そんな風に思っていた。それがまったく嘘だったわけじゃないだろう。それでもいつしかそれだけじゃなくて、私はちゃんと市子を恋人として思っていたのだ。

 なんだかとても嬉しい。これでいいと思っていて、それでも市子に恋を返せないことを申し訳なくも思っていた。でも、そんな風に後ろめたく思うこともなかった。今思えば、そんな風に思うことこそ、すでに恋が芽生え始めていたのだ。

 もう、なんの遠慮もなく、ただ市子を好きなだけで恋人でいる資格があるのだ。そう思うと心が軽くなったようにも感じられた。


 この喜びを、今すぐ市子を抱きしめてキスして伝えたい。だけどそうすると起こしてしまうだろう。私はぐっとこらえた。そっと市子の隣に寝転がって静かに市子の顔を見つめて、明確になった恋心をしみじみとかみしめながら、朝のまどろみを堪能することにした。









「……うーん」


 目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。目を開けてもそこに市子はいない。どうやら先に起きたらしい。時計を見ると8時前だ。休日にしては少し起きてしまったけど、市子が起きているなら起きよう。

 着替えて寝室を出るといい匂いがした。洗面所に移動しながらキッチンからするはじけるような音を聞き、ウインナーを焼いていることを理解する。

 私だったら朝から包丁を使って火をつけようなんて絶対に思わない。だけど市子は当たり前にそういうことをする。そういうところ、本当に尊敬している。だけどそれ以上に今はこう思う。とても愛おしいと。前から感じていて、言葉にしていなかっただけだ。だけど明確な形になった私の思いは、市子への思いを増幅させているような気さえした。


「おはよう、市子」

「おはよう。起きたのね。もうすぐできるから座って待っていて」


 顔も洗い身支度を整えたところでキッチンに顔をだすと、市子は私をちらっとみてからそういった。ほんの一瞬はにかんだように微笑んだのが可愛らしい。私の顔を見ただけで笑顔になってくれる、その当たり前が幸せだった。


「うん、いつもありがとう」

「え? ええ」


 本当はその姿を抱きしめたくて仕方なかったけれど、調理中は危ないので自重する。ウォーターサーバーから二人分の水をいれておく。そうして席につくと、匂いも相まって急速に空腹が加速していく。

 お腹がなってしまうかもしれない、と危惧しているとそうなる前に用意は終わり、私たちは朝食をとった。本当はすぐにでも気持ちを伝えたい気持ちはあったけれど、だけど寝起きで市子を最初に見た時は勢いがあったけれど、落ち着いたなんだか恥ずかしくなってしまった。

 昨日までの私と何も変わっていない。ただ自覚しただけだ。なのになんでもない今日、改まって好きだなんだというのはなんだか自分だけ盛り上がっているみたいで、いや、事実そうだ。だけど言わないという選択肢はない。私自身に自覚がないだけでいつからかわからないくらい好きだったわけなので、無意識に態度やらで市子が察している可能性もあるけれど、だからって言葉にしなくていいわけではない。


「市子、今日ってなにか予定はあるの?」


 朝食を片づけ、掃除や洗濯を済ませたところで市子がスマホを手にしてちらっと見たので、今だと思い声をかけた。


「え、と。とくにはないけど。何か予定あるの?」

「そう。いや、別に、私から何があるというわけではないのだけど……ちょっと、話があるというか」


 いつもと違う私の態度に思うところがあるのか、市子はすこし表情を固くした。


「なにか、大事な話?」

「いや、そんな大それたことでも……いや、うん、ごめん。とても大事な話だよ」


 ごまかしてしまいそうになって謝る。いきなりで、いまさらで、そんなこと改まらなくても、と市子は笑うかもしれない。でも、私が市子のことを思うこの気持ちを伝えることが、大事な話じゃないわけない。


「そ、そう、なんだ……うん。わかった。じゃあ、ちょっと、そこ、座ろっか」


 市子は表情をさらに引き締め、真剣な顔で私とソファにすわった。それはいいのだけど、いつも以上に寄り添うように密着して座り、私の手を両手で握ってきた。

 もしかしてすごく精神的に弱っていて泣き言を言おうとしているとでも思われているのだろうか? 気遣いはありがたいけれど、正直ちょっと意識してしまうからやめてほしいのだけど。


 市子はじっと私をどこか心配そうに見ている。それを見ていると、早く安心させないと、と使命感にかられる。些細なことはどうでもいい。勘違いさせないよう、はっきり思いを伝えよう。


「市子、今更だと思うかもしれないけれど、私、市子のことが好きだよ。愛してる。でもそれだけじゃなくて、恋もしてる。ずっと前からそうだったけど、気づいてなくて、鈍くてごめん」

「……えっ!? え? こ、恋!?」

「あ、あー、気づいてなかった?」

「き、気づいてるわけないでしょ。ちょっと、えぇ、びっくりしすぎて、夢みたい、というか夢なんじゃ? え?」


 思っていた反応と少し違った。もっと冷静に受け入れられるかと思っていたけど、市子は普通にめちゃくちゃびっくりして、めったに見ないくらい動揺している。

 それに私も驚いてしまう。市子はいつも余裕があってしっかりしていて、私のことを私以上に知っていて、お見通しなのだと思っていた。でもそうではなかった。ということは、私が本当は前から市子を思っていたということも気づいてなかったということだ。

 途端に、申し訳なさがわいてくる。もちろん市子は付き合うとき、それでいいと言っていた。市子は自分だけが恋をしているのだと思ったまま、ずっと私のそばで私を見ていてくれたのだ。もっと早く気が付いて、もっと早く伝えていれば。いや、ここで悲観しても仕方ない。過去のことは仕方ない。問題は、これからどうするか、だ。


「夢じゃないよ。市子のことが好きなんだ。改めて恋人として、私と付き合ってほしい。ずっと市子の片思いにさせてごめん」

「……ほんとに?」

「うん。本当に。今更でごめん」

「っ、うっ」

「……ごめん、今までありがとう」

「バカっ。ま、紛らわしいこと、言わないで」


 市子は涙をこぼした。だけどその涙をぬぐいもしないで、ただぎゅっと握る私の手をさらに強く握った。離さないとでも言いたげに。そんな市子を見ていると私は胸をしめつけられるような気持ちになって、市子に寄り添って片手で市子の肩を抱いた。市子は私の手を離して、縋りつくように抱き着いてきた。

 紛らわしいというのはよくわからない。だけど、傷つけたのは間違いないのだろう。それだけは私にもわかる。


「うん。ごめん。好きだよ」

「ううん。ううん。大丈夫。大丈夫なの。ごめん。私こそ、ごめんなさい。それでいいって言ってたのに。ずっと思ってたのに」

「うん。でも私もそれに甘えすぎてた。だから自分の気持ちにも気づけなかったんだ」


 その髪を撫でながらそう謝ると、ぼろぼろと泣きながら市子は顔を上げた。その一切隠さない姿は私への全幅の信頼を感じられて、私は気持ちのままに市子にキスをした。


「……美穂、好き。ずっと前から、好きだった」

「うん。私も、好きだよ。ずっと前から、そうだったんだ」

「ん……嬉しい」


 市子はそう言って、私にキスをしかえした。

 こうして私は自分の恋心に気が付いて、ようやく市子と両思いになった。







 美穂はいつも優しくて、強くて、私のあこがれだった。それが恋であることに気が付いたのは彼女が告白されているのを知ってしまってからだ。なるほど彼女はいつもすべてを受け入れる。それがどんなに心地いいか、私しか気づかないわけがなかった。

 だから私は彼女に告白した。彼女の友人だったから、どんなふうに言えば受け入れてくれるかもわかっていた。美穂は自分がない、なんて言う。でもそれは間違いだ。


 美穂は自分を持っている。それもとびっきり強くて、ぶれない芯のある自分を。

 だから人の意見を聞いて、自分の意見を変えることができる。どんな主義主張を聞いても心を揺らすことがないから。どんなことにも良い面と悪い面はある。美穂はどんなに自分と違う主張でも良い面は評価して受け入れる。そして優しいから、人の気持ちを尊重する。

 どれだけ他人を優先しても、どれだけ気持ちが変わっても、どれだけ意見が変わっても、どれだけ自分の立場や関係が変わっても、美穂の中にある自分がかわらないから、平気で変えることができる。


 実際、自分がないんだ、なんて風に言いながらも、大して気にせず生きているのがその証明だ。


 そんな美穂のことが私にはまぶしくて、そんな美穂だから、私はずっとあこがれるし、そんな彼女のことを独り占めできることがとんでもなく幸福だった。

 だから本当に、そんな彼女に恋心まで持ってもらおうなんて贅沢は思ってなかったのだ。強い彼女は心がゆらがないからこそ、恋のように誰かに依存をする感情が理解できないのだと思ったし、それでもいいと思った。

 恋ではなくても美穂は情が深い。無理にでも傍にいて、家族同然になれればそれでよかった。美穂は実際、恋人という関係なのは本当だからと、私がのぞむままの関係になってくれた。私が求めれば、キスだってなんだって受け入れてくれた。そうする相手が世界で私だけなら、たとえそれが恋でなくても構わない。


 それがまぎれもない事実だったはずなのに。私は美穂の告白を聞いて、どうしようもない喜びで支配された。


 正直、そんなことは全く想像もしていなくて、改まって話があるなんて言うから、別れることにつながるのじゃないかと危惧した。だからもしそうなったとき、ソファに押し倒して拘束して何とかならないかと思ってとりあえず心の準備だけして話を聞いた。だけどそうではなかった。

 嬉しくて、涙が止まらなくて、私は心の底に押し込めていただけで、本当はそれを望んでいたのだとわかった。そして分かった瞬間叶ったそれに、嬉しくてたまらなかった。


 そんな私に、美穂は優しくキスをしてくれた。それは美穂の恋の証明だった。

 美穂は今までずっと、私に応えるばかりで、自分から私を求めてくれたことはなかった。だからこそ、美穂の気遣いや勘違いでもなんでもなく、事実として美穂の思いもまた恋なのだと言う証明に他ならなかった。


「……美穂、好き。ずっと前から、好きだった」

「うん。私も、好きだよ。ずっと前から、そうだったんだ」

「ん……嬉しい」


 私は美穂にキスをした。それは今まで何度もして、だけどそれ以上に気持ちのいいキスだった。


「……ふふ。おかしいね。もう何年も付き合ってるのに」

「ん。でも、こういうこともあるよ」


 同棲までして、休日の朝から。確かに最初に美穂が言ったように今更だ。だけど美穂はいつも通り、何でもないようにそれを受け入れてくれた。うん、うん。私もそう思う。私と美穂の関係においては、今更なんてことない。今から始まるんだ。


「ねぇ、今日、予定ないでしょ? デートしようよ」

「うん、そうだね。市子、したいことある?」

「なんでもいいよ」


 美穂は何も変わらない。いつも通り優しくて、何でも受け入れてくれる。美穂本人が言っていた。今までもずっと、気づいていないだけで好きだったと。本当にそうなのか、わからない。でも少なくとも今、私を見つめる瞳もその声音も変わらないように感じる。

 ただ、美穂の告白があったからか、私はそれ以上に感じられた。これもまた、私が思っているだけだろうか。


 そして一日、両思いとして過ごした。それだけですごく幸せだった。でも、私は昨日までだってすごく幸せだった。それ以上の幸せなんてあると思ってなかった。なのに今、私はそれ以上の幸せを知ってしまった。

 だったら、これ以上だってあるはずだ。これを失わないよう、それだけじゃなくもっともっと幸せになれるよう、私は努力しなきゃいけない。


「ねぇ、美穂。私のこと、好きって思ってくれるならさ……あの、その……」


 両思いの恋人になれただけで幸せだった。でももっと、私は幸せになりたい。美穂が私を求めてくれたからこそ、そう望んでしまう。

 だから夕飯を済ませ寝る前に恋人として過ごして、あとは寝るだけと言うタイミング。心も体も満たされた今、言おう、と思ったのに、私の言葉は出てこなくて、さすがに今日の今日だとちょっと急だしもう少しタイミングを待とうかなとか、そんな風に考えてしまって口を閉じてしまった。


「……市子、今すぐじゃないけど、結婚しようか」

「えっ」


 今日は、美穂に驚かされてばかりだ。だけど、ちっとも嫌じゃない。美穂はいつでも、私の気持ちを受けいれてくれるから。





 おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自分の気持ちを自覚する百合 川木 @kspan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ