第6話 兄弟

「急げ!また魂が消えてしまうぞ!」

フランスの夜空にて、三人の騎士天使アークエンジェルたちは大急ぎでどこかへ向かう。

どうやらまた自殺した人間の魂が現れたそうだ。

しかし、自殺した魂が消えるという出来事が起こってから、騎士天使たちは前よりもその魂を助けることに専念していた。

「場所はルーランの一軒家。自殺をしたのは十分前だ。」

「今なら、まだ間に合う!」


騎士天使たちは目的地につき、急いでドアを開けて家の中へ入り込む。

電気も何も付いていない。真っ暗な部屋だった。

そして、微かにがする。

「上だ!」

騎士天使たちはすぐに二階へ向かう。そこには、

「くそ…!遅かったか。」

自身の手で胸に包丁を突き刺し、血溜まりの中で倒れている男の死体があった。

「魂はもうないのか!?」

「魂が消えると白い煙が出るはずだ…でも煙なんてない。もう手遅れだ。」

その時、一人の騎士天使が背後に何かを感じ、後ろを振り返る。

何もないが、警戒するべく周りを見渡す。

数秒後、騎士天使はその気配の正体に気づき、指をさす。

「おい…あれって…!?」

それはすぐに消えたが、騎士天使たち、いや、天使たちなら知っていない者はゼロだ。


何故ならそこには、レギオンが浮遊していた。




「ジャンヌちゃん!ちょっと手伝って!」

「は、はい。」

ルポの店員としてジャンヌがここに働きにきて二日目。リタやエンゾの他にも、

ルポの店長である初老の男性、モアメドがジャンヌにパンの作り方などを一から教え、そして今日はいつにも増して客が多いので、大忙しだった。

「若いってのは頼りになるねぇ。」

モアメドがボソッと呟く。それを聞いたエンゾが、

「あはは…結構バタバタしてる感じですけど…」

「それでも、店員が増えるのは嬉しいこった。それに、顔も悪くないし、体も…」

「…狙ってます?」

「仕事の時間だ。」


(こ、これが…人間の労働力…!でも…悪魔と戦うのに比べたらこの体力は…)

昼休憩中、ジャンヌとリタは別のカフェで一服していたのだが、ジャンヌは初めて人間の仕事の大変さに気づき、呼吸を荒くしていた。

「お疲れ様。良い仕事するじゃん!まぁ会計の時は結構手こずったらしいけど…。」

「すごく、大変でした。でも、ルポで働くのが気に入りました!現代についての良い勉強ができて、エンゾさんもモアメドさんも良い人でしたし。」

「そりゃ良かったよ。これからもよろしくね!」


「うむうむ。良い感じだなぁ。」


今の声は、ジャンヌでもリタでもなかった。

二人が座っていた席の後ろからその声が聞こえ、二人は後ろを振り返る。

黒いジャケットに黒いサングラス、そして髭面のスキンヘッドの男性が立っていた。

ジャンヌとリタは二人で顔を見合わせた後、こう叫んだ。

『不審者!!』

「違う違う!ジャンヌは会ったことあるだろう!ほら、私

「のだね…?」

聞き覚えのある特徴的な喋り方にジャンヌは一人の人物を思い出す。いや、それは

人物ではなく、使と言ったほうが正しい。

「え?もしかして…ガルガーリンさん!?」

「そうそう!やっぱりジャンヌはわかってくれるのだね!さすが聖女と呼ばれた程なのだねぇ!!」

ガルガーリンは泣きながらジャンヌに抱きついた。

「苦しい…ちょっとだけ…臭い…。」

(天使って加齢臭すんの…?)

リタがそう思った時、ガルガーリンはジャンヌを放した。

「おっと失礼。私もお邪魔するのだね。」

彼は空いている席に座り、店員にコーラを注文する。

一見すると強面の男性だが、中身は騎士天使の中でも強力な存在である上位天使四人集の一人だ。

リタはガルガーリンに問う。

「えっと、なんでアンタ人間の格好してるの?」

「天使だってたまには休憩が必要なのだね。でもそのままの格好で行くわけじゃなく、人間の姿になって下界に降り立つのだね。ケルヴィも今日は日本へ降りたような気がするのだねぇ。」

「アンタ人間の姿はそんな感じなの?」

「これぞ私のオシャレなのだね!」

「あ、はい。」

「でも、」

今の一声でガルガーリンの表情は真剣になった。

「今回君らのところに来たのは、休憩だけじゃないのだね。」

ジャンヌはそれを聞いて緊張感が走る。


「ジャンヌ。今夜は天界に来るのだね。少し大事な話があるのだね。」



その夜、ジャンヌは天界にやってきて、宮殿を訪れる。

「ジャンヌ・ダルク氏。お久しぶりです。」

騎士天使たちと挨拶を交わした後、ジャンヌはセラフとガルガーリンがいる部屋に向かう。

「ジャンヌ・ダルクです。」

「おお!入るのだね。」

部屋に到着したジャンヌは早速部屋に入る。

「失礼しま…」

その部屋には、セラフとガルガーリンの他に後一人、見知らぬ長髪で銀色の肌の男性がいた。

「こんばんわ。ジャンヌ・ダルク。すみませんね。こんな夜遅くにお呼び出しをしてしまって。」

「い、いえ。それよりも、この人は?」

「あぁ。彼は“イシュタム”。ジャンヌは初めて見るでしょうが、

彼はの一人です。」

「え!?」

彼女は驚愕する。何故なら今目の前に、本物の神がいるからだ。

前にセラフから神の話があったが、本当に出会うとは思わなかった。

イシュタムという神はジャンヌに握手を求めてきた。

「貴女がかのオルレアンの少女ですか。神の声を聞いたという。」

「…はい。」

「メルカバーになり、悪魔退治に手を貸してくれることを誇りに思います。改めて、私はイシュタム。今回の自殺した魂が消える現象の調査を協力することになりました。」

「ど、どうも!」

ジャンヌはイシュタムと握手を交わすと、セラフが口を開く。

「早速ですが、本題に移りましょう。今日の昼もまた、世界各国で突然自殺した魂が十三人、その中に一人、気になる人物がいましてね。」

今度はガルガーリンが口を開く。

「ジャンヌ。私は今日の午後に、君が働いている店に寄ったのは覚えているのだね?」

「はい。来てくれましたよね。」

「そこに、エンゾ・フォーレという男性が働いているのは聞いたのだね。これは彼に関係することなのだがねぇ。」

「彼が、どうしたんですか?」



「彼の弟が自殺した。」



「…そんな…!?」

「残念ながら、これは間違いないのだね。昨日の深夜、騎士天使たちが身元を確認したところ、ヤニック・フォーレ。エンゾくんの弟で間違いがなかったのだね。

そして、彼の死体の付近でレギオンが発見された。

おそらく、付近に悪魔がいたのだね。」

「…」

「ジャンヌ。エンゾくんに、弟のことを聞いてくれるのだね?少し、辛い気持ちなのはわかるが、これは、この現象を解決するための進歩でもあるのだね。」

ジャンヌは少し黙った後、すぐに頷いた。

「わかりました。では、明日そのことについて、彼と話そうと思います。リタさんにも協力してもらおうと思います。人数が多い方が安心するので。」

その言葉を聞くと、セラフとケルヴィは頭を下げた。

「ありがとうございます。」

その直後、セラフは一枚の小さな紙を彼女に渡す。

「これは?」

「ヤニック・フォーレの住所です。時間があればそこに行ってくださいませんか?おそらく、近隣の住民は彼が死んでいることに気づかず、通報していない可能性があります。

それに、レギオンも目撃されているので、その付近に悪魔が現れる可能性もあります。」

すると、イシュタムが彼女を呼びかける。

「ジャンヌ・ダルク。」

「え?あ…」

「頼りにしていますよ。」

ジャンヌは神からこう言われたことに嬉しさを感じ、頬を赤る。そして、自信満々にお礼を良い。頭を下げた。


ジャンヌが下界に戻った後、他の三人は話し合っていた。

「どうするのだね。もしあの住所に行って悪魔と対峙することになったら。」

「えぇ。この件については、ヴァーチさんにも協力要請を出しています。彼にもジャンヌ・ダルクのことは伝えているので。彼女の身に何かあれば、向かわせます。

彼のなら、天使の中でも上位の方なので。」

セラフがそう言い終わった後、イシュタムが口を開いた。

「セラフさん。関係ないお話なのですが、少し良いですか?」

イシュタムは何かを問う。だが、セラフは首を横に振った。

「そうですか。ありがとうございます。では私はこの後用事があるので、これで。」

「了解しました。引き続き、ご協力お願いします。」

上位天使の二人はイシュタムが退室するまで頭を下げ続けた。そして、彼が部屋から出ると、セラフはボソッと呟く。



「何故、彼がの事を?」



「行ってらっしゃーい!」

キュリオが手を振り、リタとジャンヌを乗せた車を見送った。ジャンヌはキュリオに向けて手を優しく振った。

「ジャンヌちゃん。」

リタは静かな声でジャンヌを呼んだ。

「エンゾくんの事なんだけど、本当なんだよね。」

「…はい。」

「仕事が終わった後ね。」

「…ありがとうございます。」



その放課後、店ももうすぐ閉まる時間帯だった。

エンゾはルポの外で、一人ぼんやりと夕焼け空を眺めていた。

暖かく、だが少しだけ冷たい風に当たりながら。

「今夜、あいつの家に顔出してみるか。」

そう言った瞬間だった。

「エンゾくん!ちょっと良い?」


三人は準備室にいた。いきなりの出来事なので状況が読み込めず、エンゾが問う。

「どうしたんですか大事な話って。ジャンヌさんまで一緒で。」

少しの沈黙が流れた後、ジャンヌは口を開いた。


「…弟さんの事について、教えてくれませんか?」


「…え?」

「すみません。確かに急な出来事で、びっくりする気持ちもわかります。」

エンゾは顔を下に向いて、そのまま何も言わなかった。

「エンゾくん…。」

リタが呼びかけると、彼は顔を上げた。

「俺の弟は、ヤニックはすごく明るいやつでした。」

彼はそのまま、弟のことを話し始めた。

「鈍臭くて不器用な俺とは違って、あいつは明るく、文武両道で、学校でもモテてたんです。ヤニックはこんな俺のことを大切に思ってくれて、漫画家になる夢を全力で応援してくれました。実は、パンの作り方も最初はドがつく程の下手でしたが、

家でヤニックが手伝ってくれて、今ルポでパン作りができているのも、あいつのおかげでした。でも…」

「でも…?」

「あいつは二十歳になった時、会社に就職したんです。でも、ここ最近、

。」

それを聞いた時、ジャンヌの心臓はキュッとなった。リタも既にジャンヌからそのことを教えられたため、心が重くなってしまった。

「きっと、風邪だと思うんです。あいつは一週間前ぐらいはメールで下ネタ言いまくりでしたし。

そうだな。俺、この後、あいつの家に行こうと思います。もしよかったら、一緒に行きませんか?あいつには、リタさんやジャンヌさんを紹介しようと思いますし。」

「…良いかな?」

「全然オッケーです!俺はもう行きますんで。じゃあ、また後で。」

そう言って、エンゾは椅子から立ち上がり、ルポから出ていった。

「ジャンヌちゃん。大丈夫?」

「…はい。行きましょう。」

ジャンヌは、改めて知った。

兄弟の暖かさと言うものを。



エンゾはバイクに跨り、ヘルメットを被ってそのままバイクを走らせた。ジャンヌとリタも車に乗り、エンゾを追う。

それを上空からがいた。

「あれが、ジャンヌ・ダルクか。なるほど。彼女の身に何かあれば、彼女を助ける感じか。完璧だな。」

青い翼からバチバチと青い稲妻を走らせながら、ヴァーチは独り言をぶつぶつ呟く。

「ふふふふ!セラフ様から直々に指令をくださるとは!僕、感激!」

そう言って、ヴァーチは青い稲妻を走らせ、ジャンヌたちの跡を追いながら羽ばたき始めた。


それから数分が経ち、ジャンヌはセラフから貰った紙を見る。

「おそらく、この先を真っ直ぐ進んだらヤニックさんの家に着きます。」

「了解!」

そのままリタは車を走らせた。だがその時、


「オオオオオオオオオ」


幻聴ではない。気味の悪い叫び声が聞こえた。

「今の何!?」

リタがそう言うと、ジャンヌは窓の外を見る。とある一軒の家の屋根にを見つけた。

おそらく、この叫び声の正体だ。そして、リタは急ブレーキをかける。

「ジャンヌちゃん…!これって…!」

ジャンヌは次に前を見ると、そこにはあたり一面にが溢れているのが見えた。

その煙から、ロバやヤギの頭をした人型の何かがゾロゾロと現れる。

「悪魔…!」

ジャンヌとリタは車から降り、トランクの方へ向かった。

「持ってきて正解だったね!」

リタはトランクを開ける。そこには、ジャンヌの鎧が入っていた。

彼女は急いで鎧を身につけ、シュプリームを手に取った。そして急いで悪魔の前に走り、シュプリームを構える。

「リタさん!私が悪魔を惹きつけます!その隙に…」

「その必要はない。」

頭上から謎の声が聞こえたと同時に、ジャンヌの目の前にが走った。

「キャアッ!!」

二人は思わず目を閉じ、再び開けると、目の前には、青い肌を持つ天使がいた。

「ジャンヌ・ダルクだね?僕は騎士天使のヴァーチ。君は彼のところへ行くんだ。ここは僕がやる。」

「騎士天使の方ですか!ありがとうございます!」

「良いかい?僕が目の前の奴らに攻撃を与えて道を開ける。君らはその隙に彼のところへ向かうんだ。」

二人は頷き、すぐに車に乗った。ヴァーチは背中に背負った大剣を引き抜き、構えた。



。“エクリッツ”。」



彼がそう言った瞬間、大勢の悪魔に向けて大剣を振り下ろす。刹那、そこに青い稲妻が悪魔に向けて落ちる。

ギャギャギャギャと音を立て、悪魔たちが青い光に包まれる。光が消えていくと、そこに悪魔の姿がなかった。

「…すごい…!」

それを見ていたジャンヌは彼の力に凄さを感じ、驚愕していた。

だが、悪魔はまだまだ増え続ける。

「今だ!行けぇ!」

ヴァーチの一声で、リタは車を走らせた。彼女らはそのままエンゾを追う。

今の悪魔たちで確信した。自殺した魂が消える現象は、悪魔が絡んでいると言うことを。


(今あの人、って…)



彼女らが悪魔と対峙している時、エンゾはもう、ヤニックの家に到着していた。

「リタさんたちまだかなぁ。もう先にお邪魔するか。」

エンゾはそのまま家のドアをノックした。

「おーいヤニック!俺だ!兄貴だよ。遊びに来たぞ。」

エンゾはノックをしても、返事は返ってこなかった。

「ん?」

彼はドアの鍵が空いてることに気づいた。

「空いてる?あー、入るぞー。」

エンゾはそのまま、家の中に入った。入る直前、彼の背中にのような物が一瞬だけ現れる。

「うわ暗!おーい!お前マジでどこにいるんだ?」

そのまま靴を脱ぎ、部屋の中へ上がる。玄関も、リビングもどこも電気がついていなかった。

二階へ上がろうとした瞬間、リビングのテーブルに一枚の紙が置いてあるのに気がつき、そこに歩み寄り、紙を手に取った。

「…なんだよ…これ…!」

辛い辛い辛い辛い辛い ひたすらその文字が紙いっぱいに書かれていた。

「まさか…!?」

エンゾ何かを察し、階段を大急ぎで登る。

「ヤニック!!おい!!は…」

気がつけばエンゾは、頭を押さえながら叫んでいた。目の前にある弟の無惨な死体。現実じゃないと心の中に訴え続ける。

「さ、覚めろ…覚めろ!!俺の目ぇ!!」

エンゾは自分の顔を殴り続けた。

「これは悪い夢なんだ!!現実じゃないんだ!!起きろよエンゾ!!目の前にいるのがヤニックなわけねぇだろう!!」

だがもう、一つの結論がその訴えを無視した。

これは、現実だ。

その時だった。


シィィィィィィィッ


その音が部屋に響いた瞬間、エンゾの瞳孔は開き、ヤニックの死体が持っていた包丁を手に取り、そしてそれを胸に突き刺そうとした。

だが、包丁を持っていた手を何者かが押さえた。

「エンゾさん!ダメです!それをすぐに放して!」

止めたのはジャンヌだった。彼女は力づくでエンゾの手を引っ張り、包丁を捨てさせた。それと同時に、背後からレギオンが現れ、叫び始めた。

(まずい!)

エンゾは気絶している。悪魔が来ないうちに、彼女はエンゾを担ぎながら家の外を出た。

「ジャンヌちゃん!」

「リタさん!エンゾさんをお願いします!私はこれから悪魔と戦います!できるだけ安全なとこ…」


きしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああっ


それは、桃色の肌を持ち、背中には複数の棺が刺さり、人の形に似た舌を持った三つ目の巨大なが頭上でジャンヌたちを見つめていた。

大蛇は咆哮すると、空の中へ消えていった。そしてその空の一部は黒くなった。

これは前にマクスウェルと戦った時と同じだ。

「っ!?」

ジャンヌはある気配に気づいた。あの蛇の背中にある棺に、ような気配がそこにはあった。

「もしかして…人の魂は、あの棺の中にあるってこと…!?」

「となれば、早々に片付けるしかなさそうだね。」

ジャンヌは頭上を見ると、家の屋根にヴァーチが立っていた。

「ジャンヌ・ダルク。ここは僕も協力する。こいつを倒すぞ。」

ジャンヌは意を決して頷く。すると、

「何がどうなってるのかわからないけど…あいつが…ヤニックをおかしくさせたんだな…?」

「エンゾさん…!もしかしてあの蛇が見えるんですか!?」

「あぁ…!見えるよ!」

ジャンヌは腰の鞘にあるシュプリームに触れ、エンゾに言う。

「あとで色々説明します!エンゾさん!ヤニックさんを助けたいという思いを、私に

!?」

ジャンヌはエンゾに手を差し伸べる。彼は何がどうなってるかわからなかったが、今はともかく、ジャンヌに頼むしかなかった。

「頼む!!弟を助けてくれ!!!」

エンゾは涙を浮かべながら、ジャンヌの手を握る。彼女はエンゾに優しい笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!私に思いを託してくれて。」

ヴァーチは先に黒い空の一部を切り裂き、中へ入ろうとしていた。

「準備が出来次第、すぐにここに来るんだ。」

そう言って、ヴァーチは先に中へ入った。

彼女の腰にあるシュプリームは光っていた。

「ジャンヌちゃん!頑張って!」

リタがそう言うと、ジャンヌは飛び立ち、屋根の上まで立つ。そして最後にリタとエンゾを見て手を振り、すぐに大蛇のいる黒の中へ飛び込んだ。


(この思い、無駄にはしない!)



ジャンヌが降り立ったのは、黒い塔の上だった。

藍色の空からは冷たい雨が降り注ぐ。周りを見渡せば、ジャンヌと同じ黒い塔ばかり、塔の一番下には、人々が首を吊って死んだ死体が星の数ほどあった。

「ジャンヌ・ダルク!」

ヴァーチはすぐにジャンヌのいる方へ向い、そして着地する。

「ヴァーチさん!あの蛇も悪魔の一種なんですよね?」

「間違いない。“ウァント”と呼ばれる大蛇の悪魔だと思う。でもあいつは、本来背中に棺なんてない。おそらく、なんらかの影響で変異したか、他の悪魔の力を借りたかのどちらかだろう。そいつが人間を自殺させる能力を使うなんて話、聞いたことないからね。」

(まさか…!)

ヴァーチの言う他の悪魔からの力を借りたと言う発言で思いつくのはただ一人。

だ。

「彼女なら、やりかねないわね。」

「気をつけろ。ウァントはただのでかい蛇の悪魔じゃない。奴は…」

彼が何かを言おうとした瞬間、塔が何故か崩れ始めた。だが、ジャンヌたちがいる塔だけではなく、前にある塔が次々と崩壊していく。

「まずいな!」

ヴァーチはジャンヌに向けて指をさすと、そこから青い稲妻が現れ、彼女の背中に向かって飛んでいく。

「君は飛べないだろう。それが翼の役割となる!」

ジャンヌは試しにジャンプをすると、彼女の背中から青い翼を模した稲妻が現れた。

塔が完全に崩れ落ち、足場がなくなると焦るが、稲妻のおかげか、自分は今浮遊している。

「ありがとうございます!ヴァーチさん!」

「あぁ。それより奴が来たぞ!」

崩れ落ちた塔の瓦礫の中から巨大な何かが飛び出して来た。

「キシャアアアアッ」

周りを見渡しても何も見えなかったが、声のする方を見る。

だが、今目の前にはウァントがいるのだった。

正面から見るとその大きさが驚異的で、ビルほどの巨体が特徴的だ。

ジャンヌはシュプリームを鞘から抜き出し、手を剣先に当て、そこから光を集めた。

光技を使い、ジャンヌは剣先に光を集め、シュプリームを振るう。

剣先から三日月状の光がウァントに向けて弾丸の如く飛んでいく。

だが、ウァント上に向かって泳ぐように移動した瞬間、姿が消えた。

光も命中しなかった。

「え!?」

「油断するな!奴はを持っている!」

その瞬間、ウァントの声が背後から聞こえ、急いで振り返るが、ウァントの尻尾が目の前まで来ていた。

だが、ウァントの腹部に何かがぶつかり、尻尾はギリギリのところで当たらなかった。

ヴァーチがエクリッツを使い、攻撃を繰り出したのだ。

「ごめんなさい…!」

「大丈夫だ。次の攻撃が来る。用心するんだ!」

ヴァーチはそう言って飛翔し、エクリッツを振り下ろしながら稲妻を放っていた。

「もし奴が姿を表したら舌を切るんだ!そうすれば透明化を無力化させることができる!」

またもう一度ウァントが現れ、ヴァーチを丸呑みするべく大口を開けて襲いかかった。

回避。そして稲妻を腹部に向けて放つ。命中したが、全く効いた気がしない。

ジャンヌはウァントがいる方向へ急降下した。

「おい!何する気だ!」

「ウァントの姿が出ているうちに、背中に乗ります!そしてもう一度口を開けるか、姿を現すかのタイミングで舌を切り落とします!!」

「危険すぎるぞ!!」

「それでも私はやります!私は思いを託されてます。どんな危険な目にあう覚悟なら、にできている!!」

そう言ってジャンヌはウァントの背中に乗ることに成功した。

「完璧…いや、少し無謀か?だが、今は奴を倒せばそれでいい!ジャンヌ・ダルク!僕が奴の注意を引く!姿を表した時がチャンスだ!!」

ウァントの透明化が始まった。捕まっているのは虚空だが、今自身が手に掴んでいるのはウァントの鱗で間違いない。

透明状態でもジャンヌは少しづつ頭部へと進んでいった。

だがすぐにヴァーチを見つけると姿を表し、ヴァーチに襲いかかった。

その隙に彼がウァントの口に向けて稲妻を放った。

ウァントの稲妻を含んだ口は暴発し、奴は一度動きを止める。

「今のうちだ!」

ヴァーチの掛け声と共にジャンヌは頭部目掛けて走る。

(もう少し!もう少しだ)

そして、ジャンヌは遂に頭部まで辿り着き、そして、

「はぁ!!」

シュプリームで舌を切り落とした。

「でかしたぞ!!」

これで透明化は無力化する、かに思えた。

「え?」


ジャンヌの前から、ウァントの姿が消えていた。

(消え…)

キシャアアアッと鳴きながら彼女の背後に、ウァントが大口を開けていた。

だが、ジャンヌは危機一髪で光の玉をその大口に叩き込んだ。

その衝撃か、ウァントの口にある二本の牙が折れた。そしてもう一度透明化を使い、姿を消す。

「どういうことだ!?何故舌を切っても能力を使えるんだ!?」

降り注ぐ雨の中、ウァントはいきなり姿を表し、咆哮した。

そして、奴の大口から紫色の光が集まり始める。

(これもウァントが使うはずない!変異種にしても強力すぎる!これは…)

そして、ウァントはヴァーチに向けて口を開けると、突然、口の中の光が消える。

次の瞬間だった。


ドゴォンッ


轟音と共に、隕石のような速さで紫色の球体がヴァーチに向けて飛んできた。ヴァーチはエクリッツを構えたが、防御できる隙もなかった。

だが、何者かがヴァーチにぶつかり、紫の球体を回避することに成功した。

二人は地面に叩きつけられる直前に、ヴァーチが地面にエクリッツを突き刺し、着地する。

どうやら、ジャンヌがヴァーチを庇っていたらしい。

その証拠に、あの紫の光に当たった彼女の鎧は、もうボロボロだった。

「…情けないね。僕は。」

ジャンヌを地面に優しく寝かせ。そのままエクリッツを構える。

「ジャンヌ・ダルク。君のその勇姿、間違いなく完璧だ。」

エクリッツを下に叩きつけると、そこから青い稲妻が雨の如く落ちる。



「完璧に終わらせてやる。」





続くなのです!(私、出番なかったのです…(泣)b yド・ミニオ)

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