第7話 大蛇を討て

「リタさん、これ、現実なんですよね。」

二人は安全のために車に乗っていた。

エンゾは運転席にいるリタに問う。

「間違いないよ。私も最初は信じられなかった。天使も悪魔も、神様も本当にいたんだ。」

「…ジャンヌさんは、何者なんですか?」

「天国からフランスに戻ってきた、ジャンヌ・ダルクよ。」


「…マジ?」


ヴァーチはこの雨の降る暗い空間を飛び続け、ウァントが姿を見せたらそこに青い稲妻を打ち込む。

透明化の無力化は失敗した。ただひたすら遠距離攻撃を続けて、他の策を考えるしかなかった。

「キシャアアアッ」

「このっ!!」

ウァントが飛びかかる直前に回避し、腹部にエクリッツを振り下ろす。

攻撃は命中し、ウァントの腹部の大きな切り傷から紫色の血が吹き出す。

(攻撃は与えたが、まるで平気じゃないか…!変異種とはいえ、これほどとは…。)

ウァントの姿がもう一度消える。その隙に、ヴァーチは背後に向けて稲妻を放った直後、猛スピードでジャンヌの方へ向かう。

「ジャンヌ・ダルク!無事か!?」

ジャンヌはその声を聞くと、ふらふらになりながらも立ち上がった。

鎧は完全に使い物にならなくなり、もう着れる状態ではない。

「大丈夫です…!私はまだ…!」

「その鎧は君の戦闘服だろう?もう使い物にならない。君は今すぐ避難…」

「いえ…私は戦います。」

「でも…!」

その瞬間、ジャンヌはヴァーチの手を握る。

「私はメルカバーです…!それに私は…思いを託されたんです!」

彼女の目を見たらわかる。これは本気だ。天使とは違う、人間の暖かさと意志の強さがその目に映っていた。

だが、彼女の目に大蛇が大口を開けている様子が映った時、ヴァーチは咄嗟にジャンヌを抱えて大蛇の攻撃を回避する。抱かれながらもジャンヌはウァントの背中に向けて光技を放った。

光の玉はウァントの背中に刺さった一つの棺に命中する。

(あれは…!?)

ボロボロと崩れ落ちる棺の中から、白く光る謎の物体が見えた。

やがて、その物体はへと変貌した。

直後、ウァントが突然叫び出した。

「何をした?今、光技を放ったみたいだが…。」

ジャンヌは何故か笑みを浮かべていた。湧き出てくるのは、自信と勝機。

「ヴァーチさん。私たち、この戦いは勝ちます。」

それを聞いたヴァーチは少し驚いたが、彼も口角を上げる。

「何か、があるのか?」

彼女は頷く。「完璧だ。」とヴァーチが言うと、二人の周りに青い稲妻が落ちた。



キシャアアアアアアアッ

ウァントが咆哮しながらジャンヌの方へと襲いかかる。ジャンヌはそれを回避し、直後、背中にある棺に向けて光の玉を三発飛ばした。

三つのうち、二つが棺に命中する。そしてウァントが叫び始めた。

彼奴が透明化を始める。二人にとってこの透明化はとても厄介だ。だが、

「そこか!」

ヴァーチがエクリッツを振り、青い稲妻を虚空に向けて放つ。だが、

その虚空から、蛇の鱗のようなものがうっすらと浮き出ていた。

青い稲妻はそこに命中すると、ウァントの姿が浮き出てきた。彼奴の体は稲妻の影響で麻痺していて、身動きが取れなくなった。

「君の読み通りのようだな。どうやらこのウァントの透明化のトリガーは、舌ではなく、らしい。破壊すれば破壊するほど、透明化の力は弱くなっていく。

「棺を破壊する度に叫び始めるのは、急所である証拠!」

そう言って、ジャンヌはウァントの背中に乗り、シュプリームを使って次々と棺を破壊していく。

棺から魂が出てくるのをヴァーチが目撃し、

「おーい。君そこから離れたほうが良いよ。」

その魂にヴァーチは呼びかけるが、魂はずっと下を俯いたまま黙っていた。

(全員自殺した魂だから、こちらに気づくことはないか。強引な手だが、すまない。)

ヴァーチは魂を抱き抱えて、飛翔した。一方、ジャンヌはついに、最後の棺を壊した。

出てきたその魂の姿は、どことなく、エンゾに似ていた。

「もしかして…この人が…。」

エンゾの弟、ヤニックだった。するとヴァーチがやってきて、ヤニックを抱き上げる。

「あとは、トドメを刺すだけだな。どうする?君がやるかい?」

それを聞くと、ジャンヌはエンゾの言葉を思い出す。


「頼む!!弟を助けてくれ!!!」


シュプリームの刃が白く輝き、彼女の周囲に白い光の玉が浮遊する。

「はい。私は、託されたので。」

「わかった。だが奴の光線には気をつけろよ。」

そう言って、ヴァーチはヤニックを連れて飛び去った。刹那、ジャンヌの背後からウァントの咆哮がこの空間にこだまし、ジャンヌの頭上から彼奴の尻尾が襲いかかる。

彼女は腕を横に振るうと、尻尾に向けて光の玉を命中させ、尻尾が地面に着く寸前に回避した。

ウァントは大口を開けると、そこから紫の光が集まり始める。

を撃とうと力を溜めているのだ。

それを察したジャンヌはできるだけ遠くに離れようとするが、光線の準備はもう整っていた。

ウァントの口からジャンヌに目掛けて咆哮と共に光線が放たれる。

黄泉はジャンヌを捕らえ、命中したかに思えた。

だが、その光線を、青い稲妻が押し返していた。

「全く、変異種のウァントというのはここまで元気なのかい?」

「ヴァーチさん!」

ヴァーチはエクリッツの剣先から放たれる青い稲妻で光線を防いでいた。

「この光線、威力は強大だが、大したことないじゃないか!!今のうちだ!」

そう呼びかけた時には、ジャンヌはもう飛翔していた。

シュプリームは白く輝き、持ち手を力強く握る。彼女の腕から光が溢れ、それらはジャンヌの体を活性化していく。そして、

「はぁぁぁぁ!!!」

シュプリームの影響で強大な力を得たジャンヌは、ウァントの体を斬りまくる。

ウァントの叫び声と共に、紫色の血飛沫が飛び、ジャンヌの体へ降り注ぐ。だが彼女はそれを気にせず、ただひたすら大蛇の体をぶつ切りにしていく。

光線は消えていき、ウァントは口から紫色の血を吐き出し、絶命した。

「はぁ…はぁ…」

彼女の背後にあるウァントの骸がジリジリと消えていく。シュプリームを鞘に納めると、ジャンヌは膝をついて座った。

「よくやったね。メルカバー、ジャンヌ・ダルク。」

ヴァーチが拍手をしながら歩み寄る。

「大丈夫?立てるかい?」

彼はジャンヌに手を差し伸べる。ジャンヌはヴァーチの手を取って立ち上がった。

「あの…自分でもびっくりしてるんです…。であの巨体を切り刻めるなんて。あんなに大きかったら、せめて私は両手で力を入れなければ切断できないと思います…。」

さっきの出来事でジャンヌは、自分でも驚く程の怪力を持っていた。

おそらくあの力は自身が悪魔化した時にしか出ないだろう。

ふと、ヴァーチは言う。


「君のその剣、確かなんだろう。」


「え?はい。」

「確か、あの大天使ガブリエル様からもらったっていうね…!僕はまだ会ったこともないのに…!羨ましぃ…!!」

嫉妬の表情を浮かべるヴァーチだったが、すぐに元に戻る。

「至宝剣シュプリーム。相手から思いを託されて、持ち主を強くする能力を持つ。

エンゾ・フォーレから思いを託されたんだろう?それが君の体を活性化させたんだよ。」

それを聞くと、ジャンヌは安堵の表情を浮かべた。エンゾから託された、弟を助けて欲しいという思いが無駄にならなかったと言うことだ。

「その、ヴァーチさんの剣も、至宝剣なんですよね。」

「あぁ。元々は普通の大剣だったが、ある日その剣に雷が落ちた。」

「雷が落ちたって…」

「野原で素振りをしていて、少し休憩をしようとエクリッツを置いて座り込んだんだ。ふと空を見ると雨雲で、雨が降りそうだから帰ろうと思った瞬間、エクリッツに向けて雷が落ちたんだ。だが、不思議なことに、この剣は雷を取り込んで、稲妻のようなものを操れるようになった。そしてエクリッツは、天界で初めて稲妻を操る剣として、至宝剣と呼ばれたんだ。」

「剣が雷を取り込むんですか!?」

「まぁ、そうなるんじゃない?天界って非現実的だし。」

「軽いなぁ…」

すると、ヴァーチはエクリッツを背中に背負い、

「さぁ、魂を連れて帰ろう。」

その声に、ジャンヌは元気よく頷こうとする。



その時、二人の背後にあるウァントの死体が爆散した。



「え?」

ドスッと言う音がジャンヌの側から聞こえ、思わずそこを見る。何者かがヴァーチの腹部を殴りつけていた。

ジャンヌは思わずそれに向かってシュプリームを振り下ろすが、彼女の首には何故かが嵌められていて、何者かはその首輪に繋がれてた鎖を掴み、ジャンヌを地面に叩きつけた。

「かはっ!!!」

ジャンヌは吐血し、思わずシュプリームを離してしまった。迫り来る影はジャンヌを見下ろすように立っていた。彼女は恐る恐る上を見る。


それは、天使でも悪魔でもない。何故ならそこに立っていたのは、ジャンヌを軽蔑するように睨みつけるだった。


あんなに親切にしてくれたが、何故こんなことをするのか。どこから現れたのか、様々な疑問がジャンヌの頭の中を動き続ける。

ヴァーチは恐る恐る立ち上がろうとするが、イシュタムが指を鳴らすと、彼の首に鎖が繋がれ、ジャンヌと同様首輪が付けられたのだった。

「イシュタム卿…!!何故…このようなことを…!」

「何も言うな天使ゴミクズめ。」

「何故神がこのようなことをするのですか!!これも何かの訓練の一つですか!!?」

「黙れぇ!!!」

イシュタムが鬼の形相で怒号を上げる。その瞬間、ヴァーチは何故か、自分自身の首を

「くっ…!!」

「ヴァーチさん!何してるんですか!?」

ジャンヌがヴァーチに駆け寄り、彼の両腕を掴んだ。だが、無理やり首から離しても、すぐに首を掴み掛かろうとしていた。

「わからない…!何故か体が勝手に…!」

「そうやって死ぬのに戸惑う者、止める者がいるからは面倒なのだ。」

ジャンヌは今の発言を聞くと、イシュタムを睨みつける。

「役目?まさか、今までの現象も、ウァントを変異化させたのも、全て貴方の仕業だと言うのですか…!?」

彼女がそう言うと、イシュタムは何かぶつぶつと独り言を言い始める。次第に、彼の背後から無数の魔法陣が出現し、そこからが現れた。

「そう言うことになるな。どうする?言いたいことはないか?一刻も早く私は自殺者の魂を集めなければならない。だが一つ聞いておきたいことがある。


はどこだ?」


宝玉。それはジャンヌもヴァーチも聞いたことがない言葉だった。その宝玉という物を見つけ出すのがこのイシュタムの目的なのか。

「どうやら、知らんようだな。」

その瞬間、イシュタムは二人に襲いかかるが、

「待ってください!!」

ジャンヌが叫んだ。

「宝玉の在処なら私が!ですが、まず先に貴方に聞いておきたいことがある!宝玉の在処はその後に教えます!」

これはジャンヌの嘘だ。彼女は宝玉の在処を知るわけない。だが、彼女は一つ知りたいことがあった。何故神がこのような狂気じみたことをするのかを。

イシュタムはニヤリと笑う。

「何だ?言ってみろ。」

「…何故貴方はこんなことをするんですか?」

イシュタムは少し考えた後、この現象を起こした経緯を話した。


「私は、悪魔とした。」


彼は淡々と続ける。

「神というのは、くうさんの二つの位があり、私はその中で山に属していた。神は元々概念から生まれ、それが魂として生まれ変わり、その魂は神となるための修行を経て、神となる。山は基本、四大天使と同じ扱いを受ける。それは尊敬の印だが、空はそれ以上。まことの神として扱われる。

だが、私にとっての神は…」

イシュタムは拳を握り締め、ニヤリと笑う。

「絶対的支配者だ!!」

拳を開くと、彼の掌に一つの紋章が浮かび上がる。二人はそれを見たことがあった。

の紋章だった。

という悪魔がサタン復活を目論んでいるのを耳にして、私はアンダーワールドに向かい、マモンと契約をした。サタンが復活すれば、全てが燃え尽くされる。彼らは下界をアンダーワールドにするつもりだ。それはつまり、新世界が生まれるということだ!!私は気づいた!この計画に手を貸している神はこの私のみ!!

つまりだ!!新世界が生まれたら即刻マモンを含めた悪魔を皆殺しにし、サタンを配下につければ!!」

イシュタムは両腕をバッと広げ、藍色の空に顔を上げて高笑いを始めた。

「私は新世界の頂点になれるのだ!!」

今の狂気じみた経緯を聞いて、ジャンヌは腑が煮え繰り返る程の怒りを味わっていた。

「何故…人を自殺させているんですか?その人たちは、関係ないでしょう?」

「まぁ、心臓は必要だが、魂まではいらないらしい。だが、私はしているんだぞ?自死を図るほどのストレスを味わった人間どもに助言しているだけさ。とな。だが、途中で自殺をやめて、もう一度生きようとする者は、私の力を使って、救済したのだ。

どうだ?私は善神だろう。人を苦しみから解放しているんだ。それに、ウァントを手なづけることで、私が呪文を唱えて変異化させ、彼奴は様々な能力を手に入れた。そのうちの棺を生み出す能力を使って、魂を入れて、少しばかりをしている。人間の魂は、どんな構造をしているのかを確かめるためにな。」

ジャンヌはイシュタムを睨みつける。

「神が…人の命を弄ぶ…?それはただの救済ではない!!ただの人殺しだ!!貴方は神ではない!!悪魔そのものだ!!」

イシュタムはジャンヌの首輪の鎖を引っ張り、目の前まで連れてきて、首を掴む。

「ジャンヌ・ダルク!!」

ヴァーチはジャンヌを助けに行こうとするも、目の前にウァントが現れて彼の行手を阻んだ。

「オルレアンの少女よ。貴様は確か、その眼帯を外せば悪魔となるらしいな?それも、理性が消える程暴走を起こすと。良いか?人間どもを守ることをやめて、悪魔になれ。人間の心を捨てろ。そして、私たちと共に、新世界をつくろうじゃないか!!」

ジャンヌはイシュタムの手を掴み、この神から離れようとするが、力が強く、微動だにしなかった。だが、

「私は貴方を許さない…!!こんなふざけた目的のために!何も罪のない人々が犠牲に…!!」

「神である私からの助言だ!!それをありがたく思わんとは万死に値する罪だ!!この間抜けが!!」

イシュタムはジャンヌの頭を殴り始めた。頭からは血が垂れるが、ジャンヌは痛みに屈しなかった。

「お前は…!!お前は何なのだ!!?」

「殴りたければ好きなだけ殴ればいい!!私は何度でも言う!!人の命を弄ぶ者を!!人間の生きる道を邪魔した者を!!私は許さない!!あの人たちはまだやり直すチャンスがあったかもしれないのに!!それを貴方は邪魔をしたんだ!!例え私がこのままただの魂になっても!!私は貴方を許さない!!」

「この死に損ないがぁぁぁ!!!」

イシュタムの拳がジャンヌに振り下ろされる刹那、



何者かによって、その拳は止められた。



「お前はっ!?」

イシュタムが叫ぶが、彼は謎のによって吹っ飛ばされた。

更に、ヴァーチの前にいたウァントの軍勢はどこからともなく、体をズタズタに引き裂かれ、黒い塵となって消滅していった。

ヴァーチは背後に気配を感じ、振り返る。そこには、光技で生成した剣を持った

が立っていた。

「セラフ様…!どうしてここに!?」

「私もいるわよ。」

ヴァーチは声のする方を見ると、ジャンヌの傍にガブリエルの姿があった。

「ガブリエル様!」

「ジャンヌ。ヴァーチ…さん?ごめんなさい。もう少し早くきていればよかったわね。こんなにボロボロになっちゃって。」

ガブリエルはジャンヌの肩に触れると、そこから光が溢れ出し、それは粒子となってジャンヌの体を優しく包み込む。

(痛みが引いていく…?)

「私の力よ。あらら。鎧も壊れちゃったのね。でも、新しいのを作ってあげるわね♪」

その光景を見た後、もう一度セラフィムがいる方へ振り返るヴァーチ。彼は涙を流し、目をキラキラさせながら、

「四人衆のセラフ様と四大天使のガブリエル様に助けられるなんて…!!僕感激…!」

感激していた。

「お二人とも。」

セラフがジャンヌとヴァーチを呼びかける。そして上空を指差す。そこには大きな穴が空いていた。

「そこから貴方たちは魂を連れて、下界に脱出してください。」

「で、ですけどイシュタムは…。」

ジャンヌが質問すると、セラフは光の剣を構えた。

「私が惹きつけます。ガブリエル様。お二人の援護を。」

「任せてね。そこの青い子、こっちにいらっしゃい。」

ガブリエルがヴァーチに手招きした。「よろこんで!」と歓喜の涙を流し叫びながら彼はよってくる。ジャンヌはガブリエルに抱き抱えられた。

「じゃあ、後は任せたわよ。」

セラフは頷き、ガブリエルとヴァーチは飛翔した。

「あの…!セラフさん!」

ジャンヌはセラフを呼びかける。

「助けにきてくれて、ありがとうございます!!」

その声を最後に、三人はこの場所を去った。セラフが今握っている剣の矛先から光の粒子が触れ出す。

「そんな言葉を言われたら、私も戦わざるを得ないじゃないですか。」

ポツンと呟くと、イシュタムが吹き飛んだ方向から鎖が襲いかかる。

セラフはその鎖を目に見えぬ速さでバラバラに斬り壊した。

砂煙からイシュタムの影が現れ、ケタケタと笑いながらこちらに向かって歩み寄るのがわかった。

「何故、私が裏切り者だとわかった?」

イシュタムの問いにセラフは淡々と答える。

「貴方が私にを聞いたこと自体が間違いだった。宝玉の在処を知っているのは、選ばれただけなのです。」

「なん…だと…!?」

「絶対神を目指すならもう少しお勉強するべきでしたね。ガブリエル様の話では、空の神の間で宝玉のことは機密情報とされています。宝玉の在処を私に聞いた時から、貴方の怪しさはどんどん増していく一方でした。」

ふぅーっとため息を吐くイシュタム。その直後、彼は手をセラフに向けて突き出すと、そこから首輪が飛び出し、セラフの首を一瞬で捕らえる。

「貴様を消して、空の神々から力づくで宝玉の情報をいただくとしよう。神の仕事の邪魔をするな。」

刹那、セラフは自身の剣で首輪の鎖を切断し、イシュタムに向けて踏み込む。

「なっ!?」

イシュタムは斬撃を回避し、彼の足を捉えようとするが、顔面に蹴りを入れられ、地面に叩きつけられた。

「失礼。少し私も腹が立っているもので。」

「…!!」

「何故かって顔をしていますね。まずは、貴方は無理やり人間を殺しすぎたこと。そしてもう一つは…」

セラフの単眼はイシュタムを睨みつける。

「私のを傷つけたことです。」

「フフ…クククク…カカカ…!!」

イシュタムは不気味に笑いながらよろよろと立ち上がり、セラフにその不適な笑みを見せる。そして、

「シャアッ!!」

セラフに向けて手刀を繰り出すが、「キンッ」という音が鳴り響いた時には、

もうイシュタムの手は

「…は?」

ボトンッと落ちた自身の右手を見たイシュタムは、少しづつ痛みを感じていき、そして、発狂する。

「あああああああああああっ!!!」

「人を自殺させる能力は使わないのですか?それとも、貴方はそれを使うと体力の消耗が激しいのですか?」

「黙れ…!!黙れ黙れぇ!!」

イシュタムは再び呪文を唱え始めた。背後から無数の魔法陣が現れ、ウァントの軍勢が再び出現する。それらはジャンヌとヴァーチが戦った変異型だった。

「…消せ。」

イシュタムの一言により、ウァントの軍勢が一斉に襲いかかった。

前の三体はこのまま大口を開けて襲いかかり、後ろの数十体透明化を使って虚空へと消えていく。

セラフは剣で十字に虚空を切ると、そこから十字の形をした光が現れ、三体のウァントに向けてそれを飛ばす。それを食らったウァントたちは体に無数の十字の模様が出来たとともに、そこから大量の血を吹き出して死んだ。

背後からの襲いかかるウァントは頭を切り落とされ、頭上から大口を開けたウァントがいれば光技で光線を放つ。イシュタムに辿り着くまで何十体のウァントが襲いかかる。そして、彼の頭上から数十匹のウァントが光線を放つ。何本もの光線が他のウァントたちを巻き込みながらもセラフの行手を阻む。

「そのまま焼け死ぬのだ天使め!!」

イシュタムの罵倒を無視して、飛翔しながらその光線を回避する。紫色の光をチラつかせながら、セラフを追い続ける光線。彼は瞬きをする。その時、彼の大きな瞳に、十字架が浮かび上がる。そして、

「…使いますか。」

セラフの体にダイヤモンドの形をした光が二つ現れ、彼はそれを握りつぶした。

その時、何故かセラフは動くのをやめた。数十本の光線が、数十匹のウァントが彼に向けて襲いかかる。だが、


ミラ。」


空中にダイヤモンドの形をした光が現れて、そこから無数のウァントに向けて針状の光が降り注ぎ、ウァントらを蹂躙していく。

「なんだ…あれは…!?」

死にゆくウァントが倒れて発生する砂埃の中から、セラフが現れ、イシュタムの方へ向かって来るのが見える。彼は剣を振り下ろす。イシュタムは即座に呪文を唱え、魔法陣を出現させ、ウァントの死体を出し、防御した。

セラフの剣によって死体は真っ二つに切断された。

「裁は、天使語で裁きの意味を持ちます。光技で作った無数の針をダイヤ状に閉じ込め、それを爆散させて広範囲に攻撃を仕掛ける技です。」

「…この!!」

イシュタムはセラフに殴りかかるが、その拳は蹴りで受け流され、続けてもう一度蹴りを腹部に入れられ、彼は地面に叩きつけられた。

「貴方は神として、許されない罪を犯しました。しばらく、に行ってもらいましょう。」

無表情のまま喋り続けるセラフを倒れたまま、怒り狂った顔で睨みつけるイシュタム。

「この私が…!!何故だ…!!私が何故天使クズなんかに…」

「貴方には少し、きつい言葉を言うことにします。」

セラフはしゃがみ込み、イシュタムの顎を優しく掴む。そして、




「貴方は、私やヴァーチさん、そしてジャンヌ・ダルクの足元にも及ばない。」






おまけ


Xのアカウントにて、僕は絵を投稿したりしています。よければ、ご覧ください。


オーク(大福五木)

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