第3話 下界の少女
ただ白い空間が続いていた。奥には穴が見える。おそらくそこが下界、フランスへの入り口なのだろう。だが、まだまだ届きそうにない。ジャンヌはただその穴に向かっていた。
(私の故郷…。何百年ぶりだろう。天界から見たことあるけど、見たことのない建物がいっぱいあったわ。私、ちゃんと現代のフランスに馴染めるかなぁ…。)
オルレアンの少女は何百年も前に死んだ。現代になってからは、フランスの街並みも変わった。ジャンヌは少し、今のフランスを楽しみにしていた。メルカバーとなった自分は、フランスを悪魔から守る責務がある。ジャンヌは頬を叩き、穴へ向かった。
その時だった。
「え?」
ジャンヌの頬に鋭い痛みが走った。彼女の頬にはどうやってできたのかもわからない擦り傷ができていた。
天界では、下界の様子を見ることができる。そこから人間の魂たちはそれぞれの家族や友人がどのようにして生きているかを拝見することが多かった。何故魂たちはそのような行動をするのか。それは、魂たちにはそれぞれの大切な存在がいるからだ。
ふと、ジャンヌと仲が良かった少女たちはセラフに駆け寄った。
「ねぇねぇ。ジャンヌお姉ちゃんは天界(ここ)から見えるの?」
「そうですねぇ。今は下界に続く道を通っているので、ここからは見えませんが…」
すると、他の上位天使であるケルヴィ、ガルガーリン、ド・ミニオが歩み寄る。
「そこからも確か見えるんじゃねぇか?ほら。」
ケルヴィは指をパチンと鳴らした。すると、手鏡ほどの大きさの雲のような物体が出現した。
「大天使さまに教えてもらった方法なんだ。見てみようぜ。」
「知らない間にそのような魔法を教えてもらったのですね。」
上位天使四人衆と幼女たちは物体の中を覗いた。
しかし、そこに映っていた光景を彼らが見た瞬間、全員が息を飲んだ。何故なら、
ジャンヌが何者かに攻撃されているのだから。
「どういうことなのです!?この空間はあの扉しか入り口が無い筈じゃないのです!?」
「門を開けるのだね!彼女を助けるのだね!」
ガルガーリンが叫んだ瞬間、天使たちは扉を開き、ケルヴィ、ガルガーリンがその空間の中に飛び込んだ。
その頃、空間の中では、何者かがジャンヌに向けて一方的に攻撃をする。雨の如く黒い衝撃波が彼女に襲いかかる。
「ぐはっ!!」
黒い衝撃波がジャンヌの顔面に命中した。何者かは高らかに笑う。
「イヒヒヒ!!アハハハハハハ!!!」
正体は以前、ジャンヌを禁聖書ギガスによって悪魔化させた女の悪魔、グレモリーだった。
「あぁサイッコウ!!ギガスのおかげで私はこんな力を手に入れちゃったの!ジャンヌ・ダルク!もっと味わってぇ!!」
グレモリーは以前、ジャンヌと戦った時には黒い衝撃波を放つ力など披露していない。禍々しく変化した両手と爪で切り裂くといった攻撃、そして自身の片手に黒い煙を集め、それをレイピアに変貌させる力。では、この黒い衝撃波は彼女の言うギガスによって手に入れたのか。彼女が言う禁聖書、ギガスというのは対象を悪魔化させるだけの力ではないのか。
「くぅ!!」
ジャンヌは次から次へと繰り出される攻撃に太刀打ちできず、鞘に入れたシュプリームも抜けなかった。
その時、
「ジャンヌ!!」
ケルヴィとガルガーリンが駆けつけてきた。だが、
「かはっ!」
刹那、ジャンヌの目の前に突然グレモリーが出現し、彼女を殴り飛ばした。
『っ!?』
ジャンヌはそのまま吹き飛ばされ、下界へと繋がる穴の中に入っていった。
「貴様ぁぁぁ!!」
ガルガーリンは憤怒の表情で光技を発動し、グレモリーに向けて無数の光の粒子が襲いかかる。しかし、グレモリーは余裕の表情で両手を握り込む。そして、素早く両手を一度交差させて両掌をバッと広げた途端、彼らに向けて巨大な黒い衝撃波が放たれる。
「なっ!?」
「任せろ。」
ケルヴィはガルガーリンの守るように光技で巨大な盾を作り、衝撃波を防御した。盾は消滅し、ケルヴィは迎え撃つために光技を繰り出そうとしたが、そこにグレモリーの姿は無かった。
(消えた…!?)
ケルヴィたちの脳内からセラフたちの声が聞こえてくる。
(“悟り”か。)
悟り。天使たちが扱う術の一つで、遠くの相手と対話をすることができる。悟りを使ってセラフがこう言った。
「こちらから見ていました。グレモリーはその攻撃を繰り出した瞬間に逃走したようです。」
「逃げ出した?どうやって?」
「グレモリーがギガスを開いた瞬間、彼女の身長ほどの大きさの穴が出現しました。彼女はその穴に入ると、その穴は消えていきました。」
「そうか。それより、ジャンヌはどうするんだ!?グレモリーに傷を負わされて…」
次に聞こえた声はセラフの声では無かった。
「彼女なら心配いらないわ。」
「“ガブリエル”様?どういうことですか!?」
「二人共こっちにいらっしゃい。下界の様子を私たちと見ましょう?」
ここはフランス北部の都市。“ルーアン”。歴史と文化が詰まった街、そして、
“ジャンヌ・ダルクが火刑に処された場所”だ。
天気は雨。夜空を覆った雨雲がルーアンの夜を更に暗くしていた。その黒い雨雲の中から何かが飛び出した。
それは、悪魔から人々を守るために戦いに来た、再びフランスをもう一度救うために舞い降りたジャンヌ・ダルク。
しかし、彼女は動かなかった。体の至る所に傷が出来ている。鎧の隙間からは血が滴っていた。かつてのオルレアンの少女はただ動かずに落下し続けていた。
やがて、ジャンヌは暗い路地裏の大量のゴミ袋の上に寝かされた状態で落下し、数個のゴミ袋が衝撃によりどこかへ吹き飛んだ。
雨粒が彼女の身体中に激しくぶつかり、赤い光を放つ一本の街灯が彼女の姿を照らした。
途端、共に降り注ぐ雨水の音と共に、何か別の音が聞こえてくる。まるで、ジャンヌに近づいてくるように。そして、
「お母さん!あれ、人が倒れてる!」
青いパーカーを着た前髪で目が隠れている少女が倒れているジャンヌを見つけた。その少女の母親らしき人物がジャンヌに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
母親がジャンヌの手首を持ち、脈を確認した。脈が動いているので、生きていることを確信する。その声に気づいたのか、ジャンヌは少しずつ目を開ける。
「よかった…。立てますか?」
ジャンヌは慌てて立ちあがろうとするが、脚に鋭い痛みが走り、よろけてしまう。母親はジャンヌの体を支えた。
(重い…!もしかしてこの人、鎧を着ているの!?)
「お母さん、大丈夫?私も手伝おっか?」
「お、お願いね。とりあえず、私たちの家に入れてあげましょう。」
一方、天界では上位天使四人衆、ガブリエル、そして少女たちがジャンヌの様子を見ていた。
「お姉ちゃん、よかったぁ…!」
「人間の親子ですか。ガブリエル様、よろしいのですか?彼女はあの親子の家にお邪魔する形になりますが…」
セラフが問う。
「そうね。とりあえず様子を見てみましょう。あの親子、とても優しい心を持っているわ。でも、“少しワケアリ”ね。」
ケルヴィが首を傾げる。
「ワケアリ?」
「あの前髪が長い女の子の後ろを見てみなさい。」
ケルヴィはガブリエルが指を指した方向に目を向けると、
「あれは…!?」
「ん…」
ジャンヌは目を覚ますと、自身がベッドの上にいることがわかった。しかし、いつもより体が軽い。ジャンヌは白い肌着を着ていた。起き上がると、彼女は鎧を脱がされていたことに気がついた。その鎧は床に置かれていた。
すると、突然ドアが開いた。入ってきたのは先ほどの少女だった。
「あ!」
しかし、少女はすぐに部屋を出ていった。部屋の外から誰かの話し声が聞こえる。しばらくすると、再び少女が母親を連れて入ってきた。
「よかった。意識が戻ったのね!怪我はありませんか?」
「は、はい。怪我は無いです。それに、助けてくれてありがとうございます。」
「貴女の命に問題がなかったら私たちも嬉しいわ。まさか買い物帰りに人が倒れてるところを見つけるとは思わなかったわ。」
「ここは?」
「私たちの家よ。私たちはルーアン出身。」
ルーアン。ジャンヌにとっては懐かしいようで、少し怖く感じる。何故ならかつてジャンヌはルーアンの街で死んでしまったからだ。
「ところで、貴女の名前は?」
「私は…」
彼女はかつてフランスを救った聖女だ。今この親子に自身がジャンヌ・ダルクであること、そしてメルカバーのことや天界にいたことなどは信じないはず。
「ジャンヌと申します。でも、それ以外覚えてなくて…」
嘘をついたことにジャンヌは罪悪感を感じた。
「えっ!?じゃあ記憶喪失ってこと!?」
少女が問う。
「そう、ですね。住所もわからないままで…」
「スマホとか財布とか持ってないの?」
「すま…?い、いえ。持っていません。」
母親と少女は困惑した顔を見合わせた。
「お母さん、どうするの?」
「そうね…。」
母親は顎に手を当てて何か考えていた。すると、
「住所も忘れてしまったのなら、記憶が戻るまで私たちの家にいていいよ!」
「え!?」
ジャンヌは驚く。少女は「わぁ!」と声を出し、嬉しそうな表情をしていた。
「で、でも悪いですよ!私のような赤の他人を…」
「大丈夫よ!貴女良い人だと思うの!行く宛もわからないんでしょ?帰り道も家も。」
「そう、ですけど…」
「だから問題ないわ。ゆっくりしていってね!私は“リタ・ランベール”。それとうちの娘の“キュリオ”。」
キュリオという少女は手を振った。
「よろしくね!ジャンヌさん!」
「お、お世話になります。」
「あ、そういえば、あの“重いの”どうやって着てるの?」
「え?」
キュリオが指を指す先には、ジャンヌが着ていた“鎧”があった。
「えーっと、これは私が片付けておきます!」
「でもそれ重いわよ?」
ジャンヌは慌てて重い鎧を軽々と持ち上げた。天界での特訓が活かされてることにジャンヌは上位天使四人衆たちに感謝した。ランベール親子は「おーっ!」と拍手をしていた。
「す、すごい力持ちなのね。その鎧?みたいなのは二階に物置があるからそこに置いてね。案内してあげるわ。」
ジャンヌは物置の床に鎧を置いた。
「それじゃ、もうお夕飯時だし準備してくるね!ゆっくりして待っててね!」
「はい!」
リタはその場を去った。ジャンヌは鎧に位置をずらそうとした時、
「っ!?」
ある異変に気づいた。彼女の顔はどんどん青ざめていく。
(“シュプリーム”が無い!!どこ!?もしかしてさっき私が落ちたところ!?)
大天使ガブリエルがくれた悪魔と戦うためのもう一つの武器、シュプリーム。それを紛失してしまいジャンヌが焦っていると、この部屋の窓からコツコツと音が聞こえてきた。ジャンヌは音のする方へ歩き、窓を開ける。
「え!?」
そこには、一人の
「お忘れ物ですよジャンヌ様!」
騎士天使がジャンヌにシュプリームを渡した。
「ありがとうございます!!わざわざ届けにきてくれて!」
「それと、セラフ様とガブリエル様が貴女にお伝えしたいことがあるそうです。それは鎧を通じて話がしたいとおっしゃっております。」
ジャンヌの鎧の手首には通話機能があるとセラフが言っていたのを思い出した。
「わかりました!ありがとうございます!」
ジャンヌは騎士天使と別れ、鎧の手首に話しかける。
「セラフ様。ガブリエル様。私です、ジャンヌです!」
「ご無事で何よりです。天界から見ていました。お怪我はありませんか?」
「少し痛みますが問題はありません。あの、ランテール一家には、私がジャンヌ・ダルクであることは言っていません。おそらく、信じることはないでしょう。」
すると、鎧の手首の声はガブリエルに変わる。
「ジャンヌ・ダルク。嘘をついてしまうのは悪いことだけど、その判断は悪くないわ。それと、一つ“警告”しておきたいことがあるの。
「どういうことですか?ガブリエル様。」
「キュリオという女の子がいたわよね?」
次の瞬間、ガブリエルの発言はジャンヌを驚愕させた。
「あの子、いつか悪魔に殺されるわよ。」
「何故…そう思うのですか…!?」
「次、キュリオと顔を合わせるときは彼女の背中をよく見なさい。いつか悪魔に襲われる人間の背中には、その予兆を表す“レギオン”という顔の塊のような形をした物体が浮かび上がるの。貴女があの親子に運ばれる様子を見ていた時、私とケルヴィが見つけたわ。キュリオは今、いつ悪魔に襲われてもおかしくない状況よ。」
しかし、悪魔は無差別に人間を襲ったりもするが、人間の負の感情に漬け込むことが多い。キュリオには負の感情というか、あまりそういった印象は無かった。
「キュリオちゃんに何か訳があるのですか?」
今度はセラフの声に変わった。
「彼女自身に負の感情はありませんが、彼女の過去に“何らかの事情”があります。ジャンヌ・ダルク。それと、彼女には誠に失礼かもしれませんが、もし悪魔と戦うとき、もしくは戦いが終わったとき、母親であるリタ・ランベールにキュリオの事を聞く必要があります。ジャンヌ・ダルク。よろしいですか?」
「…わかりました。キュリオちゃんを襲おうとしている悪魔は、必ず倒します!」
「頼もしいですね。それともう一つ。」
「もう一つ?」
今度はガブリエルに変わった。
「シュプリームのことについて詳しく話せていなかったわ。シュプリームは“至宝剣”と呼ばれる天界に伝わる名高い剣の一つなの。様々な至宝剣には能力がある。そのシュプリームの能力は、“相手から何かを託されることで強くなる”こと。」
「託す?それはどういう…」
「そこまでは教えられないわ。ジャンヌ。これは私からの課題よ。シュプリームの能力を理解し、物にすること。良いわね?」
(何かを託されて強くなる…。それがシュプリームの能力…。)
ジャンヌはシュプリームの能力を思考しながら一階へ向かうと、そこにはキュリオがいた。
「ジャンヌさん!私の部屋に来てくれないかな?ちょっと自慢したい物があるんだけど、良い?」
「気になるわ。見せてくれる?」
「じゃあついてきてね!」
キュリオが背を向いた時、彼女の背中をジャンヌは目を細めて見ると、セラフとガブリエルが言っていた通り、“顔の塊”のような物体が浮遊していた。
(あれが“レギオン”…!確かに最初は見えなかった。)
「どうしたの?」
「いや、何でもないわ。」
「ここが私の部屋だよ!」
キュリオはドアを開けると、そこには大量の様々なゲームソフト、アニメのDVD、コミック本、フィギュアが綺麗に並べられていた。特に日本製の物が多い。
「おぉ!これ、ゲームとかだよね。」
「そう!私こういうのが好きで、まぁ特に日本のゲームとかが好きなんだけどね。あ!このパーカーも日本製だよ!私の好きなアニメ会社のマークが描かれたやつで、お母さんがネットで買ってくれたんだぁ!」
ゲームや漫画、アニメなどは天界でも有名だ。ジャンヌも認知している。一部の天使たちも知っていて、今では天界はそれに似た物を制作する会議をしているとも聞いたことがあった。現代にはこのような物があることにジャンヌは感心した。
(私はアニメやゲームは一度も見たこと、やったことはないけど、確か天界では“クリーチャー・ハンター3”ってゲームと、“クナン”だっけ?そんなアニメが流行ってるのを覚えてるわ。)
「それとね!私が今ハマってるゲームがあるの!」
キュリオはゲーミングチェアに座り、ゲーム機の電源を付ける。かちゃかちゃとコントローラーを操作すると、とあるゲームが壮大な音楽と共に起動する。
「これは日本のゲームで、すごい人気なの!プレイヤーは“団長”って役割で、侵略者と戦うために“ファイター”っていう世界中の有名な人たちが元になったキャラを呼び出して戦わせるゲームなんだ!ファイターの中には織田信長とかナポレオンとか、もちろん、“ジャンヌ・ダルク”もいるよ!」
「え!?」
ジャンヌは驚愕する。まさかこのゲームに自身がキャラクターとして存在するとは。
(ナポレオンもいるんでいしょ!?その中に私も入ってるなんて…)
「私はジャンヌ・ダルクがお気に入りかな!使いやすいしステータスも悪くないし!ほら見て!」
キュリオはジャンヌにモニターを見せた。
「え…。」
そこに写っていたのは、剣を持った露出の多い鎧のような服を着た可愛らしい女性のキャラクターが表示されていた。
「え…あ…え…?え…」
ジャンヌの顔はみるみる赤くなっていく。
「どうかな?このゲームでは結構人気なキャラクターなんだよ!」
「ちょ、ちょっとごめんね…。私、トイレに行ってくるわね!」
ジャンヌは早歩きでキュリオの部屋の外へ出ていった。
「私あんな
ジャンヌは真っ赤になった顔を両手で隠しながら逃げるように走ってゆく。キュリオは首を傾げた。
“大時計台”。ルーアンにある天文時計で、1389年に作られた古い時計だ。その大時計台の上に何者かが二人、雨の夜のルーアンを見下ろすように立っていた。
「どう?確かこの街に“ジャンヌ・ダルク”が落ちたらしいのけど。」
そのうちの一人は“グレモリー”だった。ジャンヌ・ダルクを追ってきたのだろう。グレモリーは隣に立っているもう一人の人物に声をかける。
「ギガスの力で彼女は悪魔になったの!それで仲間にしたいからさ、貴方、鼻が効くんでしょ?」
「ふむ。それで探せというのですか?」
刹那、落雷が落ちる。落雷の光によって一瞬だけその人物、いや、悪魔の姿が映った。その姿は長い爪を持った“人狼”を思わせる風貌だった。
「お任せください。」
その悪魔の鼻が突然音も無く“切断”された。その鼻は恐ろしいスピードでルーアン中を飛び回った。
「痛くないの?」
「任意で切断していますのでね。痛くも痒くもございません。ん!?」
切断された鼻は突然停止した。人狼の悪魔はニヤリと笑う。
「見つけましたぞぉ…!この匂い!しかも“餌”までついている!!」
「ホント!見つかったの!?なら話が早いわ。私はジャンヌ・ダルクを悪魔化させる。貴方は餌を…」
「言われなくても結構です。」
人狼の悪魔は時計台を飛び降りた。
「この“マクスウェル”から逃げることができる
翌日。雨が上がり、快晴だ。ジャンヌは椅子に座って外の景色を見ていた。すると、
「お母さん!ゲームセンター行ってもいい?」
家の玄関からキュリオとリタの声がした。ジャンヌは椅子から立ち上がり、その様子を見に行くことにした。
「キュリオちゃん。どこ行くの?」
「ゲームセンターだよ!最近近くに出来たんだ。」
(確か、いろんなゲームが遊べる場所って聞いたことがある。現代ってすごいわね。)
「ジャンヌちゃんも一緒に行く?」
リタが言う。
「ご、ごめんなさい。私はあまり機会とかが得意じゃなくて…。」
「わかったわ。キュリオ。外は雨だから気をつけてね。」
キュリオは頷き、「行ってきまーす!」と元気に手を振り、ゲームセンターに向かった。
「暗くなる前に帰ってきてねー。」
リタとジャンヌも手を振ってキュリオを見送った。
「元気で良い子ですね。」
「そうね。」
リタがそう答えた時、彼女は一瞬だけ“暗い表情を見せた”。
「どうかしましたか?」
「え?あぁ!なんでもない。」
「その、何か困ったことがあれば、力になれるかはわかりませんが、なんでも私に言って下さい。」
「…ありがとうね。ジャンヌちゃん。」
リタはそのまま部屋に戻っていった。ジャンヌは彼女が見せた暗い表情に疑問を持っていた。
(キュリオちゃんの背中にいたレギオンと関係あるのかな…?)
キュリオはスマホを片手に鞄を背負ってゲームセンターに向かっていた。スマホの液晶画面にはアーケードゲームの画像が写っている。それは彼女が今日やろうとしているアーケードゲームだ。
彼女が楽しそうな表情をしているが、背中にいるレギオンが少しづつ大きくなっていった。
その時だった。
“オオオオオオオオオオオオオオ”
レギオンが突然、叫び声のような音を発した。
「え?何?」
キュリオは後ろを振り返る。レギオンは消えていたが、彼女は寒気を感じた。
「早く、行った方が良いよね…。」
キュリオは深呼吸をして、ゲームセンターに向かおうと前を向いた瞬間、
「はじめまして。」
何者かがキュリオに話しかけた瞬間、“キュリオの姿は消えていた”。
ジャンヌが二階へ上がった時、物置部屋から誰かの声が聞こえてくることに気がついた。
「…ン…ジャ…」と。
彼女は物置のドアを急いで開ける。声の先は鎧。おそらく天使だ。
「はい!ジャンヌ・ダルクです!」
「繋がったぞ!セラフ!ガルガーリン!」
声の主は上位天使四人衆の一人、ケルヴィだった。どうやら四人揃っているそうだ。
「どうしたのですか!?」
「ジャンヌ・ダルク。落ち着いて聞いて下さい。キュリオが“悪魔に襲われています”。」
「え…!?そ、そんな!!」
「レギオンが叫んだようです。レギオンが叫んだ時、対象を襲おうとしている悪魔が訪れます。貴女が今いる家の先、ゲームセンター前に悪魔がいるそうですね。」
ジャンヌは鎧を身に付けながらセラフの話を聞いていた。話し相手がド・ミニオに変わった。
「悪魔と戦う準備を。悪魔がいる場所は他の
「やってみせます…!準備ができました!案内を…」
その時、ジャンヌが不意に前を見てしまう。彼女は息を呑んだ。
「リタさん…!?」
『っ!?』
それは、上位天使四人衆も驚いていた。物置部屋のドアが開いていて、リタはそこからジャンヌが四人衆と話をしているところ、そして鎧を着ているところを見られてしまったのだ。
「もしかして、今の話は聞いていましたか?」
「えぇ。全部聞いていたわ。頭は追いついてないけど、キュリオが危険な目に遭っているのはわかったわ!」
リタはジャンヌに近づき、手を掴んだ。
「キュリオがいる場所に私も連れてって!!」
「リタさん!危険です!」
「構わない!!もうこれ以上、あの子に危険な目は遭わせたくないの!!セラフとか言ったわね!?私をあの子の元へ連れてって!!」
リタの目から涙が溢れる。ケルヴィが彼女に言う。
「リタ・ランベールだな?ジャンヌと共に行くか?だが、お前は人生で味わったことのない恐怖を知ることになる。それに下手すりゃお前が死ぬ確率は高い。それでも恐怖を知るか?」
ジャンヌが反論した。
「ケルヴィさん!リタさんは…」
「ジャンヌ・ダルク。確かに危険ですが、リタ・ランベールは本気です。声越しでも、自身の子供を守りたいという気持ちを感じます。」
リタの目は覚悟を決めた者の目に見えた。彼女の目から涙が溢れる。
「お願い…ジャンヌちゃん…!!私を…娘がいる場所に連れてって…!!」
ここでジャンヌは理解した。シュプリームの能力を。相手から何かを託されて強くなる能力の意味を。
「リタさん。貴女のキュリオちゃんを助けたいと言う気持ちを、私に託すことはできませんか?約束します!私が必ず、キュリオちゃんを助けてみせます!」
ジャンヌはそう言って手を差し伸べた。リタは涙を袖で拭き、頷いた。
「ありがとう…!!ジャンヌちゃん…!!お願い…!!キュリオを…キュリオを…助けて…!!」
リタは彼女の手を握った。すると、シュプリームの鞘からから白い光が溢れてきた。
「やっぱり、そう言うことだったんだ。」
リタはジャンヌに、キュリオを助けたいと言う気持ちを託したのだ。
セラフが言う。
「リタ・ランベールには騎士天使を二人ほど護衛につけます。彼女が殺される確率はこれで低くなるでしょう。戦う覚悟は出来ましたか?」
シュプリームを持ち、頬を叩き、ジャンヌは覚悟を決めた。
「はい!」
あとがき
久しぶりにこの小説を書きました。僕もまだまだ半人前です。語彙力も無く、説明も下手くそで誤字にも気づかない人間です。更新は遅くなるかもしれませんが、こんな僕を、メルカバーをよろしくお願いします。
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