怖い話『画像生成AI』

寝る犬

画像生成AI

 画像生成AIって使ったことある?

 遅ればせながら俺も最近ハマってさ、いろんな画像を出力させては楽しんでたんだけど、ちょっと面白い話を聞いたんだ。

 それがさ「日時と場所を指定すると、その時間にその場所で撮影した写真」っぽいものを作ってくれるってネタでさ、ただ美少女画像やグラビア写真みたいなのを作るのに飽き始めていた俺も、さっそくやってみたってわけ。


 これがリアルなんだ。


 例えば「渋谷、2022年10月31日22時」と、これだけをAIのプロンプトに入力する。

 数秒待つと、さまざまに仮装したパリピたちがスクランブル交差点を埋め尽くすハロウィンの様子が出力されるんだ。

 ちゃんとドンキで売ってそうな安い仮装だったり、手に酒ビン持ってたりと芸が細かい。

 地名を変えたり、日時を変えたり、しばらく楽しんだ。


 で、まぁそれもすぐに飽きるわけよ。

 ふと「青木ヶ原樹海、2022年7月18日16時」って入れてみた。

 日時はちょうど1年前。

 特に気にして入力したわけじゃない。

 自殺の名所だから、心霊写真っぽいものでも出力されないかと思ってね。

 そしたら木の根元にリュック置いて、その上に座った二十歳くらいの女の子が、電子タバコくわえたまま携帯ゲーム機で遊んでるっていうシュールな画像が出てきてさ。


「あぁAIには、青木ヶ原樹海って観光地みたいなイメージなのかな」


 なんて思った。

 でもなんだろうな、その女の子がリアルに俺の好みの顔だったってのもあって、ちょっと気になったんだよね。

 それで今度は「青木ヶ原樹海、2022年7月18日19時」と、3時間だけ時間を進めて画像を生成してみたわけ。

 上手く行けば同じような女の子の画像できるかなって。

 それで生成された画像には、思ったとおり同じ女の子が写ってた。

 ただ、周囲はもう暗くなってて、女の子の足元にはLEDランタンが灯っている。

 周囲にはお菓子や菓子パンの袋が散乱してて、女の子はリュックを枕に横になってた。

 スマホを手に持って、なにか操作してる。

 リアルではあったけど、女の子の目の焦点が合ってなくて、ちょっと不気味だった。


 これでやめておけばよかったんだけど、今度は「青木ヶ原樹海、2022年7月19日9時」と、翌朝の画像を生成してみた。

 生成されたのは、さっきと同じ木の根元に、リュックとかゲーム機とかスマホとか、全部が放置された画像。

 女の子がいなかったことにがっかりして、ちょっと時間を戻す。

 同じ条件で、朝の6時。

 今度は女の子が表示された。

 手に細いロープを持っていて、木の上のほうを見上げている。

 ロープの先は、マンガで首つり自殺をするときのように、輪っかになっていた。


 6時10分、6時20分、6時30分。

 時間を変えて何枚も画像を生成する。

 木に登ってゆく女の子、上のほうから画面をかすめ、ゆらゆらと揺れているピントの合わない足先。

 最後の画像は、9時の画像と同じようにリュックだけが写っていた。


 気持ち悪いものを見てしまった。

 急に息苦しさを感じてコーヒーを飲む。

 試しにネットで「青木ヶ原樹海 2022年7月」を検索してみると、山梨県の行方不明者情報や、写真週刊誌の記事が見つかった。

 いくつかクリックしてみる。

 目の部分が黒く塗りつぶされている写真が表示され、そのうちの一人が、さっきAIに表示された女の子にめちゃくちゃ似てた。


 あまりにもできすぎた話だと思うだろ?

 俺もそう思った。


 でもさ、そのあと俺、またAIで画像生成してみたんだ。

 場所は「青木ヶ原樹海」、日付は明日の朝。

 生成された画像には、どこからどう見ても俺の姿が表示されてたんだよ。

 足元には、例のリュック。ゲーム機。スマホ。そして、首が千切れ、ほぼ白骨化した女の子の遺体。

 時間を進めると、俺は女の子と同じように木を登って行った。


 それを見た後、玄関のインターホンが鳴ったんだ。

 カメラには、さっきAIが出力した女の子が写ってた。

 やっぱ好みの顔だったさ。

 何も言えずに顔を見てたら、その子はインターホン越しに「ムカエニキタヨ」と笑った。


 ってわけでさ、今から彼女と一緒に青木ヶ原樹海に行くわ。

 お前らもAI画像生成楽しむのはいいけど、絶対に自殺の名所とかを生成するのはやめておけよ。


 もし俺のことが見えたら、


 ムカエニ イク カラ ナ。


――了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怖い話『画像生成AI』 寝る犬 @neru-inu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説