人気配信者の俺が、異世界に転生しバズったので現代配信知識で無双する
@mattuktt
第1話人気配信者異世界に飛ばされる
2022年夏
男が椅子に座り、前のめりになりながらモニターを直視している、その表情は真剣そのものだ。
手にはゲームコントローラーが握られており、強い力で握られてるのだろう、手の甲に筋が浮き出ていた。
暫くの間、カチャカチャとコントローラーを操作する音と、エアコンの低い機械音だけが、部屋を満たしていた。
「嘘だろ!この敵強すぎだろ!!」
その時、絶叫ともとれるような声量を上げながら、男は勢いよく椅子から立った。
コントローラーを地面に叩きつけ、さっきまで見ていたモニターとその横にあるモニターを今後に見ている。
YOUDIEDと書かれ悲壮感漂う画面とは対照的に、もう片方のモニターでは様々なコメントが勢い良く流れていた。
『ざまぁw』
『なんで、回避しなかったんですか?』
『wwwwww』
『ハズレ枠で草』
男の失敗を嘲笑うかのようなコメントや、次の配信内容を問うコメントが流れる。
力なく椅子に座り、コメント欄の頭上に表示されている、1万という数字を見る。
男の名前は新島歩、配信者である。
ニーチューブという動画投稿サイトで配信活動を続けている。
チャンネル登録者は9万9000人、そのサイトの中では大手で、先月「配信者としての流儀」という本を出版したばかりだ。
「はぁ、ちょっと今日はここら辺で終わりにするか」
新島が不貞腐れながら言う。
『逃げるのか?』
『次の配信楽しみに待ってます!』
新島はマイクに近づき、明日は雑談配信である事を告げ、配信を閉じる。
「はぁ、疲れたな」
新島は背伸びをし、ベットへと向かう。
今回の配信の反響を確認する為、スマホを弄りながら布団に入る。
「今日はもう寝るか」
エゴサをし満足したのか、新島はスマホを横に置き電気を消した。
…‥……………………………
「ここ、どこ?」
新島が辺りを見渡すと、視界一杯の緑が広がっていた。
突っ立ったまま、何も持ってない。
すこし、首筋を掻きながら思案する。
「これって異世界転生って奴か?」
案外冷静になってる頭の中で考えた結果そんな考えに行き着いた。いや、冷静な頭の中で考えた結果、異世界転生ってあり得ないだろと思った自分もいるのだが、そもそもこの状況があり得なさすぎて思考を半分放棄している。
頭上を見上げると太陽が眩しく、地面の草や土を明るく照らしていた。
そして、暫く空を見上げていた新島は違和感を感じた。
太陽の光で見えなかったが、新島の真上に球体が浮いていた。正確に言うと、球体から羽根のような物が生えた物体が新島の頭上を旋回している。
「どう考えても、人工物だよな?」
カメラなのか?時折カシャっと音が聞こえる。
もしかしてドッキリか?異世界だと期待してたのに、現実世界の下らないバラエティ番組のネタにされるのは癪が障る。
どうにも癪に障るので、丸い球体に向かってアヘ顔ダブルピースをかましてやった。
こうする事で、テレビの企画を頓挫させられると思ったが、よくよく考えてみると、今のご時世素人をこんな山奥で放置するなんて企画が通るだろうか?いや通らないだろう。
考えを新たにとりあえず、人里を探しに前に進む。
どこまで行っても生い茂った草や木、裸足でいるからか、たまに歩いてると固い石を踏んでしまい、その度に足元を見てはげんなりする。
裸足ではあるが、服は着ている、寝る前に着ていたパジャマだ。
「神さまぁ、一式くらい装備渡して転生させてくれー」
誰に言うでもなく、自分の正気を保つ為に森の中で叫ぶ。
新島の言葉がこだまする。
その時だった。
何かがこちらに近づいてくる。
新島はその辺にある枝を取り、身構える。
だんだん枝が軋む音や、草を掻き分ける音などがこちらに迫ってくるのがわかった。
「なんだなんだ?」
今度は小声で自分を落ち着かせるように言う。
汗が首筋を伝っていくのがわかった。
暫く音も立てずにじっとその場を動かず、ただただ、音のする方向を瞬きもせずに見つめる。
瞬間、生い茂った草木の合間を縫う様に白い毛を纏った四足歩行の生物が新島の前に立ちはだかった。
犬、一瞬そう思ったが、その考えはすぐに自分の頭の中から消え失せていた。白い毛を纏い、舌をだらしなく垂らし、こちらを不愉快そうに見つめる、3メートルはあろうかという巨大生物、いや魔物を前にし全身が震える。
ファンタジーアニメや小説で描写される様な、そんな生優しい見た目をしている訳がなく、確実な殺意を持って新島の前に姿を表している。
ジリジリとその魔物がこちらに寄ってきていた。
後退りしながら枝を放り投げ、どうにか逃げれる様な場所がないか探す。
魔物が新島が放り投げた枝を踏んだ瞬間。
新島は魔物の瞳孔が小さくなったのを見逃さなかった。
魔物は吠えながら、凄まじいスピードで新島に向かって飛びかかる。
新島は魔物が飛び上がった隙をつき真正面から魔物を潜る様に前へ出た。
一目散に走りながら、森の中を移動する。
追いかけてくる音は聞こえない、多分飛びかかった時俺が躱した先の木にぶつかったんだろう。
「はぁ、はぁ、ザマァみろ!!これでも中学の時は陸上部だぁ!コラァ!」
誰に言ってるかもわからない戯言を吐きながら森を進んでいく。
どこかに当てがあるわけでもない、ただあの魔物から距離が離れた場所に行きたい。
ふと後ろを向くと、さっき頭上にあった羽が生えた球体が俺を猛スピードで追う様に迫ってきていた。
カシャっとまた、カメラの様な音を出す。
今はこの球体に構ってる余裕はない。
すぐに前を向き走る。
どれくらい経ったのだろうか?足は草や葉っぱによって血まみれになり、全身から汗が吹き出す、思考の中は未だにあの魔物の事だ。
出来るだけ遠くに行く為に走ってはいるが、もう体力も尽きる。
「クソったれ!」
出来る事なら配信がしたい。
こんな意味不明な状況下に陥ってるのをリスナーが見てくれたら、こんな悲惨な状況でもやる気が出てくる。
だって同接稼げそうだし。
そう考えると、この体験を雑談配信で伝えるまでは死ねない。
腕を振り、出来るだけスピードを落とさない程度に足元に気をつけながら、森の中を進んでいくと、舗装された道がが見えた。
「人里か!?」
異世界だろうとなんでもいい、とにかく人に会えるんだったらそれでいい。
森を抜け舗装された道に出る。
ようやく文明の痕跡が見えたと安堵したのも束の間。
「危ねぇよ!どこ見てんだぁ!!」
後ろからから怒鳴り声が聞こえ、すぐに道からズレる。
しかし、咄嗟のタイミングで躱したからだろうか、バランスがうまく取れず、よろめいて尻餅をついてしまう。
「いてぇ…」
「おい、大丈夫か?」
見上げると馬に乗ったおっさんがこちらを心配そうにみていた。
「馬車か」
新島はそう呟く。
どう考えてもここは日本じゃない、あの魔物もそうだが、やはり異世界に転生したと見て間違いないだろう。
荷馬車から複数の男が怪訝そうにこちらを見ている。
明らかにガラが悪そうだ。
ここで俺は転生者だと騒いだところで頭を強く打ったのだと思われるだけだろう。
「すみません、頭を打ってしまって…ここがどこだかわからないんです」
「お前さん冒険者か?そういう格好にも見えないが、こんな森の側にいたら危ない、馬車に乗れ!無料で街まで連れてってやる」
心の中で思いっきりガッツポーズを取る。
最初に出会った人がこのおっさんでよかった。
新島は馬車のおっさんに感謝しながら、荷馬車に乗り込む。
同席の連中が、こちらを不思議そうに見てくるが、無視を決め込む、残念ながら新島は積極的に声をかけていく程のコミュ力はなかった
ただゆっくりと街へ向けて揺られていった。
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