第8話

そうこうしているうちに春になった。桜は咲き乱れ、私の心身は若干春に押しつぶされそうだった。そんな中、沖縄にAの聖地巡りの話が盛り上がってきた。予定では5月らしい。そんなわけで私もバイトを始めた。大型ショッピングモールの棚だしだった。リーダーは凄く美人の人だったが、割と都合よく人を使い、厳しい支持を出す私としては嫌な性格の女だった。そこで14万円くらい貯めて沖縄に行く資金にあてた。


ちなみに沖縄でのプランは2泊3日のフリープランである。レンタカーがついてきて、宿泊所以外は全て自由、つまりオプションがないプランである。この方が自由度が高く安くつくのでミキちゃんが予約を取ってくれた。


5月までブチを探したがやはり見つからなかった。


そして5月上旬、沖縄旅行をすることになった。大阪国際空港から沖縄空港へ飛行機で行き、そこからレンタカーを借りることになった。人数は男3人、女4人だからワンボックス1台借りる予定だったが、ワンボックスがその時空きがなくて、BMWのオープンカーとローバーミニの2台で行くことになった。まず宿を探していたが、道中、祭りをやっているみたいだったので寄ってみた。そこでコロナビールやハイネケンの瓶ビールが格安で売られていたので買って行くことにした。


そしてようやく宿にチェックイン。そこはロッジ風の建物で、目の前がプライベートビーチになっていた。格安の割にはとてもいいところだ。朝食はバイキングで食べ放題。昼食と夕食はついては来ないけど。取り合えずその日は午後3時であったのでAのいる場所は次の日探すことにした。そして我々はプライベートビーチで遊んだ。完全に旅行モードである。


それから夜になって。


「あれって万座毛近辺だよな。」


とアキトが言った。


「そうだな。俺らが高校の時に行ったもんな。」


とヒロキ


「確かに。」


と私が続く。


「それならとにかく明日の朝、万座毛に行きましょう。」


とミキちゃんが行った。


「そうだね。私たちは高校の時は北海道だったから沖縄来るのは初めてだから。」


とリハ子が言い、リノちゃんと今岡がうなずいた。


「じゃあ、明日の朝7時ね!お休み!」


と女子4人は男子とは別の部屋へと入って行った。


「なんだかとんとん拍子でここまで進んできたな。」


と私が言った。


「そりゃ川ちゃんからすればそうだろ?俺たちなんて途中から入ったものとすれば摩訶不思議なことだらけで、ただただ驚いてここにいるだけだよ。」


とアキトが言った。


「俺はまだ信じきれない。それにAへの思いも...。」


とヒロキが言った。


「そりゃヒロキが思う気持ちは俺たちがAへの気持ちよりも何倍も強いとおもうよ。だからこうしていま沖縄まできてるんじゃん。その事だけは確かじゃねーか?」


とアキトが言った。


「まーな。」


とヒロキが言って、ゴロっと右を向いて寝た。


「俺たちも寝るか。」


とアキト


「だな。」


翌朝、ロッジのバイキングを食べ、その後、万座毛へと向かった。そしてその近辺で車を停めた。


「どこだろ?この近辺だというのは分かっているのに。」


とアキトが言った。


「そうだね。この辺りのはずなんだけどね。」


「なにあれ、可愛い!」


とリハ子が言った。すると今岡が


「ブサイクな猫だね。」


と笑っていた。


「ん?ブサイクな猫?」


それを聞いた私は一目散に猫のもとへ駆けて行った。


「ああ!お前はブチじゃないか!」


「え?ブチ?本当だ!」


とアキトも反応した。


「それってお前らが言ってた猫?」


とヒロキが言った。


「そうだよ。でもどうやってこんなところまで。」


「あの猫は特別だ。跡をつけよう!」


と私が言った。そうしてブチの跡をつけることにした。


ブチをつけて数分後、例のAが写ってた場所へ辿り着いた。


「マジか。あの猫、Aの生まれ変わりか?」


とヒロキが言った。


「やっぱり川ちゃんが言うようにAちゃんと関係があるのね。」


とミキちゃんが言った。


「それより早く写真を撮ろう!」


そう言って私が隊列を組むように指示を出した。


「川ちゃんは入らなくて大丈夫なの?」


今岡が言った。


「それは大丈夫それよりいくよ!はい、チーズ!」


「カシャ!」


と撮った瞬間にブチは一目散に逃げて行った。


「おい!ブチ!どこに行くんだ!おーい!」


とアキトが呼びかけたが、もうすでに茂みの中に隠れていった。


「ブチは自分のいるところを分かってるんだよ。だからもうそっとしとこうよ。」


と何となく私がそう感じて言った。


「さて、帰って飲むか。」


そうヒロキが言った。


「そうね。私も飲みたい。」


リノが言った。


そして宿泊所の近くの居酒屋にタクシーで行った。沖縄サワーなるものがあって、かなり度数が強いものだった。2杯飲んだだけで結構、酔いが回った。


「しかしこの写真、早く現像したいな。」


とアキトが言って、そしてお店の大将に


「大将!この辺で写真現像できるところない?4,5時間でできるところ!」


「それは無茶だよ。」


と私が言った。すると大将が


「あるよ。」


と答えた。


「国際通りの少し外れにあるよ。」


そう言って地図を書いてくれた。


「ありがとうございます!」


アキトが酒も入っているせいかかなり大きな声で礼を言った。


「みんな明日は現像してもらいに行くからお酒はこのぐらいにしとこう。」


ミキちゃんがそう言って男どもをなだめた。


「しょうがねーか。かえるか。タクシー呼んでくれ。」


とヒロキが足取りがおぼつかなく、立ち上がった。


そしてタクシーが来て、宿まで帰った。


「明日は写真現像してもらうのが10時で私たちが飛行機のるのが16:00だから時間厳守ね!観光するのも少ししかできないからお願いね!」


とミキちゃんが言った。


「それじゃあおやすみ~。」


そういって皆眠りについた。


翌朝。皆で国際通りへと行った。色んなものがある。私は幼い頃と高校の修学旅行と大学の時、彼女と、3回沖縄に行ったことがあって気になっていたスターフルーツを買おうとしたが、また今回も買わなかった。値段の割にあまり美味しくないらしい。マンゴージュースを手にぶらぶら歩いてた。そして、写真屋の開店時刻の10時が来たので写真屋へと向かった。


「すいません。このフィルム現像してもらえませんか?一応、手製のモノクロフィルムなんですが、大丈夫でしょうか?」


と私が言うと店員が


「う~ん。今時この手のフィルムか。腕が鳴るな。任せとけ。何とかする。5時間で仕上げる。」


「よっしゃ!やった!お願いします!」


そう言って店から出て観光をする予定だったのだが、私はソワソワして観光どころではなかった。皆はAが写ると思っているかもしれないが、私には何が起こるのか分からないからだ。ブチの件といい、確かにAが写る偶然の必然性は高い。しかしなぜみんなはそんなに楽観視できるのだろう?


「川ちゃん、なんでみんなが楽天的になっているか考えてない?」


とアキトが言った。


「うん。何で分かったの?」


「そりゃ川ちゃんと長い付き合いだからさ。みんな楽観視しているわけじゃなくて、それを考えないようにしているだけだよ。大人になればなるほどそういうことから逃げるズルさを覚えるんだ。川ちゃんは純粋だからそういうことが苦手なだけなんだと思うよ。気持ちはわかるよ。」


「なるほど。」


なんとなくだが分かったような気がする。


それから観光を終え、写真屋に行った。そして写真を見た。するとやはりAが写っていた。みんなの隊列の真ん中に両手でピースしたAの笑顔。そして私も何故か写っていた。するとミキちゃんが


「Aちゃん...。Aちゃん...。うううぅぅ...」


と言って泣き出した。そしてヒロキも


「Aー!Aーよ!」


と泣き出した。


そしてみんなつられて泣き崩れた。私は何故だか泣けなかった。ずっとAを追いかけてきたが、やはりそこには直接Aと関わってきている絆のようなものが欠けているからなのであろうか。分からないが泣けなかった。


そして一同、半ベソかきながら飛行機に搭乗して、しばらく泣き続けた。


そして皆、関西国際空港に到着し、それから地元に着き、今度は今まで私が撮ってきた写真をAの両親に見せようという話になった。私は少し渋った。


それから数日後、ミキちゃんとリノちゃんから連絡があり、写真を持って一緒にAの両親に会いに行こうとのことだった。しかし私は何一つとしてAに思いやることが出来ず、ただひたすら自分本位の好奇心でAを追いかけて写真を撮り、Aに対する配慮や尊敬の念が欠けているのではないかという思いから、両親に会うということはかなりの後ろめたさがあり、私自身に嫌悪を抱いた。だから私は精神病が悪化したと言ってAの両親と会うのをやめた。写真やネガは全てミキちゃんたちに渡した。


しかし私はこれで高校時代の棘が一本、心から抜けた。Aと遊ぶという目標は達成できなかったが、Aに関わることはできた。なんだか気持ちと行動は相反するようなものだが、私の中のAは確かに存在した。


私はこれを機に遅咲きながらプロのカメラマンを目指すことにした。

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少女A 秦野 駿一 @kwktshun

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