第27話


「わたしと同じだね」

 凌乃が無邪気に、私とお揃いだと笑う。


 私は凌乃の耳にふれたことなんてない。それなのに、凌乃は自分の気持ちいい場所を知っている。

 それは私以外のが、凌乃にふれた証拠にほかならないわけで。


 浮かされた頭が急激に冷やされた。散々ふれられて、色を帯びて身体に溜まっていた熱が苛立ちに塗り変わる。


「凌乃、手離して」


 突然の不機嫌な声に、私の身体にふれていた凌乃の指がビクリと震え動きを止める。

 抑えていた苛立ちを急に吐き出した私に、凌乃が戸惑いの表情を見せる。


「⋯⋯春歌、怒ってる?」

「いいから離して」

「⋯⋯わかった。ごめん」


 両腕がようやく解放され、私は無言のまま起き上がる。馬乗りになっていた凌乃は、そのまま私の膝の上に納まった。気まずそうに伺う視線を向けられるが、私は一切取り合わない。


「春歌? あの、ごめんね?」

「許さない」

「っ⋯⋯」

 取り付く島もない私の様子に、凌乃が泣きそうな顔をする。そんな凌乃を相手にすることなく、私は凌乃が着ているパーカーのファスナーを下げていった。


「えっ?」

 膝の上で凌乃が困惑した表情を浮かべるが、そんなことはお構いなしだ。ファスナーを完全に下ろして、パーカーを脱がせていく。凌乃は抵抗することなく、あっさりとキャミ1枚とショートパンツの姿になった。


「春歌、えっちするの?」

「はぁ? するわけないでしょ」

「そんな言い切らなくてもいいじゃん⋯⋯」

「もう、うるさい。黙って」

「はい⋯⋯、ごめんなさい」


 大人しく膝の上に座る凌乃の太ももを、断りもなく無造作に撫でる。凌乃の太ももはすべすべで触り心地がよくて、撫でてるだけで気持ちいい。

 ゆっくり手を動かし内側を軽く撫でてやれば、その刺激に凌乃が身体を揺らす。

 なにか言いたそうな目で私を見るが、黙れと言われたことを気にしてか、凌乃はなにも言ってはこない。

   

 そんな凌乃の視線を無視して、私は首筋をゆっくりと指でなぞっていく。

 突然の私の行動に困惑しながらも、凌乃は抵抗する素振りすら見せない。私は凌乃の首筋に舌を這わせ、耳たぶにキスをする。


 凌乃の口から、甘い声がこぼれ落ちる。


「あ、んぅ⋯⋯春歌、それ、気持ちいい」

 思わずといった様子で、凌乃が私の身体に手を伸ばす。私の背中に腕を回し抱きつこうとするが、私はそれを許さなかった。


「凌乃、さわらないで」

「えっ⋯⋯、なんで」

「いいから。手離して」

「はい⋯⋯」

 凌乃が私から手を離す。その瞳は、隠すことない不満を訴えていた。


「凌乃は私に絶対さわったらダメだから。あと、声も我慢して」

「えー、なにそれぇ⋯⋯」

「いいから、黙って。唇は噛まないのよ」

「⋯⋯わかった」


 凌乃が渋々了承し、私はキャミの裾から手を差し入れお腹を撫でる。

「んっ⋯⋯」

 凌乃が私の膝の上で、漏れそうになる声を飲み込み、与えられた刺激に瞳を潤ませていく。私はひたすら、凌乃の身体に甘い刺激を注ぎこんだ。


 細い身体をゆっくりと撫で上げ、

 白い首筋に優しく舌を這わせ、

 耳たぶを甘噛みして輪郭をなぞる。


 凌乃は脱がされたパーカーを握りしめ、絶え間なく与えられる刺激に必死に耐えているようだった。

 甘い声が漏れないよう口を抑える手が、小さく震えている。


 まだ、足りない。

 もっともっと、逃がすことなく溜め込めばいい。


 声と一緒に、凌乃の中から熱が漏れ出ることが許せない。凌乃の内側を埋めつくして、私だけに塗り潰したい。そんな激しい衝動が身体を突き動かす。


「っ、はぁっ、はる、か。も、無理⋯⋯」

「⋯⋯」

「ね、春歌ぁ。なんか言って、んっ、あぁっ」

「⋯⋯ねぇ、凌乃。痕つけていい?」

 首筋を撫でながら問いかける。甘い刺激に耐え続けた白い首筋は、すっかり赤くなっていた。

「な、に⋯⋯痕? んぅ、春歌なら、なにしてもいいよ」

 潤んだ瞳で私を見る凌乃の首筋に、触れるだけのキスをする。


「声、出さないでね」

「⋯⋯えっ?」

 私は凌乃の鎖骨にキスをして、ほんのり赤くなった肩に、容赦なく




「もー、結構痛かったんだけど」

 お風呂上がりに髪を乾かしていると、凌乃が私のつけた噛み痕を撫でながら文句を言う。

「ちゃんと許可は取ったから」

「まさか噛むなんて思わなかったもん。痕つけるって、普通はキスマークとかじゃないの?」

「私がそんなのつけるわけないでしょ」

 

 冗談じゃない。

 ただでさえ目立つ存在なのに、そんなものつけて誰かに見られたらどうするのよ。


「なんでよ、キスマークつけてもいいよ?」

「絶対いや」

「また言い切るし⋯⋯」


 誰かに見られて、凌乃が痕をつけられるところを想像でもされたら⋯⋯。考えるだけで腹が立つ。


「とにかく許可は取った。なんか文句あるの?」

「ない、です⋯⋯」

「ならいいわ。もう寝るわよ」

「はーい」


 ベッドで手招きをしてやれば、凌乃が嬉しそうに抱きついてくる。

「春歌。噛まれたとき、ちゃんと言われたとおり声出さなかったよ? ほめて?」

「そうね⋯⋯」

 私は凌乃の肩についた自分の痕を優しく撫でる。



 ――私の⋯⋯。



 私に褒めてもらおうと期待に満ちた目で待つ凌乃に、私は無言でおやすみのキスをする。

 不意打ちを食らった凌乃は、大きい目を更に見開いて驚いている。


「おやすみ、凌乃」


 私は、また凌乃がろくでもないことを言い出す前に、フリーズしている凌乃を抱きしめて寝ることにした。




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