第26話
「わたしがしてあげる」
私に馬乗りになった凌乃が、嬉しそうに私の両腕をベッドに張り付ける。
「はぁ!? ちょっとやめてよ!」
「やめなーい。癒してあげるから大人しくしなよ」
「両腕拘束しといて、癒しもなにもあるかぁ!」
「春歌うるさいよ? 騒いでも離してあげないから観念しなさい」
ニヤニヤ笑いながら、片手で器用に私の制服のネクタイを緩めブラウスのボタンを外していく。
⋯⋯はっ?
「ちょっと!? なんでボタン外してんのよ!? ハグとキスって言ったのはどいつよ!」
「んー? わたしかな? まぁまぁ、こんなの誤差の範囲だから」
「だから、凌乃の誤差の範囲は広過ぎるのよ!」
「春歌って着痩せするから目立たないけど、実は隠れ巨乳だよね。いいなぁ」
「人の話を聞けぇ!」
凌乃の手は一向に止まる気配がない。
こいつのこういうとこ、本当に理解できないんだけど! どういう思考回路してんのよ!
「もー、うるさいなぁ。そんなおっきい声ださないでよ」
「じゃあ離してよ!」
「まだ、ダメー」
凌乃はボタンを全て外し、ブラウスをはだけさせる。私を守る物はキャミ1枚で、なんとも心許ない状態だ。
「さて、どうしようかなぁ?」
ニヤニヤした凌乃がキャミの裾からおもむろに手を差し入れ、私の下腹部に手をあてる。
「あっ、ちょっと待って⋯⋯、やだ、くすぐったっ、やめっ、ふっくっ、あははっ!」
「ありゃ、春歌はお腹くすぐったい人か」
そう言いながら凌乃が躊躇なくキャミの裾をめくっていく。
はっ? なに、ちょっと、待って!
「ちょっと、凌乃!? なにする気よ!?」
「んー、お腹にキスしたかったんだけどね。手押さえてるからさすがに届かないかなぁ。ねぇ春歌? ネクタイで手首縛ってもいい?」
「もうバカなの!? そんなことしたら絶対に許さないからね!」
こいつなら、本当にやりかねない感じがして怖いんだけど⋯⋯。
「はいはい。春歌お腹は気持ちよくないみたいだからやめとくね」
「そういうことじゃないわよ!」
「もしかして開発とかそういう話? 今日はそこまでしないよー」
「もう、本当にバカ! いい加減離してよ!」
「ダメだってば、しつこいなぁ。今日は春歌の身体の、気持ちいいとこ探しするんだから」
「はぁ!? 本当になに考えてんのよ!」
っていうか、本気で振りほどけないんだけど!
どうなってんのよ!?
「やっぱり王道から攻めるべきだったかな?」
馬鹿みたいなことを真顔で言いながら、凌乃は私の首筋にキスをする。
「ん、ちょっと、凌乃やだってば!」
「ここもいまいち? でも、まだそうと決めるのは早いよね?」
凌乃は相変わらずニヤニヤしながら、私の首筋を満遍なく刺激しはじめた。首中に軽く撫でるようにしていたそれは、だんだんと舐めるようなものに変化していき⋯⋯、それにつられるように、私の身体が徐々に熱を溜めていく。
「んっ⋯⋯、凌乃、いい加減に⋯⋯して」
吐息が漏れそうになるのを必至で堪えながら、私は凌乃を睨みつける。
「ははっ、それじゃダメだよ春歌? そんな潤んだ瞳で睨んだって、むしろ誘ってるみたいにしか見えないから」
私を見下ろす凌乃は、私の唇に指をなぞらせて楽しそうに笑っている。
「誘って、なんかない⋯⋯。馬鹿なこと、言って、んっぁ⋯⋯やっ」
耳のすぐ下を凌乃の細い指がなぞっていく。更に耳たぶを唇で刺激され、思わず甘い声が漏れる。
途切れ途切れに抗議をする私の言葉を阻むように、凌乃は動きを再開させた。
「もしかして、首筋より耳の方が気持ちいい?」
耳元で吐息混じりに囁かれ、凌乃の唇が耳にほんの少しだけ触れる。
「あっ、や⋯⋯」
そんな近くで、しゃべんないで⋯⋯。
私の反応を見て、凌乃は心得たように執拗に攻め始めた。耳の裏側にわざと音を出すようにキスをされ、甘噛みされる。
「あんっ、やっ、だ⋯⋯凌乃⋯⋯」
次第に甘い声を漏らす私に、凌乃は気を良くしたように目を細めた。
耳の輪郭に丁寧に舌を這わせ、内側を舌と唇でじっくりと攻めたてる。耳元で凌乃の吐息と水音が混ざりあって、脳に直接刺激を送られているかのようだ。ゾクゾクした感覚が身体中を包み込み、溜まった熱に頭が沸騰しそうになる。
もぅ⋯⋯無理、頭おかしくなる⋯⋯。
「春歌、その表情、凄く可愛い。もっとしてあげたくなる。耳、気持ちいいんだ?」
――表情? なに⋯⋯?
うまく頭が働かない。そんな私の様子を見下ろして、凌乃は満足そうに笑ってる。相変わらず馬乗りで私の両腕は凌乃に拘束されたままだ。
「その笑顔、ムカつく⋯⋯」
「えー? 気持ちよくなかった?」
「⋯⋯うるさい」
「あはは、可愛い。耳が気持ちいいの、私と同じだね」
――はっ?
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