私が抱き枕になるまでを説明をいたします ～私と彼女の秘密の事情～

第19話

「凌乃、本当にごめんね？　続き話してくれる？」

　泣きやんだわたしの頬を撫でながら、春歌が気まずそうに問いかける。わたしは、春歌の膝からおりてそっぽ向いた。

「春歌が機嫌悪くなるからやだ」

「違うの、さっきのはそういうことじゃなくて⋯⋯」

「じゃなくて、なに？」

「あれは、その、不毛な感情と言うか⋯⋯」

「よくわかんない。どういうこと？」

「とっ、とにかく、今日はいいから。今度ちゃんと話す。凌乃の話に機嫌悪くしたわけじゃないから、そこだけは誤解しないで」

「本当？　わたしのせいじゃないの？」

「誓って違います。だから続き話して？」

「⋯⋯わかった」

　少し納得いかないけど、しつこく聞いても話してくれそうもないので諦める。

「それで、理由ってなんなの？」

「セフレはえっちしたいから、わたしの身体あげれば満足してくれるでしょ？」

「えっと、そう、ね？　理由がえっちってこと？」

「わかりづらい？　なんて言えばいいかなぁ。例えば、お腹すいたらご飯屋さんに行くでしょ？　食べにきてくれる。お腹すいたって理由があって、ご飯って目的があるから」

「⋯⋯つまり、セフレは凌乃の身体って目的があってえっちする理由があるから怖くないってこと？」

「うん、そういうことかな」

「⋯⋯なるほど。発想が違いすぎて理解できなかったけど、ようやくわかってきたわ」

　どこか呆れたような声に、また少しだけザワザワした気持ちが顔を出す。

　なんかおかしなこと言ったかな⋯⋯？　友達が嫌なわけじゃないんだけど、うまく伝えられない。

「なに、また変な顔してるのよ」

「してない」

「もしかしてそれも自覚なし？」

「⋯⋯それってなに」

「不安そうな顔してる」

「えっ？」

「無自覚か。もっと早く言ってあげたら良かったわね」

　びっくりした。どうやら今のわたしは、いたるところから不安が滲み出ているらしい。まったく気づかなかったんだけど。

「凌乃、続き話せる？」

「うん⋯⋯、大丈夫」

「セフレが怖くないのはわかったわ。友達だとその理由がないから怖いってことであってる？」

「そんな感じ」

「だから私とえっちすれば、その理由ができるって考えたと。それはもう友達じゃなくてセフレね」

「⋯⋯たしかに」

「はぁ、凌乃は相変わらず頭良いくせにバカね」

「だってぇ」

　春歌が苦笑いを浮かべながら頬を撫でてくれる。言葉とは裏腹な優しい手つきに、自分から春歌の手にすり寄る。

「友達が怖い理由はわかった。凌乃、そもそもなにが怖いの？」

「⋯⋯春歌がいなくなっちゃうの」

「そういえば、さっきから言ってるわね。それなんなの？　私がいなくなるわけないじゃない」

「そんなのわかんないじゃん。春歌にはわたしといるメリットがないもん」

「メリット⋯⋯なるほど、そういうこと。メリットがないと私がいなくなっちゃうから不安で、えっちすればメリットができるから離れないと思ったってことね」

「うん、たぶんそんな感じ⋯⋯」

「凌乃が大切だからって理由じゃだめなの？」

　――大切⋯⋯？　わたしが？

「――そん⋯⋯わけな⋯⋯」

「凌乃？　なに、よく聞こえなかった」

「わたしが大切なんて、そんなわけない！　そんな人、いるはずない！」

　突然大声をあげるわたしを、春歌がびっくりした顔で見つめる。次の瞬間、春歌はわたしに手を伸ばし、力いっぱいわたしを抱きしめた。　

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