第17話


「はっ? なにしてるの?」


 玄関ドアの前で膝を抱えて蹲っていると、春歌の声が降ってくる。意識がぼんやりしていて、どこか遠くから響いてくるようだ。


「凌乃!」


 肩を強く掴まれ、身体をビクリと震わせる。意識が浮上して顔を上げると、目の前には春歌がいた。


「あっ⋯⋯はる、か」

「なに、どうしたの? なんで上着も着ないでこんなとこに座ってるのよ」

「⋯⋯春歌!」

 気持ちに振り回され過ぎてずっと苦しくて、もう自分ではどうすることもできなくて、必死に春歌に縋り付く。


「ちょっ、わかったから、落ち着きなさいよ」

「春歌、もう来ないかと思った⋯⋯」

「はっ? なんでよ。っていうか、もしかしてずっと外にいたの?」

「⋯⋯」

「はぁ、なにやってるの。身体冷えきってるじゃない。ほら、立って。部屋入るわよ」

「うん⋯⋯」



 

 春歌に連れられ部屋に入ったわたしは、ベッドに寄りかかった春歌の膝の上にいる。向かい合わせに座り、少しでも隙間を埋めたくて抱きついていた。


「ちょっと、重いんだけど」

「春歌より重くない」

「ぐっ⋯⋯。あんた弱っててもムカつくわね」

 ここで離されたらたまらないと、背中に回した腕の力を強くする。春歌の肩に顔を埋め、いやいやアピールするようにグリグリと額を押し付けた。

「はぁ、ちょっとだけ離れてくれる?」

 ため息混じりに言われ、泣きそうになる。

 

 ――いつもは抱きついてもそんなこと言わないのに⋯⋯。なんで? もうダメなの?


「やだ⋯⋯」

 絞り出すような声になってしまう。

「また変なこと考えてるでしょ? 膝から降りろって意味じゃないから。これじゃ動けないから少しだけ離して」

 後ろ髪を梳くように撫でる仕草から、わたしのことを落ち着かせようとしているのがわかった。

 渋々と身体少し離すと、春歌はベッドから毛布を引っ張り出しわたしに巻き付けた。そのまま軽く抱きしめられ、元のように寄りかかるよう促される。


「身体冷えすぎ。ブラウス越しにでも冷たいの分かるわよ。いつから外にいたの?」

「⋯⋯迎え行くってLINEしたあたりから」

「そんな前から? 寒いからいいって言ったのに、外にいたら意味ないじゃないの」

「だって⋯⋯、もう春歌部屋に来てくれないと思って⋯⋯」

「それ、さっきからなんなの? 私そんなこと言った?」

「言ってない⋯⋯」

「はぁ、なんなのよ。もうダメ。今日は全部話してもらうから」

「自分でもよくわかんないから、うまく話せない」

「別にうまく話せなんて言ってないでしょ」

 春歌が背中を軽く撫でてくれる。

「うん⋯⋯」

「それで? 凌乃はなにをそんなに不安がってるの?」



 ――えっ? ふあ、ん⋯⋯?




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