第13話


「春歌遅いなぁ」


 わたしは、いつものように歩道橋で予備校終わりの春歌を待っていた。

 辺りはすっかり冬の空気で、息を吸う度に肺が冷えていく。


「わたしが迎えに来るの、春歌は迷惑だったりするのかなぁ。本当はどう思ってるんだろ⋯⋯」

 あまり眠れていないせいか、友達の迷宮に迷い込んだせいか、なんだか思考回路がネガティブだ。元々ポジティブなわけではないが、我ながらちょっと······うざい。


「はぁ···⋯」

「なにため息吐いてるのよ」

「えっ!? 春歌!?」

 歩道橋に項垂れかかっていて、近付いてくる春歌にまったく気が付かなかった。

「びっくりしすぎじゃない?」

 狼狽えるわたしを見て、春歌はクスクス笑っている。


「⋯⋯お疲れ様」

「うん。待たせてごめんね? 寒かったでしょ」

 春歌がわたしの頬に触れるよう手を伸ばしてきて、わたしは自ら春歌の手の平に頬を寄せた。

「ん、大丈夫」

「ほっぺた冷たくなってる。凌乃、もう迎えに来なくてもいいよ?」


「――えっ?」

 春歌の言葉に、思いの外ショックを受けてる自分がいて、尚更に動揺してしまう。

「もう、わたしの部屋に来ないの?」

 声が震える。

 

「はっ? なんでそうなるのよ。寒いなか待ってたら風邪ひくでしょ? 迎え来なくてもひとりで行けるから大丈夫ってこと」

「あぁ、そういう⋯⋯ことね」

「どうしたのよ、やっぱりこの間からちょっと変じゃない?」

「⋯⋯なんでもない」

「じゃあ唇噛まないの。切れるよ」

 春歌が唇を撫でてくれる。無意識に噛んでいたらしい唇からは、軽く血の味がした。


「言いたくないなら無理には聞かないんだけどさ。さすがにちょっと心配なんだけど? 夜眠れてないでしょ」

「⋯⋯わかんないんだもん」

「なにがわからないのよ」

「わかんない。心がザワザワして気持ち悪い」

「なにそれ、私はどうしてあげたらいいの?」

「わかんない⋯⋯。もう、部屋に帰りたい⋯⋯」

「そんな泣きそうな顔しないでよ。ほら、帰ろ?」


 春歌が困った様子で手を握ってくれる。わたしは自分が泣きそうになってる理由がわからず、春歌に連れられるまま部屋に帰った。




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