第10話


「それで? なんで戻ってきたわけ?」


 私は家を飛び出して、凌乃の部屋に戻ってきていた。

 そして、なぜか、正座をさせられている。


「あの日のこと、誤魔化して話さなかったくせに。随分と調子よくない?」

「⋯⋯やっぱりバレてたか」


 わかってたけど、私からは言えなかった。言えなかったけど、気がついてくれたことに嬉しい気持ちもあってむず痒い。


「当たり前」

「ごめん」

「別にいいけど?」

「それ本当は怒ってるやつ」

「怒ってない」

 

 めずらしく凌乃が拗ねた表情をしている。

 なんか、拗ねた凌乃って凄く可愛い⋯⋯。言ったら余計怒りそうだから言えないけど。


「ごめんね? 言葉にしたら認めることになる気がして、怖くて言えなかったんだと思う」

「⋯⋯わかった。足崩していいよ」

「ありがとう」


 すでに軽く痺れてるんだけど。

 

「言いたくないことは言わなくていいから、嘘はつかないでほしい」

「うん。ごめんね」


 どうせ、凌乃にはバレるんだと思う。それはそれで、なんだか悪くないかな。



「もうわかったからいい。部屋に戻ってきたってことは、その認めたくないこととちゃんと向き合ってきたの?」

「そ⋯⋯う、だね」

「そっか、自分のために頑張ったんだ。えらいね」

「⋯⋯うん、頑張った、よ」


 せっかく止まった涙が、またこぼれる。


「凌乃。悔しくて、悲しくて、息が止まりそうだったよ。頑張るって苦しいね」

「そうだねぇ。いっぱい頑張った証だねぇ」


 凌乃が優しく抱きしめてくれる。


「あんな親でも、ちゃんと愛されてる、って、思っていたかった。信じて、いたかったな⋯⋯」

「頑張って受け入れたんだねぇ。春歌、えらいよ」

 

 痛くて、辛くて、今にも心が壊れてしまいそうで。私は凌乃の腕の中で声をあげて泣いた。




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