第7話


「実の父親に、煙草押し付けられてついた痕だよ」


 はっ? 何言ってるの?


「わたしの父親、頭イカれててさ。泣き叫ぶ娘のお腹に煙草押し付けて心から笑ってんの。狂ってるよね。煙草だけじゃなくて他にも色々されたよ」


 想像してゾッとした。


「痕を塗り潰すために彫った。あいつにつけられた傷はすべて上書きしてやるんだ」


 ⋯⋯なんでそんな笑顔でいられるの?


「⋯⋯もう、大丈夫なの?」

「普通に大丈夫じゃないよね。身体の傷は癒えてもさ、心は今も血が流れたままだよ」

「⋯⋯っ! ごめん、私」


 私、本当にバカだ。そんなこと、少し考えれば大丈夫なわけないってわかることなのに⋯⋯。


「ううん、いいよ」

「でも⋯⋯」

「この世界は狂ってるから。そんな世界に、わたしは支配されてなんてやらない。だからいいんだよ」


 そう言って凌乃が笑う。私は凌乃の笑顔に、なぜか泣きそうになった。


「それに、春歌だからいいよ」

「私だから? なんで?」

「春歌はわたしの抱き枕だから」

「なにそれ、誤魔化さないでよ」

「誤魔化してないよ。春歌といると眠れるから」

「⋯⋯なに、どういうこと?」


 私が凌乃の抱き枕で、凌乃は私といると眠れる?

 言葉にしてもよくわからないんだけど。


「わたし不眠症なんだよね。普段は薬飲んで、無理やり寝てる。春歌といると薬飲まなくても眠れるんだー」

「そう、なん⋯⋯、だ」


 凌乃が、さらっとなんてことのないように不眠症だと打ち明けてくるものだから、私は思わず言葉に詰まってしまう。


 っていうか、知らなかった。私って冗談じゃなくて本当に抱き枕なんだ⋯⋯。


「ねぇ。凌乃は私がいると眠れるんだ?」

「そうだよー、春歌が必要なの」

「私が⋯⋯必要」


 凌乃が必要なのは、私なんだ⋯⋯。


「それにねー、春歌とするキスも気持ちよくて好きだよ。いっぱいして、わたしの中を春歌で埋めつくしてほしくなる」

「なんかそれ、変態っぽい」

「そう? 春歌は気持ちよくない?」


 凌乃が私の首に腕をまわし、甘えた瞳でキスをせがんでくる。


「⋯⋯えっちはしないからね」

「ふふ、分かってるよ」

 

 唇に触れるだけの軽いキスを落とす。


「春歌、もっと」

「うん⋯⋯」


 ねだられるままにキスをくり返し、唇を軽く舐める。私はうっすらあいた隙間から、凌乃の中に侵入していく。首にまわされた凌乃の手が、私の服を掴んだ。

 舌を絡め合って、お互いの吐息が混ざり合う。


「んん⋯⋯。春歌ぁ、まだ勉強するの?」

「⋯⋯はぁ、わかった。寝ればいいんでしょ」


 私はすっかり観念して、嬉しそうに続きをせがんでくる凌乃に、あやすようなキスをくり返した。




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