第6話


「凌乃、今日帰る前に書類出してかなきゃだから遅くなるかも」


 空き教室の肌を突き刺す空気が、冬の始まりを告げてくる。

 あれから凌乃は、私の予備校の日に歩道橋まで迎えに来るようになった。平日は少しだけ一緒に過ごし、週末には凌乃の部屋に泊まるのが当たり前になっていた。


「わかったー」

「ちょっと、外でキスしないで」


 凌乃はやたらとキスをしたがる。部屋でふたりきりでいるときはもちろん、寝る前や起きたときにもだ。いい加減慣れてしまった自分も怖い。


「だめか、残念」

「その格好でされても違和感しかないしね」

「えー、そう? 眼鏡外す?」


 制服姿の凌乃はそう言いながら、いたずらっぽい表情で眼鏡を外す。


――こいつ、本当に顔だけはいいのよね。


「そういうのいいから。じゃあまた夜ね」



 ◇◇◇



 夜、私は凌乃の部屋で絡まれていた。


「ねー、なんで帰ってきてまで勉強してるのー? 寝ようよー」


 ベッドでゴロゴロ転がりながら、凌乃が駄々をこねている。


「もう少しやったらね。来週模試なの」

「えー、そんなのいいじゃん」

「はぁ、なんでこんな奴が万年首位なの」


 思わずため息が漏れてしまった。


「こんな奴って失礼だなぁ」

「舌ピアスして、タトゥーまで入れてる一位様なんて、日本中探してもあんただけよ」

「外見が学力を決めるわけじゃないからねぇ」


 凌乃はベッドに横になりながら、ケラケラと笑っている。軽くめくれた裾から青い薔薇が見えた。

 

「ムカつく。大体なんで、目立ちたくないって言っておきながら、そんな目立つタトゥーなんてしてるのよ」

「あー、それ聞いちゃう?」

「⋯⋯なによ」

「まぁ、春歌にならいいか。こっち来て」


 凌乃が笑顔でベッドに私を呼ぶ。


「さわってみて」


 ベッドに仰向けに横になった凌乃が、服をお屁の上まで捲りあげる。


「はっ? なんで?」

「いいから」


 促されて、凌乃の腹部に咲き誇る薔薇にふれる。


 ――なんか、盛り上がってる?


 滑らかな肌の感触に混じって、薔薇の中心が隆起していた。


「それね、火傷の痕なんだ」

「火傷? なんでこんなとこに?」

「煙草押し付けられた。父親に」



 ――はっ?




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