第4話


「お疲れ様。ちゃんと来たじゃん、えらいね」


 昼間学校で言ったとおり、凌乃は歩道橋の縁に寄りかかり私を待っていた。制服とは違う、あの日のような格好をしている。

 間違いなく同一人物らしい。

 

「別に。帰り道なだけだから」

「そっか、またキスしてほしいのかと思った」

「はぁ!? そんなわけないでしょ!?」

「そうなの? わたしはしたいけど」


 クスクス笑いながら凌乃は私に手を伸ばす。頬にふれる手は優しくて、力が抜けていく。


「してもいい?」

「⋯⋯だめ」

「どうして?」

「外、だから」

「ふーん? なるほどね」


 頬にふれていた手が耳の輪郭を軽く掠め、そのまま首筋を撫でていく。それだけでゾクゾクと身体が反応してしまう。


 なんなの、これ⋯⋯。


「じゃあ、わたしの部屋行こっか」

「はっ? いきなり何言ってんの」

「外じゃなければいいんでしょ? わたしひとり暮らしだから、誰にも見られないよ」

「ち、ちがっ! そういうことじゃ、ない⋯⋯」


 それじゃまるで私が望んでるみたいじゃない。

 そんなわけない⋯⋯。


「はいはい、わかったから」

「全然わかってないでしょ!?」


 凌乃は私の手をしっかりと握り、駅に向かって歩き出す。私よりずいぶんと小柄なのに、その力は思ったよりも強かった。


「それじゃ行こうねー」

「ちょっと、引っ張らないでよ! 行くなんて言ってない!」

「はいはい、こっちだよー」

「人の話を聞きなさいよぉ!」

 

 凌乃に手を強く握られ、私はその手を振りほどけない。自分でもどうかしてると思いながら、凌乃の後をついていった。




―――――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る