第3話
「気づくの遅くないかなぁ? さすがに傷つくんだけど」
宮崎さんは、空き教室に乱雑に置かれた机の上に足を組んで座っている。話をするために教室で話しかけたときは随分としおらしい態度だったのに、ふたりきりになった途端これだ。
「わかるわけないでしょ。なんなのその格好」
いくら探しても見つからないわけだ。
彼女――
なにより、宮崎さんは常に学年首位の模範的生徒で……。とてもじゃないが、あの夜のような格好は想像できなかった。
「なにって、制服でしょ?」
宮崎さんはスカートの裾をつまんでヒラヒラさせている。
「そうだけど。イメージ違うし、なにその眼鏡」
「目悪いからかけてるに決まってるじゃん」
「あの日はしてなかったのに」
せめて素顔だったら、私だってもう少し早く見つけられたのに⋯⋯、たぶん。
「コンタクト。ってか眼鏡も制服だから」
「はっ? なによそれ」
「目立つメリットなんてないし。どうせみんなイメージで勝手にレッテル貼って決めつけるんだから、大人しく演じてた方が楽でしょ」
「それは、そうかもだけど⋯⋯」
宮崎さんは悪びれもせず、優等生の演技だと言ってのける。
真面目な子だと思ってたのに。宮崎さんの、優等生のイメージが音を立てて崩れていく。
「現に春歌だって気づいてなかったでしょ? クラスメイトなのに初対面とか言われて傷ついたなー」
「それは⋯⋯、宮崎さんとそんな話したこと無かったし⋯⋯」
実際クラスメイトと言っても、ちゃんと言葉を交わすのは初めてなんじゃないだろうか。
「凌乃」
「はっ?」
「宮崎さんじゃなくて凌乃。呼んでみて?」
「⋯⋯凌乃」
「ふふ、わたしの春歌は素直でいいこだね」
凌乃はとても綺麗な笑顔で、とんでもない事を言い出した。
「ちょっと、それ! 私あんたのじゃないんだけど!?」
「春歌はわたしのだよ。覚えてるでしょ?」
そう言いながら机から立ち上がった凌乃は、私を教室の壁に追い詰めるように距離を詰める。
「覚えてるって、なにを⋯⋯」
凌乃からおもむろに伸ばされた手に、私の身体が自然と強ばる。
「っ⋯⋯」
あの夜を思い出させるように唇を指でなぞられ、思わず言葉に詰まってしまった。
「勝手なこと、言わないでよ⋯⋯」
「ふふ、今日は夜予定ある?」
「⋯⋯予備校」
これも、あの日と同じだ。
「じゃあ予備校終わるの、あの歩道橋で待ってる」
「はっ? 勝手に決めないでよ」
なぜか凌乃は嬉しそうに笑ってる。
――なに考えてるの?
「それじゃ、教室戻るねー」
「ちょっと待ちなさいよ! 行かないからね!」
凌乃は私の声が聞こえていないかのように、振り返りもせずひとり教室に戻っていった。
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