第2話
「このクラスもいないか⋯⋯」
私――
もう1週間は探してるのに、見つからないなんておかしくない? っていうか、またねって言ったんだからそっちが会いに来なさいよ!
苛々しながら教室に戻ると、前の席に座る友達から「春歌、またどっか行ってたの?」と言われてしまい、内心ため息を吐く。
「うん、ちょっと人探してるから」
「だれだれ? イケメン?」
⋯⋯なんでそんなの探さなきゃならないのよ。
「いや、女の子」
「なんだ女かよー。春歌って美人でモテるのに、告られても誰とも付き合わないじゃん? そんな春歌が探してるって言うから、やっと好きな男でも出来たのかと思ったのに」
「残念。そういうのじゃないんだな」
別に意識的に恋愛をしないわけではない。今回のことだって、いっそのことそういう話だったらこんな苦労してないのにと思う。
「ふーん? 探してるのどんな子?」
「舌ピアスしてる不良っぽい子」
「はぁ? そんな子うちの学校にいるわけなくない?」
「そうよねぇ⋯⋯」
そうなのだ。うちの高校はなかなかの進学校な上に、校則もかなり厳しい。あんな目立ちそうな子がいたら、すぐにみつかりそうなものだ。
実際は、1週間かけて噂のカケラすら見つけられていない。
「その子の名前は?」
「知らない」
「何組?」
「わかんない」
「どこで知り合ったの?」
「私が聞きたい」
「それ、本当に存在してる人?」
「⋯⋯たぶん。いると思う」
私が投げやりにそう言いながら机に突っ伏すと、ちょうど始業のチャイムが鳴り響いた。
焦れたような気持ちの私を置き去りにして、授業が始まる。私は、先生が黒板に書き綴る文字をぼんやり眺めていた。
全クラス見たんだけどなぁ。もういっかい三年から見て回る? ⋯⋯やっぱり上級生のフロアは怖いし、見直すなら一年からにしようかな。
「――宮崎、前に出てこの問題解いてみろ」
「はい」
黒板には難しそうな問題が書かれている。私は、行儀良く進んでいく授業を上の空で聞いていた。
チョークの走る音を聞きながら、次はどこを探すか考えていると、ふとその事実に思い当たる。
――待って、全クラス見てない? いやいや、そんなわけない、よね? だって、あと探してないのこのクラスだけなんだけど。
思わず周りを見渡すと、黒板に書かれた問題をあっさりと解いて席に戻る宮崎さんと目が合った。
宮崎さんは私と目が合うと、にっこり笑顔で視線を返してくれる。その笑顔にはどこか既視感があって⋯⋯。
宮崎さんが笑顔のまま、おもむろに舌を出す。その舌にはピアスが光っていた。
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