第2話 チート売りのレイヴン
サプリの配信は500人ほどしか視聴しておらず、駆け出しのダンジョン配信者と言ったところか。
俺もこれが初めてなので、2人の視聴者しかいない。
《エロで釣っているってホント?》
《いやいや、ラッキースケベかよ》
こんな感じで俺というよりもサプリのモザイクを求めてきているらしい。
楽しい配信ってなんだよ……。
サプリは近くの休憩所で着替えると、顔を見せる。
巫女服に刀を携えている。
長い黒髪を結っている。猫耳に見えるような髪でもある。
柔和な笑みを浮かべており、その性格の良さがにじみ出ている。
灰色の、吸い込まれるような瞳に目を奪われる。
「あの……髭ピタくん。あんまりみないでください」
ポッと頬を染めるサプリ。
「あー。まあ、さて。お前はどうする?」
「わたしはもう一度、このダンジョンを攻略したい」
「へぇ~。俺も同じことを考えていた」
というのも、俺はこのダンジョンで敵という敵に出会っていない。
戦闘はしていないから、相手の強さは分からない。
「じゃあ、一緒に攻略しよう」
「いいの?」
「ああ」
短くぶっきら棒に答えると、目を潤ませるサプリ。
「俺が前に出る。サプリは側面からの攻撃をせよ」
「え。でも、それって……」
その戦略では俺への負担が大きいことを示す。
が、先ほど単身でやられていた相手にはこれ以上の期待はできない。
ダンジョンの入り口、冷え切った空気を感じ取り、一歩また一歩と進む。
警戒心を強めながら周囲を見渡す。
樹木に目が生えたドルイドが地中から現れる。
「やるぞ!」
「はい!」
俺はブロンズソードを振りかざし、まっすぐに突撃する。
触手のように伸びる枝を切り伏せて、そのまま懐に潜り混む。
一閃。
きらめく粒子を舞わせながら、俺はバックステップで距離をとる。
その隙を狙いサプリが横腹に剣を突き立てる。
ジャンプし、その複数ある目玉を突き刺していく。
断末魔を叫ぶように海老反りになるドルイド。
突き刺した剣を軸にし、回転する。
くるくると空中で回転すると、そのまま着地し、振り返りざまに切る。
足を失ったドルイドはそのまま地に伏せる。
「サプリ!」
横合いから剣を突き立てると、その腕がもがれる。
負けじとブロンズソードを突き立てると、痛みからかドルイドは枝を伸ばしてくる。
先ほど落とした枝を投げつけると、それを受け止めるドルイド。
その隙を狙い切りつけると、俺は叫ぶ。
「コアを狙え!」
「は、はい!」
サプリは剣を振りかざし、宝石みたいに綺麗なドルイドのコアを貫く。
そこにいたはずのドルイドは消失し、何かを落とす。
「こ、これは?」
サプリが紫色の石を手にする。その大きさは砂粒程度だけど、初の入手だ。
「魔石だな」
魔をまとった石。
「これが魔石……」
魔石は、高濃度のエネルギー体であり、日本の新たなる資源として注目を集めている。
解放されたエネルギーは1kgあたり100Mトン。
通常のエネルギーよりも入手難易度は低く、今のようにモンスターを狩っていればすぐに集まる。
問題はその供給量が安定しないことか。
「怪我はないか?」
「大丈夫です」
「じゃ、行くぞ」
ぶっきら棒にそう告げると、次の敵を目指す。
最奥には魔石の塊があるという。他の者に盗られても、数日後には回復するという。
まあ、ここは初心者向けのダンジョンだ。
どちらかといえば踏破できたことに意味合いがある。
ダンジョン一つ攻略できなければ、ランクの高いダンジョンに訪れられない。
《マジかよ。あの髭ピタつえー》
《異次元の強さだったな》
《本気でつよぽん》
視聴者数が増えたのか、コメントも増えていく。
ドローン型のネットワークコメントが流れてくる。
『そこのあんちゃん、とまりな』
足を止めて声のした方へ顔を向ける。
ダンジョンの割れ目にたぬきのような顔をした男がいる。
《マジかよ! チート売りのレイヴンだ》
《ほんま。レイヴンやん》
《レイヴン! 最強の男!!》
聞いたことがある。
チート売りの彼を。
『へっへ。おいらの武器、買っていかないか?』
「分かった。どんなものがある?」
『おいらが持ってきたのは双剣〝アガツガリ〟と、対物ライフル〝グレン・ソウル〟、それに聖剣〝エクスハード〟――』
全部で二十種のメニューを表示させるレイヴン。
「俺はこの狙撃銃〝ロード・オブ・S〟を購入する」
「わ、わたしは双剣〝アガツガリ〟を購入します!」
『へへへ。毎度あり』
料金を渡すと隙間に入って消えていくレイヴン。
「あいつ、どうやって入ってきたんだ?」
《やべー、がちで武器買いやがった》
《これでチートの仲間入りだね》
《まるでなろうだな》
俺は狙撃銃を背中に抱えながら最奥に向かう。
サプリは手に馴染んだのか、双剣を構えている。
「来る」
俺は殺気を感じ、手にしたブロンズソードを構える。
後方で双剣を構えるサプリ。
両脇から現れるドルイド。
樹木のモンスター。
いくつもの目を持ち、枝を生やすダンジョンの
「やるぞ!」
「はい!」
俺が回転しながら切り刻むと、その横から追い打ちをかけるサプリ。
ドルイドが太い枝をふり下ろすと、俺のブロンズソードをぶった切る。
《やっちまっったなー!》
《剣がなければ戦えない……》
《お前ら、さっきの見ていなかったのか?》
俺は後ろに下がり、背中に背負っていた狙撃銃を取り出す。
弾丸は五発。
構えるとスコープを覗き込む。
照準を合わせて、
弾薬に着火し、逃げ場のない圧力が一点に集中する。
発射された弾丸はドルイドのコアを貫く。
「もう、一撃……!」
放たれた銃弾はもう一体のドルイドのコアを穿つ。
霧散していくドルイド。
「す、すごい! これ、髭ピタがやったの?」
「ああ」
俺は狙撃銃を背中に背負い、歩きだす。
サプリが双剣を腰にしまうと、手を伸ばしてくる。
俺はその手を取る。
そのあとも、何度か敵と遭遇するが俺たちは難なく倒していった。
「こ、これが……メテオ」
最奥になっている果実のような魔石――通称メテオ。
分析の結果、隕石由来のものを多く含んでいるため、宇宙からの報酬とも言われている。
俺がそのメテオをとると、ブチブチと枝のようなものを引きちぎることになる。
「すごいですね」
手にしたメテオの大きさは約30cm。
かなりの大きさだ。
《お。風呂入っている間に終わってる?》
《お前、さっきの戦闘みていないのかよ?》
《気持ちよかったぜ? ざくざく倒していくの》
そんな言葉が並び、俺はメテオを手にしてサプリと一緒にダンジョンを後にする。
ダンジョンを出たところでドローンのスイッチを切り、ギルドへと向かう。
正式名称、国立冒険者相談所――いわゆるギルド。
そこで得た魔石や聖遺物を換金してくれる。
ちなみに俺やサプリなどの冒険者を管理する機関でもある。
「いきなりダンジョンを攻略するなんてすごいです!」
「いや~、そんな~」
受付嬢――
「バカなんですか? 初心者は最低四人のパーティでクリアすべし、と言われているのですよ!?」
水里さんの声がギルド内に響き渡る。
ガミガミと言ってくる水里さん。
「あー。はいはい。分かったよ!」
「ちゃんと聞いていますか!?」
「はい。聞いていますって」
俺は指で耳をほじると、フーッと耳かすを吹く。
「もう! 報酬あげませんよ!?」
「じゃあ、労基に相談してくるか」
「~~もう。もう、もう!!」
水里さんは顔を赤くして言う。
後ろで乾いた笑みを浮かべているサプリであった。
S級ダンジョン配信者の無自覚チートの俺がSPを稼いでダンジョン経営する予定です。仲間は全員美少女!サスペンスあり?? 夕日ゆうや @PT03wing
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