呪われお婆さん

へいきん

第1話 あたし生まれた時から呪われてるのよ

「あたしが物心ついた時、両親はすでに死んでた。母親はあたしを産んでまもなく死んだ。だから男親はあたしの養育を拒んだ。そんで住み慣れた土地を離れたけど、そこでうまくやっていけなくて死んだ。

 施設で育ってそれなりの平穏で過ごしてきたつもりだけど、あたしはそこでも呪われてたよ」

「施設でたとえばどんな事があったんですか?」

「だいぶ前の記憶だからね、事細かに話せやしないけど、あたしをいじめようとした施設の男がいてね。さぁこれからいじめが本格化しようって時に、疲労骨折で入院したんだよ。その男の友だちも夜に出かけて自転車に当てられたりして。その日、あたしはホッとしてよく眠れたねぇ」

「それが小学生のエピソードですね」

「そうだねぇ、それから中学生になるとバレー部に入って打ち込んでたよ」

「中学生の時の一番の思い出はどんなのがありますか?」

「あたしを好きになってくれた男の子がいてね。告白も何もなかったけど、いまは何してるんだろうね。ふと思う時がありますよ」

「高校進学なさったんですか?」

「いや、あたしの時代にはそんなのは金のある人だけだよ」

「そうですね、あまり聞きませんね。それで地元の食料品加工の会社に就職して、定年まで勤めあげたんですよね」

「そうさ、あたしに深く関わろうとするヤツはみんな怪我したり、死んだりする。おたくも帰り道には気をつけたほうがいいよ。仕事とはいえこの話しを聞いたんだからね」

「わかりました、気をつけますね。最後に一つ質問なのですが希望する老人ホームが、麦というのは何か理由があるんですか?」

「それはね、あたしの名前がつむぎだからだよ。むぎって入ってるだろ」

「なるほど」

「いつからそこに入れるんだい」

「いまこの時代ですからどこも満杯なんですが、つむぎさんのようなケースなら緊急性がありますのでなるべく早く入所できるようにいたします」

「そうかい、そりゃ頼もしいね。あたしは生涯独身で貫くからそのへんの爺さんに変なことされたりしないか心配なんだ。そこのところは大丈夫なんだろうね」

「よほどの事がないとそれは起こりませんよ」

「そうかい、それなら大丈夫だね。おたくを信頼するよ」

「では、これで今日のところは失礼します」

「お茶も出さずに悪かったね」

「いえ、ではまた」

 つむぎ婆さんが呪われてるというより、呪っているような気がするなと私は思った。

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呪われお婆さん へいきん @tairahitosi

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