フランチャイズだった地球

クロノヒョウ

第1話




「俺さ、今度地球を経営することにしたんだ」


「えっ、お前オーナーになるのか?」


「そうそう。この前建築中の店舗も見てきた。火星東店」


「火星の東側か。あそこは今めちゃくちゃ開発されてるもんな」


「すごかったぞ。他社の地球も三店舗並んでた」


「まあ、便利だもんな地球は」


「二十四時間やってるから明るくて助かるしな」


「でもお前経営は初めてだろ? 大丈夫なのか?」


「まあ、何とかなるだろう。もうバイトも決まったし」


「早いな。いつオープンするんだ?」


「千年後くらいかな」


「千年後か。また暑い時期に」


「だから植物をたくさん植えて宇宙のオアシスにしたいんだ」


「ああ、それはいいな」


「あそこ、太陽系のすみっこ店はもう経営がヤバいらしいからな」


「あそこの地球はもう限界だろ。お客が人間だからな。さんざん地球をめちゃくちゃにしたらしいな」


「すみっこ店のオーナーが泣いてた」


「泣きたくもなるさ。あんなにやりたい放題されちゃ」


「だからバイトに雇った。すみっこ店をたたんで俺のところで働けってな」


「……それもなんか不安だな」


「大丈夫だよ。すみっこ店の二の舞にはさせない」


「でもさ、もしもまた人間たちがやって来たらどうする? まためちゃくちゃにされちまうぞ」


「それも心配ないよ。対策としてトイレは貸さない」


「それは困る! どうしてもの時に地球のトイレは本当に助かるんだぞ! たまにあるから本当に困るんだよな。やっと地球を見つけたと思ったら、うちにはトイレはございませんとか言われてさ。んなわけねえだろうって」


「ははっ。トイレを貸すと地球の周りに変な宇宙人が集まってくるんだよ。騒がしいだろ」


「わかるけどさ。もうお前の地球には行かないな」


「なんだよトイレくらいで。その代わり、海や川、山や森にジャングルっていう美しい場所で涼むことが出来るんだぞ?」


「でもトイレはないんだよな」


「だから、ちょっと火星東店で泳いでくる、みたいなノリで来てくれよ。森で昼寝してもいいしさ」


「確かに、それだったら人間が住みついたりはしないだろうな」


「人間は厚かましいからな。すみっこ店の人間は勝手に家を建てて住んでる。すみっこ暮らしとはよく言ったもんだよ」


「まったくだな。あんなにぎゅうぎゅうになるまで人が住むかね」


「火星東店ではのんびりゆっくり遊んでくれ」


「まあ、お前がそう言うなら」


「さて、じゃあ俺はそろそろ行くわ」


「ああ、またな。ヤバい、トイレ行きたくなってきた。ちょっと俺すみっこ店によってから帰るわ」


「わかった。オーナーに会ったらよろしくな。あと、確か閉店セールやってるぞ」


「閉店セール?」


「ああ。まだかろうじて残ってる綺麗なままの海や森がもったいないだろ。欲しい奴に売ってるぞ」


「そりゃいいこと聞いた。それを買って俺も地球のオーナーになろうかな」


「おっ、ライバルか?」


「お前の隣に建てれば大繁盛するさ」


「何を根拠に」


「うちのトイレは借りれますよって言えばな」


「はんっ。そしたら人間やら変な宇宙人やらが来てめちゃくちゃにされるさ」


「いや、営業は夜九時までにするんだ。そうすれば問題ないだろ?」


「そんなの地球って言えるか?」


「トイレがないよりはマシだろう」


「……」


「……」


「どっちもどっちだな」


「だな」


「やっぱり、ちゃんとトイレも着けるよ」


「俺も、もしやったらちゃんと二十四時間やるよ」


「人間が来たら……」


「人間だって同じ失敗は繰り返さないだろう」


「そうだな」


「そう信じてるよ」



           完






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