最終話 俺が死ぬまで一生

「ところでクルリ、ちょっと聞きたいことがあるんだが?」

「なんです?」


 俺は周りに聞こえないように小さな声で話す。


「十年前、ロッテを封印したのって、お前の姉ちゃんなんだよな?」

「ですね。迷いの森の遺跡で、見ただけで殺意が湧く駄肉悪魔をやっつけた、という話を以前姉から聞いたことがあります」

「巨乳を見ただけで殺意って……ああ、お前の姉ちゃんもクルリと一緒で胸が永遠のゼロ――げふぅっ!」


 肝臓にロリエルフの肘が刺さる。

 

「ナニカイイマシタ?」

「い……いや、何でもない……です」


 このロリっ子め。いつか弱み握って奴隷にしてやるからな。


「で、ロッテさんの封印がどうかしましたか?」

「あー、えっとだな。ずっと、不思議だったんだけど、どうしてお前の姉ちゃんは、ロッテを殺さずに封印なんてまどろっこしいことしたんだろうなって」


「……面白い悪魔だったから、だそうですよ」


「面白いって、なんだそりゃ」

「最初は四天王ムーヴかまして、偉そうに上から目線。でも、姉たちの方が強いって分かると『まだ恋もしたことないのに、お葬式に来てくれる友達も一人も居ないのに、まだ死にたくないよ~』と大泣きし始めたそうで」


 ……あいつは勇者相手に何をやっとるんだ。


「ロッテの泣き顔が面白かったから、殺さないで封印で許してやったと?」

「ですです。ちゃんと反省して、もう悪いことしないなら封印で勘弁してやる。何十年、何百年後か、運が良ければいつか運命の王子様が助けに来てくれるかもよ。って言ったとか言わないとか」

「どっちだよ」


 ていうかロッテのやつ、反省どころか、封印解いた運命の王子様(俺だ)を見殺しにしようとしてたけどな。


「お前の姉ちゃん変わってるな」

「墓前ではエキセントリック・ゴッド姉ちゃんと呼んであげてください」


 なぜに、そんなごっつええ感じな和田ア〇子っぽく呼ばなきゃならんのだ。

 ――っと、そういえばまだ気になることがあったな。


「それとロッテの封印って『自分の大切な人の命を捧げると解ける』とかいう訳わからん封印だったんだが、アレなに?」

「あー、それは多分。姉は魔法マニアで、覚えたて古代魔法とか内容をよく解読せずにとりあえず使ってみる癖があったので、手持ちの封印魔法をよく分からずに使ったのではないかと――」

「確かに、エキセントリック・ゴッド姉ちゃんだな。まじで」


 ――クルリの姉ちゃんは、知的好奇心で世界を崩壊させるタイプの魔法使いだった。



        ◇


「んじゃ、最後に記念撮影でも一発やっとくか~」


 今生の別れというわけではないだろうが、こういうのは区切りは大事だからな。

 戦勝記念というやつだ。


「こっち並べー。じゃ、始めるぞ。ピクト!」


 俺の声と共にピクトの魔法が起動、眼前の空中に操作盤が現れる。


「なにこれ、なにこれ? これも魔法なの?」


 ロッテが興味津々に顔を寄せて来る。


「お、おい、近づきすぎ! お前、最近自分が毒悪魔だって忘れてないか!? 痛っ! 今、ちょっと触ったぞ、ピリッとしたぞ!」

「なにこれ、おもしろーい。これで、撮った写真とか映像を見たりできるの?」

「まぁな。夜な夜な色々試していたら、ピクトとドゥーガの魔法が使いやすく最適化されていったんだ」


 魔法ってのは精霊の力を借りて行使するらしいけど、意外と精霊さんて話が分かる人達(?)だった。言葉は通じないけど。


「じゃあ、このボタンとか押したら、前に撮った写真とかが見れるの?」

「おいこら、ちょ、勝手に触るな!」


 と制止するも、ロッテの毒手が好き勝手に操作盤をいじる。すると――


『……ツクモ様。ご主人様をちゃんと護れない奴隷はお仕置きだ――と言ってロッテさんとヴリトラさんを部屋に連れて行ってしまいましたが……』


 全員の視界に入る空間にとある映像が流れ始める。

 そこに映っていたのは部屋着のパロミデスで――。


「あ、ヤバ」

「こ、これ、私の部屋!?」


 慌てる俺たちを置いていくように、その映像は勝手に進んでいく。


『……どんな……酷いお仕置きをされているのでしょう……きっと、私の想像もできない……エッチなこと……ですよね』


 映像の中で、ベッドに腰かけたパロミが顔を赤くして身震いする。


『いえ、いいえ、私ったら何を考えて……私はこの国の王女。国民の模範とならなくてはいけない立場。ですから、こんな……くだらないことを考えてないで……』


 でも――と、俯いたパロミは言葉を綴る。


『もし、私が王族ではなく、人間族でもなかったら、私もツクモ様の奴隷にされて……今頃、彼女たちと一緒に……縛られたり、叩かれたり、罵倒されたり…………あっ、私……なんで、こんな……』

 

 自分の身体を確かめたパロミは、何かに驚いたような声を上げ、ますます顔を真っ赤にし、悔しそうに唇を嚙む。

 その潤んだ瞳は酷く淫靡で、記録映像にも関わらず匂い立つような色香が――。


「んなーーーーーーーーーー!!! な、なななな、何なんですかこれは!? ツクモ様、こ、これ消して、嘘、嘘です、捏造です!」 


「嘘でも捏造でもないぞ。この映像は、ギルガメウス戦で危険な囮役を担ってくれたパロミにお礼の一つでも言わねばならぬと、夜な夜なこっそり私室に忍び込んだ時の物だ!」


「何でお礼を言うのに、夜な夜なこっそり部屋に侵入するんですかぁぁぁ!!!」


「サプライズを狙って?」


「それはサプライズではなく不法侵入です!!!」


 と言っている間にも、映像の中でパロミの独白は続く。


『――くっ、ゴーダに奴隷の様に扱われて興奮してたなんて……あの話を聞いてから、私の身体……何だか変です……』


「どう変なんだい? 姫様」

「変じゃないですぅぅぅ!」


 と否定するものの、パロミの護衛とか、野次馬とかから『やっぱりパロミデス王女殿下って……そういう趣味……』みたいな声が上がり始める。


「はぅ! そ、そんな目で私を……見ないで」

「やっぱり興奮してるじゃねえか」

「気のせいです! ていうか、この映像も全部嘘です。デタラメです! 皆の者、信じてはいけません。これは王族の権威を失墜させようとする魔王軍の罠です!」


 そんな無茶苦茶な……。


「やはり、この男ヤマダツクモは魔王軍幹部、アスタロッテの手先だったのです! 騙されてはいけません! たった今から、ヤマダツクモ及びその仲間は賞金首です! 国家反逆罪です!」

「ちょ、お前! 自分の性癖隠すために人を犯罪者にする気だな! 横暴だろ。職権乱用だろぉ!」

「捕らえたものには金一封です! さあ、皆の者、やっておしまいなさい!」


 悪の女幹部ばりのノリで、俺たちの確保を命ずるお姫様。


「あ、あれ……敵? き、昨日の友は、今日の敵みたいな……? ご主人様……辺り一帯、ブレスで……消し飛ばす?」

「やめろぉぉぉ! モブ兵士さんにも家族が居るんだぞ!」

「え~」


 え~じゃねえよ! どんだけ薙ぎ払いたいんだよ!?


「とりあえず逃げるぞ!」

「ツクモさんお達者で。生きてまた会えるといいですね~」

「てめ、クルリ! さっきまでついて来るとか言ってたくせに!」


 このメスガキシスター、手の平返しが早すぎる!


「ロッテ! 兵士の皆さんに、軽く痺れるくらいの毒で足止め頼む!」

「おっけー。じゃあ、丸三日くらいトイレから離れられなくなる超強力下剤毒を!」

「足止めにしては効果がエグイ!!!」

「待ちなさい! 魔王軍四天王アスタロッテの手先、ヤマダツクモーーー!」


 半ばヤケクソ気味に叫ぶパロミを尻目に、俺たちは巨大なドラゴンに変身したヴリトラの背中に乗る。


「じゃ、じゃあ……いく……よ!」


 両翼を羽ばたかせ、ヴリトラの巨体が勢いよく飛び上がる。

 急発進で振り落とされそうになる。強風で肌が痛い、涙が出そうだ。

 でも、何だか心地よくて、自分でも訳が分からない笑いがこみ上げてくる。


「うははははは、最高だぜぇぇぇぇ!」

「何、馬鹿笑いしてんのよ。ていうか、本当にこれからどこに向かう気なの? ツクモ、さっき欲しいものがあるみたいなこと言ってたけど……」

「ああ、それなー」

「それなーじゃなくて。欲しいものって何よ?」


 ロッテが『どうせくだらない物なんでしょ』といった視線を向けて来る。


「…………転生石」

「へ? なに?」

「お前、最初に会った時に言ってただろ。北の果てに賢者の塔ってのがあって、そこには好きな種族に生まれ変われる転生石ってのがあるって……それを使えば、人間になることも、身体から毒を消すこともできる……って」


 俺の話を聞いたロッテの瞳が、まあるく驚き、きらりと輝く。


「ツクモ……まさか、私のために……?」

「…………なんてな! そんな勿体ないことするかよ! 転生石を手に入れたら俺が使う。人間なんてザコ種族辞めてやる!」

「な、アンタってやつは~」


 よくよく考えたら、ロッテを人間にするなんて勿体ないことしてたまるか!

 よく分からんけど、きっと悪魔ってのは長寿に違いない。

 ずっと若くて、可愛くて、爆裂巨乳の悪魔っ娘を自分から手放すなんて、神への冒涜だろ!

 でも、ロッテが長生きでも、俺が八十年足らずで死んじまうのも勿体ないな……。


「そうだ。いっそのこと俺が魔王になって、世界を統一してやるのもいいかもな。お前らが居るし、結構やれるんじゃね?」

「え、えへへ……ご、ご主人様のためなら……せ、世界征服、わたしもがんばる……よ」


 巨大なドラゴンの口から発せられる可愛らしい陰キャボイスが俺の野望に同意する。


「それに、俺が魔王になればロッテの毒をどうにかできる方法も見つかるかもしれないしな……」

「ちょ、ツクモ。今、何か言った? 風が強くてよく聞こえない――」

「誰がお前を人間なんかにするか! って言ったんだよ。お前が人間になったら俺のこと護れないだろうが! いいかロッテ、お前は――」


「――俺が死ぬまで一生、俺の奴隷だからな。覚悟しろよ!」



――――――――――――――――――――




『異世界残機99 ~命を生贄に捧げて大悪魔(かわいい)と契約しました。まぁ俺、命が99個あるから死なないんだけどね~』


 これにて完結となります。

 最後までお付き合いありがとうございました。


 『ヤンデレ』『地雷系』とかタグ付けて連載を始めたんですけど、ヒロインがあまり病んでないというか、想定より『良い子』ばかりになってしまった気が……。


 ヤンデレ詐欺みたいになってしまってすみません。

 残機計算も間違えまくりですし(これから修正します)。


 個人的には反省点が多い作品になってしまいましたが、少しでも多くの読者様に楽しんで貰えたなら嬉しいです!


 次回作については考え中。

 プロットだけは沢山あるので、声優百合モノか、正統派(百合)ファンタジーか、学園ラブコメか、TS百合の続編か……。


 とりあえず、ペルソナ3リロードをクリアしたら考えます。


 というわけで、次回作がいつ頃になるか不明ですが、ゆったり待っていてもらえると嬉しいです。


 それと、今後の創作活動のエネルギーになりますので、作品を☆☆☆やフォローなどしてくれたら、なお嬉しいです。

 更に、私をフォローしてくれたら、新作が始まったり、連載再開した時にすぐに気づけて一石二鳥ですよ♪


 では、また次の作品でお会いできることを願って。

 間一夏はざまいちかでした。

 

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『異世界残機99 ~命を生贄に捧げて大悪魔(かわいい)と契約しました。まぁ俺、命が99個あるから死なないんだけどね~』 間一夏/GA文庫大賞3作連続・三次選考 @hazama_ichika

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