第61話 モテ期、確変、入りましたー!
「世話になったな、パロミ」
ゴーダ、ギルガメウスとの戦いの場――ガラティア砦の前で、俺たちはパロミに別れを告げていた。
「その呼び方止めてください! 私の名前はパロミデスって言っているじゃないですか!」
「うん、だからパロミだろ?」
「『パロミです』って言ったんじゃないですよ!」
「はいはい、わかったわかった」
全然分かってないですよね。と頬を膨らますパロミ。
だがその顔は、何か憑き物が落ちたように晴れやかだった。
それもそうだろう。
悩みの種であった勇者ゴーダと新たな魔王。
その両方が俺と、その奴隷たちの手によって退治されたのだから、少しくらい明るい顔をしてもらわないと困る。
──今日は俺たちが旅立つ日。
そう、世界を救った英雄である俺とその奴隷たちが、新たな一歩を踏み出す記念の日なのである。
「ふう、空が……青いな……」
人類を救ったスーパーヒーローである俺は、髪をかき上げ空を見上げる。
新たな魔王――ギルガメウスを倒してから一週間が経っていた。
たった一週間。だが人類と魔王軍の攻勢はこの一週間で大きく変わったらしい。
ギルガメウスを失い、烏合の衆となった魔王軍に対して、パロミ率いる人類軍が連戦連勝。
たった一週間で王都奪還目前なのだそうだ。
と言っても、その戦果のほとんどは、聖剣アークの新たな主人――勇者リリアと、その仲間となった元勇者パーティメンバーである、ガルテとルルフィのものらしいが。
そう新たに聖剣に選ばれた乙女――勇者リリア。
いや、乙女じゃねえよ! 子持ちの人妻だよ! 元生贄の、あのリリアさん(34)だよ!
何で聖剣そっち行く?
人妻に頂かれてんじゃねえよ!
『世界の平和を守る人妻勇者リリアちゃん』を誕生させてんじゃねえよ!
「ツクモ様……どうされたのですか? 奇怪で面妖な動きですけれども」
「いや気にしないでくれ。他の人間と同様、魔王軍との戦いではほとんど役に立っていないパロミデス王女殿下」
「や、役に立ってます! 休憩中にドリンク持って行ったり、お洋服の洗濯したり、汚れた防具を綺麗に拭いたり!」
「それ運動部のマネージャー!」
ちなみにパロミの父――本物の国王は地下牢に幽閉されていたらしく、衰弱はしていたが徐々に健康を取り戻しているらしい。
そして入れ替わりで地下牢に入れられているのが、あのゴリラ野郎。
一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、そんな気も失せるくらいに真っ白な抜け殻ゴリラになっていたので止めた。
いやだって、別人みたいに痩せこけてるし、壁に向かってずっとブツブツ呟いてるし、リアルに怖かったんだよ。
「ねぇねぇ……ご、ご主人様? そ、それで……旅立つって……ど、どこに行く……の?」
漆黒にして長身の美女ドラゴン――ヴリトラがおずおずと聞いてくる。
聞いてくるだけならいいんだが、さっきからずっと腕に抱きつかれて離れてくれない。
「ちょ、ヴリトラ。一回離れて、心臓に悪いから(特に押し付けられてる胸)」
「いーや」
いーやって、見た目綺麗なお姉さんなのに子供かよ!
この前の闘い以降、こいつはずっとこんな感じだ。
「だって……ご、ご主人様、目を離すと……す、すぐ死んじゃうから……だ、だから、わたしが、付きっきりで……守るんだもん」
ということらしいんだもん。
完全に過保護なお母さんである。
「ちょっと、この陰キャ淫乱ドラゴン! いつまでツクモにくっついてるのよ! いい加減離れなさいよね」
「いーや。だったら、ロッテも一緒にくっつけばいい」
「そ……それが出来たら、こんな……」
「ほぉー、なるほどなるほど。ロッテさんも実は俺にくっ付きたいと……」
「そ、そんなわけないでしょ! だ、誰がアンタにくっ付きたいとか、アンタにくっ付くくらいなら、デスハリネズミに抱きついた方がマシよ!」
「……じゃあ、ヴリトラが俺を熱くきつく抱擁してても問題ないな」
「あああああああ、も、問題……ないけど……あるけれどもぉぉぉ!!!」
頭を抱えながら、にょろにょろと身体をくねらせ、何かを葛藤している大悪魔。
やっぱ面白いなコイツ。見ていて飽きない。おっぱい超デカいし。
それが一番大事。
「あ、あの……ツクモさん?」
「どうしたクルリ? そんなかしこまって」
何だか、モジモジしているクルリ。見慣れない光景だ。
ははーん、さては俺に惚れたな。
だよね、ですよね。だって、俺はクルリの姉――先代勇者マリベルの敵を討った男!
あの日以来、クルリの瞳には変なフィルターがかかって、俺のことが妙に格好よく映ってしまってもおかしくないに違いない!
変なフィルター掛からないと、かっこよくなくて悪かったな!
「ツクモさんたちは旅に出るんですよね」
「ああ、ちょっと欲しいものがあってな」
「そう……ですか。あの……その旅、クルリもついて行ったらダメですか?」
はいきたー! 惚れてるー。
この子、完全に俺に惚れてるよ!
ほんのり朱に染まったマシュマロほっぺ。上目遣いの潤んだ瞳。
モテ期、確変、入りましたー!
「いいのかい? 危険な旅になる。それでも……人類を救った英雄である、この山田ツクモ様に着いて来る……と?」
ふぁさっと前髪をかき上げ、俺はクルリの
「はい。連れて行って欲しいです……だって、クルリは……ツクモさんのことを――」
「うんうん、俺のことを?」
「――ツクモさんのことを教祖に祭り上げて、新たな宗教を起こそうと思っているんです!」
「そうか、そんなに俺のことを想って――――――うん? 新たな……宗教?」
なんですと?
「今やツクモさんは時の人、話題の人、勇者リリアに勝るとも劣らない有名人! そんなツクモさんと、超絶美少女のクルリちゃんが手を組めば、信者なんて濡れ手に粟! 鴨がネギ背負って、お布施もがっぽがっぽなのです!」
ひ、ひでえ。
「前から思っていたんです。クルリの可愛さで集めた信者とお布施なのに、何で本部に五割も渡さないと行けないのかと! だったら、自分で宗教立ち上げた方が絶対に儲かるじゃないですか! 賢い可愛いクルリちゃん。あ、ツクモさんには儲けの二割くらいは恵んであげますね」
「ご主人様が……教祖様? ……わ、わたし、入信する」
「やめてヴリトラさん。ってか話に入ってくるな。お前まで混ざったら収拾がつかなくなるから!」
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