20年目の花火(女性3人劇)

Danzig

第1話


ルミ:(N)8月17日、私は実家に向かう列車に乗っていた

ルミ:(N)何もない海辺の田舎町は、正直、今の私には、それほど魅力的な所ではない

ルミ:(N)東京には普通にあるような、スタバもマックも、おしゃれなカフェも、ここにはない

ルミ:(N)それが嫌で、実家に帰るのも何年かに一度程度、親に催促された時くらいかなぁ・・・

ルミ:(N)でも、私には、今日、絶対に帰りたい理由があった


ミサ:(N)久しぶりに、私はこの町に帰って来た、

ミサ:(N)帰省は、もう何年振りになるだろう

ミサ:(N)何もない町・・・潮の香りがする温暖な海辺の町

ミサ:(N)でも、その風景が、私にとってはとても懐かしい

ミサ:(N)私にはこの町に忘れられない思い出がある、

ミサ:(N)今日はその思い出を求めて、私はこの町に帰って来た

ミサ:(N)明日の8月18日のお祭りの日の為に


サエ:(N)磯の匂いがするこの町は、毎年夏に納涼の夏祭りが開かれている

サエ:(N)祭りと言っても、どこの町でもやっているような、小さな祭り

サエ:(N)数件の屋台と、どこにでもありそうな花火

サエ:(N)それでも、何もないこの町の人達にとっては、毎年の楽しみな行事の一つになっている

サエ:(N)でも、この町の祭りは、他の町にはない大きな特徴がある

サエ:(N)20年に一度だけ、非常に大きな祭りとなるのだ



ミサ:私は、電車を降りた後、駅舎の中で改札を出るルミを見つけた


ミサ:ルミ!


ルミ:あぁ! ミサじゃない

ルミ:久しぶり!


ミサ:ホント久しぶりだね、何年ぶり?


ルミ:えーー、何年ぶりだろう・・・・わかんないw


ミサ:ははは、ひっどーいw


ルミ:そんな事いいじゃない、でも、ミサもやっぱり来たのね


ミサ:そりゃそうよ、20年ぶりの花火だもんね


ルミ:そうよね、絶対来なきゃ


ミサ:だよね


ルミ:私さ、20年前の花火が忘れられなくてさ

ルミ:他の事はあんまり覚えてないけど


ミサ:ははは、ルミらしいね

ミサ:あの時は、私達小学生だったけど、やっぱり忘れられないよね


ルミ:うん


サエ:あ、ルミとミサじゃない?

サエ:久しぶり


ミサ:サエ!


ルミ:やっぱり、あなたも来たのね


サエ:うん、そりゃね


ミサ:サエも絶対来ると思ってた


ルミ:私も


サエ:ははは、やっぱり?


ルミ:そりゃね


ミサ:でも、懐かしいよね


サエ:そうね。

サエ:久しぶりに三人で会えたわね

サエ:あぁ、嬉しいなぁ


ミサ:どうしたのよ、泣きそうな顔して


サエ:だってさ、もう二人には会えないかと思ってたから


ミサ:もう、大げさだな

ミサ:別に会おうと思えば、東京でもどこでも、いつだって会えるじゃない


サエ:うん・・・


ルミ:でも、私達も、もう29だしさ、結婚とかしちゃうと、なかなか会えなくなるよね


ミサ:そうだね、


サエ:でも、29になっても二人とも未婚とはね


ミサ:サエだってそうじゃない


サエ:そうだよねw


ルミ:そりゃ、私たちは愛情よりも友情派だからね


ミサ:そうかなぁ?


ルミ:ミサ、ひどーい、ははは

ルミ:でも私、こんなに早く二人に会えるなんて、思ってなかったよ


ミサ:私も!

ミサ:まさか、祭りの初日に会えるとはね


サエ:そうだね、花火は二日目だもんね


ルミ:うん


サエ:で、今日は二人は何か用事があるの?


ミサ:いや、特にないけど・・・


ルミ:私もないわよ


サエ:じゃぁ、今からどうする?

サエ:昼間の屋台でも見ながらブラブラする?


ルミ:そうね、屋台とかは明日見られるし、

ルミ:久しぶりに三人で会えたんだから、どこかでお茶でもしない?


サエ:お茶ってどこで?


ルミ:どこって、別にどもでも、その辺の・・・あ


サエ:でしょ?


ルミ:そういえば、無いねこの町・・・

ルミ:ってか、20年で少しはオシャレなお店とか出来たんじゃない?


サエ:あんまり変わらないみたいよ


ルミ:そっか・・・都会はどんどん都会に、田舎はどんどん田舎になっていくのね・・・・

ルミ:じゃぁ、どうしようか、やっぱりぶらぶらする?


ミサ:それなんだけどさ


ルミ:どうしたのミサ、何かやりたい事でもあるの?


ミサ:うん・・・やりたいっていうか


サエ:何かあるの?


ミサ:ちょっと思い出せない事があって


ルミ:思い出せない事?


ミサ:うん、私、今日ここに来るのが楽しみでさ

ミサ:昨日も興奮して眠れなくて、いろいろ昔の事を思い出してたんだけど

ミサ:どうしても思い出せない事があるのよ


ルミ:なにそれ? どんな事?


ミサ:20年前のあの時、私達って、どこで花火を見たか覚えてる?




ルミ:どこでって、サエの家で見たんじゃなかったっけ?


ミサ:そうだっけ?


サエ:えー、違うわよ


ミサ:じゃぁ、どこ?


サエ:そう言われれば


ルミ:サエの家だったと思うわよ、窓から見たんじゃなかったっけ?


ミサ:私も窓から見たような記憶はあるんだけど、でも、それが重要なんじゃなくて


サエ:じゃぁ、何が重要なの?


ミサ:花火って、どんな感じだった?


ルミ:どんな感じって?


ミサ:ほら、風景っていうか、どんな感じで花火を見てたか


ルミ:うーん、海を見下ろしていたような、海が花火の光を反射させて・・・


ミサ:そうなのよ


サエ:それがどうしたの?


ミサ:だってさ、もし本当に私達がその風景を見てたとしたら、山から見てた事になるわよね?


ルミ:そうね、それがどうしたの?


ミサ:あの山に家なんてあったっけ?


ルミ:あったっけって・・・あれ?


サエ:・・・


ミサ:ないよね?

ミサ:というか、少なくとも当時はなかったよね?


ルミ:私はサエの家で見てた記憶なんだけど


サエ:私の家は、酒屋さんの裏にあるから、花火は見えない場所よ


ルミ:あれ? そういえばそうだよね


ミサ:そうなのよ、それがどうしても思い出せないの


ルミ:確かにそうよね

ルミ:でも、20年前の記憶だから、何かとごっちゃになってるのよ、きっと


ミサ:あなたは、相変らず気楽よね


ルミ:ひどいわね


サエ:でも、どうしてそれが重要なの?


ミサ:どうせなら、同じ場所で見たいじゃない


ルミ:確かにね

ルミ:じゃぁ、明日の為に、今からその場所を探しにいく?

ルミ:今日中に見つければ、明日の朝早くから場所取りできるじゃない


ミサ:そうね、サエはそれでいい?


サエ:いいわよ


ミサ:(N)それから、私達は三人で、記憶を頼りに、20年前に私達が花火をみた場所を探した

ミサ:(N)海、花火、高い場所、これらを手掛かりに、私達は時間の限り探して回った


ルミ:(N)花火の実行委員会の方に、20年前の花火の打ち上げ場所を聞いて、地図と照らし合わせたり

ルミ:(N)町の人に、どこか高くて見晴らしがいい場所がないか、聞きいたり

ルミ:(N)漁師さんに、海からそれらしい建物を見たことがないか、聞いたりもした


サエ:(N)それでも、私達はその場所を見つける事は出来なかった

サエ:(N)そして、日もすっかり暮れ、時間も午後10時を回った頃、

サエ:(N)場所探しは、18日の早朝から再開する事にして、解散となった


ミサ:ただいま


ミサの母:お帰りなさい、随分遅かったわね、ミサ、ご飯は?


ミサ:ルミ達と食べたから


ミサの母:そう・・・お風呂入りなさい、お布団敷いてあるわよ


ミサ:ありがとう


ミサ:(N)私は自分の部屋に入ると、布団に倒れ込んだ


ミサ:本当に・・・あれは何処だったんだろう・・


ミサ:(N)なぜ、私がこんなに必死になったかは分からない

ミサ:(N)花火を見るだけなら、どこだっていいはずなのに・・・

ミサ:(N)でも、どうしても、私はその場所を知りたいと思っていた


ミサ:(N)そう思うと、胸のざわめきが収まらなくなり、私は布団から起きた

ミサ:(N)そして、小学生時代の記憶を呼び戻す何かがないか、押し入れの中を探し始めた


ルミ:ただいま


ルミの母:あら、お帰りなさい。 こんな時間まで遊んでたの?


ルミ:遊んでた訳じゃないわよ、20年前に花火を見た場所を探してたの


ルミの母:あら、そう


ルミ:ねぇ、お母さん知らない? 20年前に私達が花火を見た場所


ルミの母:20年前の花火って、あなた覚えてないの?


ルミ:覚えてないから、探してるんじゃない


ルミの母:そうじゃないわよ、20年前の花火の日、あなた達、迷子になったのよ?


ルミ:え?


ルミの母:覚えてないのね。

ルミの母:もう・・海に落ちたんじゃないかって、町の人達と必死に探したんだから


ルミ:ホントに?


ルミの母:そうよ、それで花火が終わった後に、ミサちゃんとひょっこり帰って来て、

ルミの母:もう、本当にあの時は肝が冷えたわよ


ルミ:そうだったんだ・・で、私達は何処にいたって?


ルミの母:あなた達二人に、何処にいたのか何度も聞たけど、秘密としか言わなかったわよ


ルミ:あれ?

ルミ:お母さん、今、ミサと二人って言わなかった?


ルミの母:ええ、ミサちゃんと二人よ


ルミ:サエは?


ルミの母:居なかったわよ、


ルミ:そんな、あの日はサエも居たじゃない


ルミの母:うーん、覚えてないわね


ルミ:そんな・・・


ルミの母:だってあなた、いつもミサちゃんと二人だったから


ルミ:その日はサエも一緒だったのよ


ルミの母:そうだった? 覚えてないわね


ルミ:もういいわよ、おやすみなさい



ルミ:(N)次の日の朝早く、待ち合わせの場所に向かう為に、私は家の玄関にいた

ルミ:(N)タイムリミットは、今日の午後7時頃の花火が始まるまでの時間

ルミ:(N)私は焦りながら扉を開いて外へ出た


ルミ:(N)すると、玄関の前にはサエがいた


ルミ:サエどうしたの?


サエ:ルミ、私ちょっと気になる事があるの


ルミ:どんな事?


サエ:まだハッキリとは分からないから、ちょっと私一人で確かめて来ようと思うの


ルミ:それなら三人で行けばいいじゃない


サエ:もし私の勘違いだったら、時間がもったいないでしょ

サエ:ルミはミサと二人で探して欲しいの


ルミ:それもそうね、分かった、ミサには伝えておくわ


サエ:うん、お願いね


ルミ:(N)私はサエと別れて、待ち合わせ場所に向かった

ルミ:(N)待ち合わせの場所には、ミサが遅れてやってきた


ミサ:ごめん、遅くなって


ルミ:いいけど、珍しいわね、ミサが遅れるなんて


ミサ:いろいろ考え事をしててさ

ミサ:つい寝坊しちゃってた


ルミ:そうだったんだ


ミサ:あれ、サエは?


ルミ:サエなら、確かめたい事があるって、一人で先に行ったわよ


ミサ:そっか・・・


ルミ:どうしたの?


ミサ:いや、大した事じゃないから


ルミ:そう、じゃぁ行こうか、時間も勿体ないし


ミサ:そうね


ミサ:(N)私達は昨日と同じように、20年前に花火をみた場所を探した

ミサ:(N)しかし、どれだけ探しても見つからない

ミサ:(N)午後3時を過ぎた頃、花火の空砲(くうほう)が鳴り始めた


ルミ:見つからないね

ルミ:空砲の音を聞くと、焦っちゃうよね


ミサ:ねぇルミ、おかしいと思わない?


ルミ:何が?


ミサ:こんなに探して見つからないなんてさ

ミサ:だって、小学生が行ける場所でしょ?


ルミ:それは秘密の場所だったとか


ミサ:あの時、あんなに大きな花火大会だったのに、私達って三人だけで花火見てたよね


ルミ:うん、確かそうだった


ミサ:そんな場所ってある? こんな小さな町で


ルミ:うーん、子供だから偶然発見できたとか

ルミ:それか、私達が思い違いをしてるとか


ミサ:三人で同じ思い違いをする?


ルミ:普通しないよね


ミサ:ルミ、ちょっと私の家に来てくれない


ルミ:え? どうしたの? 場所探しは?


ミサ:どうせ、このまま闇雲(やみくも)に探したって見つからないよ


ルミ:まぁ、そうだけど


ミサ:とにかく、私の家に来て


ルミ:分かった


ミサ:(N)そして、私はルミを連れて、家に帰った


ミサ:ルミ、これを見て


ルミ:(N)ミサが見せたのは、20年前にミサが描いた絵だった


ルミ:花火の時の絵?


ミサ:そう、よく見て


ルミ:(N)絵では、私とミサとサエの三人が手を繋いでいた

ルミ:(N)そして、山と花火と海と、海に写る花火が描かれていた


ルミ:懐かしいわね

ルミ:これ、花火を見ている時の絵でしょ?


ミサ:そう、私達三人が描かれてるよね?


ルミ:そうね、それがどうしたの?


ミサ:これを見て


ルミ:ん? アルバム?


ミサ:そう、よく見て


ルミ:よく見てって・・


ルミ:(N)私はミサに言われて、アルバムを注意深く見た

ルミ:(N)アルバムには、ミサと二人で写った写真は沢山あったが、サエが写ったものは無かった


ルミ:あれ? サエが写った写真がないわね


ミサ:不思議だと思わない?

ミサ:私達って小学生の頃、ずっと一緒に遊んでたよね


ルミ:そうよ、三人でいつも一緒だった


ミサ:じゃぁ、サエが写った写真がないのって不思議だと思わない


ルミ:偶然とか


ミサ:ルミ、私達って、ここに20年ぶりの花火を見る為に帰って来たのよね?


ルミ:そうよ、当たり前じゃない


ミサ:本当に?


ルミ:本当にってどういう事? ミサは違うの?


ミサ:私もそう


ルミ:だったら


ミサ:でも、私達って、花火の事を詳しく覚えてないじゃない


ルミ:そういえば、そうね


ミサ:20年よ、20年もの間、私達って「よく覚えてもいない花火」の事を楽しみにしてたの?


ルミ:うーん、何となく「凄かったなー」っていうぼんやりした記憶で


ミサ:それで20年も?


ルミ:うーん


ミサ:私ね、今日のお祭りには、絶対に来たかったのよ、絶対に来なきゃいけないって、ずっと思ってたの


ルミ:私も、絶対に来なきゃって思ってた


ミサ:私ね、花火よりも、もっと何か大切な事がある気がするの

ミサ:絶対に思い出さなきゃいけない、絶対に忘れてはいけない何かが


ルミ:そう言われれば、私もそんな気がする


ミサ:それが何なのか、サエは知っている気がするの


ルミ:そっか


ミサ:とにかくサエを探しましょう



ミサ:(N)こうして、私達はサエにあって真相を確かめる事にした


ルミ:ミサ、さっきからサエに連絡してるんだけど、出ないのよ


ミサ:じゃぁ、とりあえずサエの家に行ってみましょう。

ミサ:サエの家族なら何か知っているかもしれないし


ルミ:そうね



ミサ:(N)そして、私達はサエの家に行くことにした


ルミ:酒屋の裏ってこの辺りだよね

ルミ:昔、よくサエの家に遊びに行ったけど、昔の事だから記憶が曖昧で・・・


ミサ:ルミ、酒屋の裏って確か・・・・



ルミ:あれ? 神社・・・


ミサ:(N)私達の記憶にある、サエの家が建っているはずの場所には、古い神社があった


ルミ:おかしいなぁ、確かこの辺りだったと思ったんだけど


ミサ:(N)私はその神社を見た時、私の記憶の中の歯車が少しだけ動いたような気がした

ミサ:(N)でも、肝心の何かがどうしても思い出せない

ミサ:(N)何か大切なものが、黒い霧の中に隠されているような感覚だった

ミサ:(N)その時


ルミ:あれ、この狛犬、面白いね


ミサ:ルミ、何を呑気な事を言ってるのよ、今はそれどころじゃないでしょ


ルミ:だってさ、狛犬って普通、正面を見てるか、お互いを見てるでしょ?

ルミ:この子達、全然違う所を見てるからさ・・・


ミサ:そんな事、今はどうでも・・・・


ミサ:(N)ルミのいうように、狛犬は確かにおかしな方向を向いていた

ミサ:(N)かなり古い狛犬のようだから、そういうものもあるのかと思ったが


ルミ:この子達、何か見つめているような顔しているけど、何見てるのかな?


ミサ:え?


ミサ:(N)ルミの言うよに、確かに狛犬は何かを見つめているようだった

ミサ:(N)そして、その目線の先は、切り立った山の中腹だった


ミサ:あの山・・・


ルミ:ミサどうしたの?


ミサ:狛犬が見ているあの山ってさ、まだ、探してないよね


ルミ:だって、あそこは木も鬱蒼(うっそう)と茂っていて、昔から建物なんて何もないし、足場も悪いから危険だよって言われたじゃない


ミサ:でもさ、あそこなら海が見下ろせる高台になるでしょ?


ルミ:あ、確かにそうだね


ミサ:行ってみようよ


ルミ:そうだね、もう6時も過ぎちゃったし、他に探す所もなさそうだし、行ってみるしかないよね


ミサ:(N)そして、私達は狛犬の見つめる山の中腹を目指した

ミサ:(N)しかし、山は、道もなく、坂も急で、足場も悪かった、

ミサ:(N)私は記憶の中の霧が少し晴れていくような感じはしていたが、子供がここを登るのは、少々無理があるようにも思えた

ミサ:(N)やはり違ったのだろうか・・・と思い始めた、そんな時


ルミ:私さ、ここに来た事があるような気がする

ルミ:この道もさ、三人で登ったような気がしてるの、その時はもっと楽に登ってたと思うんだけど・・・


ミサ:ルミ・・・


ルミ:なんか少しづつ霧が晴れていくような感じするの

ルミ:だから、ここだよきっと


ミサ:うん、私もそう思う


ミサ:(N)ルミも同じ感じがしてたんだ・・・

ミサ:(N)そして、ルミの言葉が私の背中を押してくれた気がして、凄く嬉しかった・・・


ルミ:でも、もう体力の限界かも・・・


ミサ:少し休憩する?


ルミ:いや、もう時間もないしさ、もしサエがこの先で待ってるなら、早く会いたいじゃない


ミサ:そうね、じゃぁ頑張ろう


ミサ:(N)私も、正直もう体力は限界だったが、ルミの言葉に励まされて、何とか進んでいた


ミサ:(N)木が鬱蒼(うっそう)と茂る山道は、ただでさえ薄暗い

ミサ:(N)それが夕日の落ちかけた夕方ともなると、一層暗くなる

ミサ:(N)これ以上暗くなると、足元も見えなくなると思い始めていた、その時


サエ:ルミ、ミサ・・・


ミサ:(N)サエの呼ぶ声がした


ルミ:サエ! いた!


ミサ:サエ


ミサ:(N)もう少し坂を登った先で、サエが私達を見つめていた

ミサ:(N)私とルミが、サエを見つけた瞬間、私の中で、全ての記憶が蘇(よみがえ)った

ミサ:(N)まるで霧が晴れていくように

ミサ:(N)20年前の花火の日に何があったのか・・・

ミサ:(N)おそらくルミも同じだろう


サエ:二人とも、よくここまで来てくれたわね



ルミ:当たり前でしょ、約束したじゃない、20年後の花火の日にもう一度会いに来るって

ルミ:どんな事があっても、絶対に来るって。


ミサ:そうよ、私も絶対に来なきゃって思ってたわ


サエ:でも20年よ、あの時二人は9歳だったし、この町を離れると記憶はどんどん薄れていくから

サエ:もう二度と二人には会えないって思ってた


ルミ:サエ


サエ:昨日、駅で二人を見つけた時は、本当に涙が出そうになったわ

サエ:二人が約束を守ってくれて、本当にうれしかった


ミサ:サエ


サエ:でも、この場所は教えられないし、ここに来れるかどうか不安だったの

サエ:二人とも、ありがとう


ルミ:でさ、サエ、あの時「次に会った時に話す」って言ってた、あなたの事だけど、

ルミ:あなたは、どうしてここにいるの?


サエ:そうね、話さなきゃね


サエ:私は260年ほど前に、ここに祀(まつ)られた人柱の巫女(みこ)なの

サエ:そして、二人の後ろにあるのが、私を祀っている祠(ほこら)なの


ミサ:260年前の人柱・・・


ルミ:祠って、もうボロボロで、木に飲み込まれそうじゃない


サエ:ええ、そうなの


ルミ:でも、人柱って言ったら、キチンと代々供養して貰えるんじゃないの?


サエ:実は、当時ここを収めていたお殿様が、人柱を禁止していたの

サエ:でも、どうしても海が荒れて、毎年何人もの漁師が命を落とすから、お殿様に内緒で人柱の儀式を行ったの

サエ:その時に巫女に選ばれたのが、9歳の私


ルミ:サエ、9歳だったんだ


サエ:うん

サエ:その時は、海の見えるこの高台が一番見晴らしのいい所だったから

サエ:ここに、小さいけど丁寧に祠を作って貰えたのよ


ミサ:でも、今は


サエ:仕方がないのよ

サエ:祠は、お殿様に知られないように、小さくひっそり建てたし

サエ:神社にも、人柱の記録を一切残さなかったから

サエ:だから、次第にこの祠は、人の記憶から消えていったの


ルミ:そうだったんだ


サエ:当時の村の人達は、私を忘れないようにって20年に一度、大きな祭りを開いてくれるようになったの

サエ:私ね、そのお祭りの間だけ、人の姿になれるのよ


ミサ:そうだったの、だから、私達とも一緒に居られたのね


サエ:でもね、この祠の事が段々人の記憶から消えていくと、私を「お化け」だっていう人もいて、次第に人が来なくなってしまって


ルミ:折角、人の姿になれるのに、それって、さみしいね


サエ:うん、私ずっと寂しかった

サエ:だから、20年前、あなた達が、二日間だけでも私と友達になってくれて、とっても嬉しかった

サエ:そして、20年経った今も、こうして会いに来てくれるなんて


ミサ:そんなの当たり前じゃない、サエは命の恩人なんだし


ルミ:そうよ、ちゃんと思い出しわ


ルミ:祭りの初日に、ミサが足を踏み外して、海に落ちちゃって

ルミ:それを助けようとした、私も溺れちゃって


ミサ:そこにサエが来て、海に飛び込んで助けてくれたのよね。


サエ:うん


ルミ:それから、祭りの間中、一緒に遊んだのよね


サエ:うん、本当に楽しかった

サエ:でも、私の事を怖がられたくなかったから、嘘をついていたの

サエ:私の事は、昔からずっと一緒に遊んでいた、幼馴染だって思ってもらってたの

サエ:ルミやミサのお父さんや、お母さんや、街の人にも・・・ごめんなさい


ルミ:そんな嘘をつかなくたって、私達にとってサエは、サエ

ルミ:幼い頃からずっと一緒に遊んでたサエなのよ


サエ:ありがとう


ミサ:サエ、あなたはこれからも、ずっと私達の友達のサエだよ


サエ:うん


サエ:(N)その時、空を染める七色の花火が上がり始めた


ルミ:あ、花火


ミサ:綺麗


ルミ:うん、間違いないよ、私達この景色を見てたんだよ


ミサ:うん


ルミ:(N)高い空に星が輝き、低い空に花火が輝く

ルミ:(N)見下ろす真っ黒な海には、花火が反射して、波の形に揺れている


ミサ:(N)花火の光が、山肌を照らし

ミサ:(N)私とルミの顔も照らす


サエ:(N)花火を見ながら、二人が私の手を握ってくれた、20年前と全く同じように

サエ:(N)まぎれもなく、ここには20年前の三人の少女がいた


ルミ:私、次の花火の時も絶対に来るからね

ルミ:20年後も絶対


サエ:(N)花火を見ながらルミは言った


サエ:20年後って、二人はもう49歳よ


ミサ:それでも、絶対にくるよ

ミサ:例え結婚して、子供が出来てたとしても、絶対に私は来るよ


ルミ:20年後、もう一度会えるんだよね

ルミ:私達がここに来れば


サエ:ええ、会えるわ


ミサ:それなら大丈夫


ルミ:そりゃ、私たちは愛情よりも友情派だからね


ミサ:そうかなぁ


ルミ:ミサひどーい


サエ:ふふふ


ルミ:ははは

ミサ:ははは


ルミ:(N)そして20年の時を超えた、永遠とも思える三人の時間が過ぎていった


ミサ:(N)20年後のこの時間を、もう一度心に誓いながら


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20年目の花火(女性3人劇) Danzig @Danzig999

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