第16話――謎の部屋


「家の鍵じゃない?」


 鑑識の一室の中で、高倉が思わず捜査員の八反田はったんだに対し、裏返るような声を上げた。

 ユニフォームである帽子のつばを後ろ向きにしたその背の低い小柄な三十代前半の男性捜査員は答えた。


「ええ。死亡した葉室夫人である房江が衣服のポケットに入れていた鍵は、照合の結果、あの家の鍵ではありませんでした。不可解なのは、自宅の鍵は家のどこにも見つからず、また、亡くなった家族誰一人も持っていなかったという点です」


「行方不明中の長治ちょうじが持ったまま姿を暗ましたとか?」


 さらなる謎の出現に、高倉と米田は困惑の表情を向け合うしかなかった。



 鑑識による葉室家の現場検証は、夜まで続けられた。


 川本捜査員が、一階の廊下にある引き戸の外を見ると、もう月がはっきりと見えるくらいで腕時計を見ると夜の八時を過ぎていた。


「ん? ……おい! ここに何かあるぞ!」


 共に廊下を調べていた増岡捜査員が、縁側の床に何か正方形の切り込みを発見した。顔を近づけてライトを当てないとわからないくらいの細い線だ。


「開けられるようだ。バールを持ってきてくれ!」


 立っていた川本捜査員が、慌てて家の外に停車してある警察車両から、刃が薄いバールを持って戻って来た。

 切り込みに差し込み、てこの力で押し上げると、正方形の片方が少し持ち上がった。二人は上がった正方形の両端を支え、掛け声とともに弧を描き、百八十度に開いた。


 するとその下から暗く四角い空間が顔を出した。


 増岡が急いで中をライトで照らす。

 灯りの先に、埃を被った木製の階段が見える。その下は真っ暗で何も見えない。


「……よし。俺が先に入る」


 そう言って増岡が、階段をゆっくりと下りて行った。

 川本も後に続く。


 十五段ほど下りると地下に辿り着き、二人はライトで真っ暗な周囲を照らした。

 

 物置部屋なのだろうか。

 使わなくなった古びた布団が丸めて紐で縛られていた。他にも、昭和を感じさせるダイヤル式のテレビ、紐で縛った古紙、青っぽいゴミ袋に入った衣服など。


 ライトを前に向け直し、ゆっくりと歩いて行く。

 すると、奥の方から細い光がこちらに差し込んでいることに気づいた。


「電気がついてる」


 二人は少し躊躇いつつも、そちらの方へ足を歩ませた。前方に白い襖が見えた。光はその隙間から漏れていた。


「こんなところに部屋が……?」

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