第15話――解剖


「絵里の交際相手の芳樹の死因は、首の骨が折れたことによる即死だった。全身に傷があり、出血はしていたが。そして、こちらも――」


 五十代前半の無精髭を生やしたベテラン男性解剖医の木浪が、遺体ボックスを手前に引き出した。

 胸から腹部まで縫合された被害者の一人である葉室絵里の遺体を見下ろしながら、説明を続ける。


「彼女の死亡推定時刻は、三月十一日、午前一時から三時。死因は、窒息死。首の骨を圧迫されて、呼吸困難に陥った。交際相手と同様、確かに、刺されて失血してるが、その前に息ができなくなって死亡している」


「じゃあ、絞殺ですか?」


 高倉が、聞き返した。


「確かに絞殺だが、皮膚から犯人の指紋は検出されなかった。それに……」


 そう言って、木浪は溜息交じりにレントゲン写真を高倉に渡した。


「……!」


「……なんすか……これ」


 高倉だけでなく、傍で写真を覗き込んでいた米田も唖然としてしまった。


 全身のエックス線写真だが、見ただけでも、首、腕、肋骨、大腿骨にわたり、骨が至る所で砕けているのがわかる。


「ああ。まるでダンプに轢かれたようだ。他の被害者である房江と麻綾も、同様だった」


 木浪は、なす術がないお手上げの表情で高倉の方を向いた。


「ダンプって……どういうことですか? ……家の中でしょ?」


 高倉は予想もしなかった解剖結果に、戸惑いながら木浪に向き直った。

 彼は言った。


「今までいろんなガイシャを見てきたが、こんなのは初めてだ」



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