第14話 公爵夫人の可愛い寝顔(ドニ視点)
「それは残念だな。ドニが書いた推理小説、読んでみたいのに……」
ウトウトし出すと、もうダメらしい。ルエラの体が後ろに倒れそうになった。僕はすかさず抱き寄せる。
「大丈夫。落ち着いたら、ルエラのために書くよ」
「本当?」
「うん。だから、もうおやすみ」
始めは「う~ん」と言いながら抵抗していたが、背中を優しく撫でている内に、観念したようだ。しばらくすると、規律のいい寝息が聞こえてきた。
柔らかい薄茶色の髪の毛をかき分けて、ルエラの頬を撫でる。その温かい体温を感じながら、少し開いた唇に目がいった。
さっきこの口から出た言葉を思い出すだけで、口角が上がるのを感じる。それと同時に、触れたいと思う衝動にも駆られ……。
気がつくと、触れるか触れないかのところまで、ルエラに顔を近づけていた。
ハッとなって距離を取る。
「いくら何でも寝ている時に……いや、それもまたダメだ」
ならば、今すぐにルエラをベッドの上に寝かせてやればいいものの、それも出来なかった。
見れば見るほど可愛い寝顔に、気持ちが溢れ出す。これならば、夜は見ながら寝たいし、朝は起きた瞬間から眺めていたい。
「あぁ、そうか。僕は……」
ルエラを愛してしまったんだ。
けれど僕たちの関係は契約結婚。三年後には離婚する。
「手放せる自信がないな……」
そう言って、再び抱き寄せた。
死なせたくない。守りたい、という気持ちから始まった、ルエラへの感情。周りの者たちとは違い、僕を受け入れてくれる姿が嬉しくて、どんどん欲が強くなってしまった。
けれど、ルエラに忍び寄る、リザンドロ・アレバロ。まだ奴は殺人者ではないけれど、危険な人物であることには変わらない。
「運命は避けられないのかな」
こんなにも愛おしい存在なのに。この世界はルエラに残酷だった。
そっとベッドに横たわらせる。もう一度、その可愛らしい頬に触れながら、ふと、あることに気がついた。
「確か、僕がウェンディ・シェストフについて、ルエラに尋ねたら黒いオーラが見えたって言っていたっけ」
警告か、暗示か。思案し始めた直後、ルエラからキラキラした眼差しを向けられてしまい、対応せざるを得なかった。
「出会ってから、困った顔や泣き顔ばかりで、笑顔すらそんなに見せてくれなかったんだ。あんな期待に満ちた顔をされたら、無視なんてできないよ」
デーゼナー公爵家という地位を狙って、誘惑して来る令嬢は多いけれど、ルエラは……やっぱり例外だと思う。
「この世界に転生してから、ずっと探していたからかな」
そんなルエラからの助言。ウェンディ・シェストフの存在。リザンドロ・アレバロとの繋がり。
「ルエラのことを考えれば、調べない方がいいんだろうけど……」
リザンドロの探し物、というのが引っかかった。奴の行動原理はウェンディ・シェストフだ。
一応彼女は、この世界が舞台となっている小説『今日もノワグの丘で祈りを』のヒロインであり、ルエラの親友。……僕の妻となる人物だ。
ルエラを好きになってしまった僕としては、白いオーラが見えるのも困るが……黒いオーラ?
これで気にならない方がおかしい。
僕はルエラに毛布を掛ける。すると、少し寒かったのか、掛けた途端小動物のように、寝返りを打ちながら、毛布を引き寄せてしまった。
お陰で、僕の位置からはルエラの顔が見えない。
枕からシーツに流れる薄茶色の髪。まるで、触れていいのがそれだけだと言わんばかりのように。
だから、一房取って口元に寄せる。
「こっちを向いて、ルエラ」
すでに夢の中にいるルエラが、僕の言葉を受け入れてくれることはない。けれど、僕も諦めの悪い人間だった。
ルエラを後ろから抱き締めて、彼女の体温を感じる。生きてここにいることを感じられる喜びと共に――……。
「愛おしさが募るばかりだ」
それなら一層のこと、調べるのが僕じゃなければいいんじゃないかな。例えば、外部の人間とか。公爵邸の使用人だと、僕と同じでルエラに危険が及ぶかもしれない。
だからこそ、外部の人間。僕に辿り着けないくらい関係性の薄い人間が妥当だろう。そんな甘い誘惑にかられた。
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