第7話 旦那様と領地へ
そもそも考えてみると、分かる話だった。
あんなにも私に
領地へ向かう許可が
ドニと共に、馬車に揺られて三時間。首都から出たことがなかった私は、窓の外を見ているだけでも楽しかった。
そんな私を、ドニはクスクス笑いながら声をかける。
「そんなに見ても、景色は変わらないよ」
「もう! ドニにとっては見慣れた景色でも、私にとっては全てが新鮮なんだからいいの!」
だけど、心配したのか。時折、向かいの席に座るドニから、デーゼナー公爵領のことや、用意された本屋の話などをした。
お陰で道中、退屈することは一切なかった。
その後は予定通り領主館で過ごし、領地内を視察。本屋へは後日ということになった。
ドニのご両親は、すでに亡くなっているため、領主館を治めているのは、首都の屋敷で執事をしているウィルソンの兄、ニクスだった。
本来、彼が執事をする予定だったのだが、ドニが爵位を継いで間もなく、前デーゼナー公爵夫妻が事故で他界。
結果、ウィルソンが執事に。ニクスが領主館の臨時領主となったらしい。
「初めまして、ルエラ・デーゼナーです。これから色々お世話になると思うけれど、よろしくね、ニクス」
「こちらこそ、奥様にお会いできるのを楽しみにしておりました。何か不便なことがありましたら、すぐにお申し付けください」
すでにドニとは別件で、ウィルソンから連絡を受けているのか、元子爵令嬢の私に対しても、ニクスは穏やかに挨拶をしてくれた。
それは領主館の使用人たちも同じで、まるで首都の屋敷にいるような気分だった。勿論、私の専属メイドであるエルダも一緒、というのもあるのだろう。
お陰で慣れない土地に来ても、さほど疲れを感じることはなかった。
***
「そんなキラキラした目で見るほど、変わったところじゃないよ」
横を歩くドニが、クスクス笑いながら、目を細めて言う。
視察中もそうだったが、仲の良い領主夫婦に見えるように、私はドニの腕を組んで歩いていた。
始めは恥ずかしかったけれど、二日目ということもあり、あまり周りの視線が気にならなくなった。
ううん。違う。この道の先に、ドニが私のために用意してくれた本屋があるからだ。要望は事前に伝えていたけれど、本当にこの日まで私は領地に来ることは叶わなかった。
デーゼナー公爵領ジェスモは、領主館を置いている街、ということもあって栄えていた。それも首都並にだ。
お洒落な服装を身に
よく見ると、首都で見かけた流行りの服だ。それを独自に着こなしているのか、別の服に見えてならなかった。
さらに背後に見えるお店も色鮮やかで美しい。首都が古風なら、ジェスモはカラフルな街といったところだろうか。
黄色や赤、緑色など、様々な屋根の色が可愛らしく。けれど、外壁は白に統一されて、まるで一枚の絵画のように見えた。
それを変わったところじゃない、ですって!
「とんでもない! こんな素敵な街並みに、そんな言い方は失礼よ」
私はドニを非難した。
こんな場所だと知っていたら、もっと早く連れて来てほしかったのに、という意味も込めて。
「そうだね。僕の代わりに領地を治めてくれている、ニクスにも悪い言い方だった」
ちょっとズレているけれど、その言い分は正しい。使用人たちから聞くドニの印象もそうだった。
主人としてはいいけれど、人柄は……。
私も、可笑しな言動がなければ、いい旦那様なんだけれど……。いや、その前に契約結婚であることを忘れちゃダメよ、ルエラ。
「でも気に入ってくれて嬉しいよ。これなら本屋の方も大丈夫かな」
「どの建物なの?」
外出を禁止するくらいなのだから、領主館から近いのだろう。
私は早速、辺りをきょろきょろと見始めた。すると、すぐにドニが「あれだよ」と言いながら前方を指差す。
「もしかして、屋根が黄緑色の建物?」
「うん。ルエラの瞳の色と同じだから、分かり易いと思ったんだ」
な、な、何をサラッと爆弾発言をーーーーー!!!!!
「本当は、薄茶色に塗り直そうと思ったんだけど、街の景観に合わないと却下されてね」
「……地味な色だから」
「それもあるけど、その方がルエラの安全にも繋がると思ったんだ」
あっ、そっか。そうだよね。ドニは最初から、私を幸せにしたいって言っていたのだから。地味とか平凡という目で見ているわけじゃない。
「だったら、青でも良かったんじゃない?」
「何で?」
「……ドニの色、だから。ま、守られているように感じる、かなって」
自分で言って気恥ずかしくなった。
「色に関してはさすがだね。そっか。そういう発想はなかったな。今からでも変えるか……」
「えっ! いいよ、それは。ちょっと言ってみただけなの!」
これで、完成するまで領主館から出られなくなる、もしくは首都に帰されるのかと思うと、ヒヤッとした。
全く伝わらないというより、明後日の方向にいってしまうんだから……ドニは。それでも惚れた弱みなのか、嫌いにはなれなかった。
「それよりも、早く中を見てみたいわ。内装もドニが選んでくれたって言っていたじゃない」
「うん。そうだよ。この街のように、気に入ってくれるといいんだけど……」
「大丈夫。絶対に気に入ると思うから安心して」
だって、ドニの体から白いオーラが見えるんだもの。悪いはずはない。
珍しく不安げな表情のドニを勇気づけるために、私は満面の笑みを向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます