姫川彩花と姫川瑠花

「調子はどう、姉さん」

「完璧よ。やはり人間の体は良いねえ」

 どうやら憑依はうまくいったらしい。これでまた生きた姉さんに会えた。

彩花アヤカ。ずっと触れたかった。こうやって抱きしめたかった」

 姉さんに抱きしめられる。昔のような柔らかい胸はないが、そのおかげで姉さんの心臓の音が感じられる。姉さんが生きている。

「私も瑠花ルカ姉さんの体温を感じたかった。おかえり、瑠花!」

「ただいま。ようやくだね」

 私たちは抱き合ったままベットに倒れ込んだ。

「脈がある。呼吸をしてる。目が動いてる。瑠花が生きている!」

「そうだよ。姉さんが生き返ったんだよ」

「瑠花、大好き」

「私も彩花が大好きだよ」

 こうして抱き合ったまま笑って、泣いて、身体中に触れて、生きていることを確かめた。

 そして気がついた時には寝ていて、目が覚めたのは朝5時。起きても瑠花が腕の中にいて、昨日のことが夢じゃないと確信できた。

「瑠花」

 そっと唇に触れる。生前と姿は変われども雰囲気は変わらない。優しくて美しい姉だ。

「大好きだよ」

「おはよう、彩花。私も大好き」

 いつもならちょっとやそっとじゃ起きない瑠花が起きていた。私は驚いてベッドから飛びのく。

「瑠花起きてたの?」

「この体の持ち主の眠りが浅かったみたいだからね。今後は一緒に朝ごはん作れるよ」

「そうそう、今後のことなんだけどね?」


 私は瑠花に今後の計画を話した。

 まず、外では小林玲奈として振る舞うこと。絶対に中身が変わったとバレないようにすること。でも部屋の中では姫川瑠花に戻ること。私も外では小林さん、内では瑠花と呼び分ける。

 そして、寮の部屋を一緒にしてもらえるよう先生に頼みに行くこと。一人部屋希望者は多いのですぐに一緒になれそうだ。

 最後に、ここから遠く離れた大学に行って、そこから姫川瑠花の性格に戻る。さらに大学卒業後は籍を入れ改名して完全に姫川瑠花になること。


 全て話し、多少の計画の修正と納得、そして小林さんになりきる練習をした。そうすれば時刻は6時。朝ごはんの時間だ。

「今日はオムレツとトマトとトーストにしようか」

 瑠花がオムレツを焼いてくれる。しかもチーズ入り。絶対に美味しい。

 その間に私は食パンにバターを塗ってトースターで焼き、トマトを切る。ついでにきゅうりも切る。必要分をお皿にのせ余った分はお弁当へ。作り置きのおかずと冷凍食品でお弁当を埋めてゆく。

 オムレツを完成させた瑠花がヨーグルトをよそい、ジャムを乗せる。ついでにトーストもお皿に乗せてくれる。

「食べようか」

 テーブルにそれぞれの分の食事を運ぶ。

「いただきます」

 久しぶりの二人揃っての食事はとてもおいしかった。瑠花のオムレツは以前と同じように綺麗で美味しく、涙が出た。


 数時間後、学校に行ってからは姫川彩花と小林玲奈として振る舞った。誰も小林さんの中身が変わったと気づかない。気づくほど親しい人間がいないからだ。

 数日後、無事同じ部屋になった。ルームメイトとして学校でも少し仲良く過ごせるようになった。

 数ヶ月後、図書館で一緒に志望校を探すようになった。志望校は海外の学校にした。

 数年後、私たちは海を超えた先の大学で共に勉強していた。海外での生活は大変だった。特に食事がくせものだった。

 さらに長い年月が経ったころ。永住権を取得し、小林玲奈から姫川瑠花に改名した。


 そして、よく晴れた夏の日、こちらでできた友人や同僚を呼んで式をあげた。お揃いの真っ白なウエディングドレスを見にまとう姉さんはとても美しい。

「いよいよだね。いよいよ計画が終わる」

「いや、これから始まるのよ。これから全てが始まるの。ねえ、緊張してる?」

「全く。だって瑠花がいるから」

「私もだよ。彩花がいるからここまで来れた。ありがとうね」

「それはお互い様。さあ、幸せを宣言しに行こうか」

「そうだね、永遠の幸せを誓いに行こう」

 お互いの片耳に青いイヤリングつけて最終計画へと向かう。

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幽霊姉さんを人間にもどしていちゃつきたいです! 橘スミレ @tatibanasumile

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