小林玲奈と破滅
言ってしまった。でもこうなったら全部言ってしまおう。
「私は賢くて、美しい彩花さんが大好きなの」
彼女の目を見て言う。
「だから、私はあなたに狂ってほしくないの。霊と長いこと話しているとおかしくなってしまう。あなたにはそうなってほしくないの」
姫川さんの目も顔も氷のように冷え切ったまま動かない。ただ蟻地獄を見るかのように憐れみの視線を向けるだけだ。
確実に告白された時の反応じゃない。
「美人で可愛くて賢い姫川さんが好きなの。愛してるの」
全くの無反応。瞬きすらない。
「私、あなたのためなら何でもできる。あなたのためならこの命でも捧げられるよ」
この言葉にようやく反応してくれた。
「何でもって言った?」
反応してくれたのが嬉しかった私は軽々しく口にする。
「何でもできるよ! あなたのためになら。だって姫川さんを愛しているから」
なぜか姫川さんは嬉しそうだ。
「そう。私のためなら死ねる?」
「ええ。それがあなたのためになるなら、あなたにこの身を捧げることだってできるわ」
彼女の幸せのためなら何でもできると本気で思っていた。死すら怖くないと思っていた。
「その言葉、後悔しない?」
「ええ、もちろん! 当たり前だよ」
この時はまだ彼女の言葉をたとえ話だと思っていた。だが、真実は違った。
「なら、死んでちょうだい」
そう言って姫川さんが私の首を絞める。息が詰まって苦しい。
「【抵抗するな】死んでも良いのでしょう? 小林さん」
頭がガンガンと痛くなる。喉が渇いて張り付く。
「そう。上手だよ。その調子だよ」
ああ、この状況で姫川さんは笑っている。狂っている。
それでも体は素直にDomの命令に喜ぶ。それがおかしくって私も笑ってしまう。
「【寝て】意識を飛ばして」
彼女の命令に従ってゆっくりと意識を飛ばしていく。
「【降りろ】、瑠花」
姫川さんが誰かに命令したとたんに、何かが入ってくる感覚がする。
まるで、誰かが自分の体を乗っ取られるような、そんな感覚がした。
「瑠花、その調子だよ。降りていいよ。憑依して良いよ。その子を【喰べな】」
視界が白く染まってゆく。霧の中にいるようだ。
ぼんやりとした霧。そこに両親が視える気がした。
よくある交通事故。運転席にいた母と助手席にいた父は死亡、私も生死を彷徨ったがなんとか生きていた。
両親の遺産は私の入院費用や葬式その他でみるみるうちに減っていった。なんとかやりくりして中学を卒業し、特待生としてこの学校に入学した。
私は走馬灯を見ているのだろう。なら、もうすぐ死ぬのか。姫川さんの【命令】のおかげか意外と苦しくない。
お母さん、お父さん、今会いに行くから待っててね。
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