姫川彩花の邪魔者

 姉さんと楽しいことをしていたら急に激しく鳴るノックの音。そして私を呼ぶ叫び声。ムードが台無しだ。

「彩花、どうする? 誰かが呼んでるみたいだけど」

「とりあえず姉さんは【戻れ】人形は布団で隠しとく」

 全く。私の邪魔をする不届者は誰だ。苛立ちをそのままに乱暴に扉を開けると隣の部屋の小林さんがいた。

「なんですか?」

「【命令】を、【命令】をください!」

 どうやら彼女はSubらしい。ここまでになるということはパートナーもいないのだろうな。本当は姉さん以外に【命令】を使いたくないが今回は仕方ない。

「小林さん、【座れ】これでいい?」

 だらしなく床に座った彼女をみる。涙と鼻水でボロボロの顔をしている。誰かに見られたら変な噂を立てられそうなので一度部屋に入れる。

「何があったの?」

 箱ごとテッシュを渡しながら小林さんにとう。

「しばらくDomの【命令】を受けれてなくて。その時にあなたの声が聞こえてきたら我慢できなくなって。ごめんなさい」

 自分の体調くらい自分で管理しろと言いたくなるのを堪える。

「大変だったね。もう落ち着いた?」

「あ、はい。ありがとうございました」

 悪い子ではなさそう。容姿もそこそこ整っている。姉さんも気に入ったみたいだ。

「あ、お礼と言ってはなんですが、あなたに憑いているもの祓いますよ」

「大丈夫。別にお礼なんかいいから」

 どうやら彼女には姉さんが視えているらしい。これは非常に厄介だ。もう降ろしていいかしら。

「お礼でなくても、私が祓いたいんです、ずっと霊と一緒にいると精神衛生的に良くないですよ」

 私にとってはあなたの存在が精神衛生上良くないなんて言えない。言ったら彼女の面倒さに拍車がかかってしまう。

「大丈夫ですから」

「そんなこと言わずに、ね?」

「このままで大丈夫です。特に問題も起きていないので」

「いや、ダメです。絶対ダメです。祓うまで帰りません!」

 この人、霊視商法でもしにきたのか疑いたくなるほど粘り強い。まさか何か売りつけられてしまうのか? 人生初の悪徳商法体験してしまうのか?

「どうしてそこまでして祓いたいんです? 私はこのままでいいと言っているのですけど」

 彼女の次のセリフはさすがの私でも予想外だった。

「だって私、あなたのことが大好きなんですよ!」

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