小林玲奈と欲求不満
明日締め切りの課題と今日の授業の復習を終えて部屋に戻る。意外と時間がかかってしまったので夕飯の買い物もしていない。
お腹は減っているけれど、それ以上に疲れているので寝てしまおうとベッドに寝転ぶと壁から話し声が聞こえてきた。
また隣室の姫川さん姉妹がおしゃべりしてるらしい。
そろそろ彼女の精神が心配だ。霊と話しすぎておかしくなっているかの知れない。早く助けなければ。
いや、もしかしたらもうすでに精神が壊れているかもしれない。それならば私が彼女の精神を元どおりに修復しなければ。
姫川さんをいたわって温めて慰めて。姫川さんを幸せにしたい。姫川さんはあんな霊なんかに壊されて良い人間じゃない。あんなに賢くて可愛くて素敵な人が幸せにならないなんてことがあってはならないのだ。
「どうしたものかなぁ」
本当に困った。疲れた私の頭ではまともなアイデアが浮かばない。
両親の写真に問いかけるも声が返ってくることはない。ただ沈黙があるのみ。私をいたわる手も温かい抱擁も慰めの声もない。
考えたら悲しくなってきた。とても寂しくて人肌が恋しい。こんなにつらくなるのはしばらくDomの【命令】を受けていないのもあるだろう。
Domの命令は言ってしまえば食事のようなものだ。多少食事を抜いてもお腹が空くだけだがあまりにも食べないと死んでしまう。【命令】も同じだ。
隣室から姫川さんの【命令】の声が聞こえてくる。
「姉さん【座れ】、そう上手だよ。ほら、こっちに【来い】」
私が喉から手が出るほど欲しくて仕方がないものが隣の部屋で霊なんかに与えられている。
「いい子。いい子。姉さんはいい子だね。なでなでしてあげるからこっちにおいで」
ぬいぐるみのように暖かく、それでいて熱のこもった妖艶な声。
「ほら。優しくしているでしょう? なに。足りなくなってきたの? やっぱり姉さんは可愛いね。いいよ。ひどく痛くしてあげる。明日文句言わないでよ」
一体どんなことが行われているのだろう。
「ほら【舐めて】そう、いい感じ。これをここに塗るね。ふふ、じゃあちょっと痛いけど我慢してね」
ぼんやりとしか聞こえない声にもどかしくなって、私が欲しくて仕方ないものがよくわからない霊なんかに与えられているのに腹が立って、気がついた時には隣の部屋のドアを叩いていた。
「姫川さん! 姫川さん! 助けて」
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