第36話

 高原の姉妹カフェもとい、高原のカフェに戻ってきた。


「ひどい……」


 裏庭の農園は酷い状況だ。

 せっかくの茶葉や豆が枯れてしまっている。

 お姉様たちも愛情込めて祈っていれば、こんなことにはならなかったのに。

 このままでは作物たちが可哀想なため、元どおりになるようしばらく祈り続けた。


「ここにいたのか」

「ひゃっ! レリック殿下⁉︎」


 集中していたため、レリック殿下が来ていることに気がつかなかった。


「こんな遠くまでお越しくださりありがとうございます。ですが、まだ営業再開までは……」

「気にしなくて良いよ。私はフィレーネ殿に用事があって来たのだから」

「それは大変っ! すぐに店内へ案内を。あ……まだぐちゃぐちゃ状態で……」

「ははは、構わないよ、このままで」


 レリック殿下は満足そうにしながら微笑んでいる。


「いえ、レリック殿下を外で立たせるわけには行きません」

「これで良いのだよ。今日の私の目的は、フィレーネ殿の活動を見学したいこともある」

「なっ!」


 そんなに微笑みながら言われてしまったら、まるで私のことを観察したいようにとらえてしまうではないか!

 だが、落ち着け私!

 あくまでレリック殿下は国務として来ているに違いない。

 私の聖女としての力を視察するという意味だろう。


「承知しました。もう少しだけ祈り続けたいと思います」

「うん、全く分かっていないようだ」


 小声でよく聞き取れなかった。


「なにか言いましたか?」

「なんでもない。続けてくれたまえ」


 非常に残念そうな表情を浮かべている。

 早く作業を見せてくれと思っているに違いない。

 本当はのんびりと作業をしていくつもりだったから、今日はおしまいにする予定だった。

 だが、せっかくレリック殿下が視察に来てくれたのだし、全力でやろう。三日で荒れ果てた畑を元に戻す予定を、日が暮れる前には終わらせた。


「ふぅ……」

「おっと……! 大丈夫か⁉︎」

「きゃ……申しわけございません!」


 ふらついてしまい、レリック殿下が支えてくれた。

 レリック殿下の手が私の肩に触れている。


「すまない、倒れてしまうかと思ってつい」

「むしろありがとうございます。ちょっと張り切り過ぎちゃいました」

「これが聖なる力というものなのか」

「そうです。今まで黙っていて申しわけございません」


 カフェを営業するために散々協力してくれていたのに、大事なことを黙っていたのだ。

 レリック殿下や国王陛下には、聖なる力のことは知られたため、もう隠す必要もなくなった。


「謝る必要などない。隠さなければならなかったことは理解できる」

「ご理解ありがとうございます」

「それにしても一生懸命だったな。素晴らしいよ」


 レリック殿下が満足そうにしてくれていたため、疲れもなんのその。

 おなかは空いたけれど……。


「フィレーネ殿に渡したいものがある」

「は、はいっ! って、これは……」

「主にジャーキが作ってくれた弁当だ。明日の分もある」

「嬉しいです……。ありがとうございます!」


 視察で会えたうえに、食事まで届けてくださるなんて感無量だ。


「その……実はな、私もジャーキに習って少しだけ作ってみたのだよ」

「え⁉︎」

「将来的に作る機会が増える可能性もありそうなのでね」


 王子が料理をするとは……。

 しかも、私のために作ってくれた?

 ますます誤解を生むことになりますよ?


 それでも私は嬉しすぎて、すぐに食べたくなった。


「今いただいても?」

「もちろん構わない。まだまだ不慣れだから、口に合わなかったら、無理に食べなくとも良い」


 それは絶対にありえない。食べ物を無闇に残すなんて絶対にしたくないからだ。


 とはいえ、不慣れなのは当然として、どれがレリック殿下が作ったものかはすぐに分かってしまった。

 嘘はつきたくないため、美味しいとは言えなかったのだ。


「作ってくださった気持ちがとても嬉しいです。ありがとうございます」

「そうか。やはりフィレーネ殿ははっきりとしていて嬉しいよ」


 料理長ジャーキさんの完璧な料理、そして心のこもった(理想)レリック殿下の料理、どちらも最高である。

 おかげで自炊する時間がなくなったため、部屋の片付けにとりかかることができた。

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聖なる飲み物だと気がつかない聖女フィレーネのカフェ経営 〜聖女を追放させた姉妹は破滅へと真っしぐらです〜 よどら文鳥 @yodora-bunchooo

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