第35話【Side】

 高原のカフェを強制退去させられたサーラとエマ。

 民間人を騙して商売していたことに加え、フィレーネの所有する家を強制的に追い出していた。

 国王により裁きを受け、二人は今、王都から馬で一日ほどの離れた小さな村にいる。

 逆らったら一瞬で骨を折られてしまいそうな、強靭な肉体を持つ警備兵とともに。


「こんなところで強制労働なんて死んでしまうわ……」

「サーラお姉様と一緒というのが唯一の救いですけれども……」


「罰金を払い終えるまで、茶葉の農園作業だ」

「「めんどくさい……」」

「文句を言うな。おまえらは不思議な力があるのだろう?」


 二人は渋々茶畑に入る。


「う……虫が……」

「気持ち悪いですわ……」

「言っておくが、これができないのならば、王都へ戻り肉体労働、もしくはそれもできなければ娼館へ送り込むことになる」


 脅しのように聞こえたため、サーラもエマも必死になるのだった。

 だが、今までフィレーネに任せっきりだったため、思うように作物を急成長させることができない。


「うぅ……なんでわたくしがこんな恥を……」

「全部フィレーネのせいよ。あんな子さえ生まれてこなければ今ごろはきっと……」

「家だって、わたくしたちが管理してあげていただけなのに……」


 ところが、フィレーネは高原のカフェに戻るとすぐに家の作業に入る。

 見違えるほどに綺麗にして、国へ提出しなければならない書類なども全て片付けることになる。

 サーラとエマが管理するよりも、立派にやるべきことをやっていた。


「文句を言っている暇があるなら、その力、使いこなせるようになるのだな。そうでなければ……」

「はいはい、肉体労働か娼館でしょ? そんなの本当にごめんだから、なんとかしますよはいはい!」


 サーラは警備兵に強気の姿勢で言い返した。

 しかし、数日経ってもフィレーネのようにはうまくいかない。


「確かに通常のペースよりは早く成長している。だが、これでは返済まで数十年規模だな」

「そんな⁉︎ おばさんになるまでずっとこんな地獄を⁉︎」

「それだけのことをおまえたちはしたのだから、当然だ」


 今になって、サーラとエマはフィレーネに対しての仕打ちに後悔を覚えた。


「うぅ……。フィレーネに物心がつく前に追い出していれば良かった……」


 どんなに後悔しても、フィレーネに対しての罪悪感が生まれることはない。

 二人はこのまま遊ぶ時間もなく、強制的にひたすら茶畑で農作業をすることになるのだった。

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