第34話

「「ひ……」」

「フィレーネ殿が初めて王都へ来たとき、どのような姿でどれほど大変な思いをしていたかそなたらには分かるか⁉︎」


 レリック殿下の一生懸命な発言を聞き、私はまた、お姉様たちから強制追放された日のことを思い出す。


 夜通し長距離歩行は大変だった。

 誰かに襲われてしまう覚悟もしていた。

 王都へ辿り着いても、カフェを始めることができるのかもわからなくて不安だった。

 なによりも、今まで大好きだった高原の三姉妹カフェにいられなくなったことが悲しかった。


 思い出すと、私も自然と涙が出てきてしまう。


「フィレーネ殿は言葉にはしなかったが、大変辛く、悲しい思いをさせられたのだぞ。そなたら二人のせいでな。そのうえで連帯責任だと? 舐めすぎだ!」

「「…………」」


 二人とも激怒に耐えきれず、その場でへたり込んだ。


「レオルドよ、少し落ち着くのだ」

「はい……。今回ばかりはフィレーネ殿のことでもあり、どうしても許せなく感情的になってしまいました。大人げなかったです……」

「まあ良い。サーラ殿にエマ殿よ、なにか反論があれば聞くが」

「「いえ……。ありません」」


「そなたらに死なれては困るのでな。王都までは馬車を出そう。しっかりと5,000,000ゴールドの罰金は生涯強制で働き、払いたまえ」

「「はい……」」


 サーラお姉様とエマお姉様は、一度家に戻った。

 荷物を急いでまとめ、二時間ほどで外へ戻ってくる。


「ひとつだけよろしいですか?」


 サーラお姉様が落ち着きを取り戻し、国王陛下に物申した。


「申してみよ」

「私たち、聖女なのです。素晴らしい力を持っているので、王都でカフェを営業してお金を稼ごうかと思います」

「わたくしたちの力ならば、王都にできたカフェチェルビーなんてライバルにもならないくらいの売り上げを出しますわ」


 国王陛下は、大きくため息をはいた。


「うむ。そなたらは全く分かっていない。聞くだけ無駄だったようだ」

「国王陛下は私たちの力を見ていないからそう言うだけです」

「確かにそなたらの力は見ていない。だが、フィレーネ殿の力は見ている。彼女の力は素晴らしい」

「だから、わたくしたちだってフィレーネに負けないはず」

「この際ハッキリ言っておこう。フィレーネ殿がカフェチェルビーのマスターだ」

「「な……」」


 落ち着きを取り戻していた二人は、ふたたび絶望したかのような表情に戻った。


「今やカフェチェルビーは、王都に欠かせない重要な店でもある。その店を侮辱した発言はさらなる罰金の上乗せに該当する。覚悟しておきたまえ」

「「そんな……」」


 近くにいた護衛によって、強制的に馬車に乗せられたお姉様たち。

 残念ながら、すでに同情する気持ちすら湧くことがなかった。

 お母さまたちが大事にしてきた高原の三姉妹カフェを使ってお客さんたちをガッカリさせてきたようだし、こればかりは許せなかったのだ。


「この店は全てフィレーネ殿のものだよ」

「ありがとうございます……。ここは大事な場所だったので……」

「礼を言われることではない。あくまで、本来の持ち主が誰なのかを証明しただけだから」


 レリック殿下には感謝しても足りないくらいだ。


「だがこうなると当然、カフェチェルビーはひとまず休業し、ここに戻るのだろう?」

「どうしましょう……。本音としてはまたここでやっていきたい気持ちはあります。でも、レリック殿下たちのおかげで王都でも店を持つこともできましたし……」


 私の身体がふたつあれば良いが、そんなことできるはずがない。

 王都と高原までは馬を使っても数時間かかるし毎日往復するには負担が大きい。


「フィレーネ殿がやりたいようにやるのが良い。むろん、たとえ高原でカフェをやっていくにしても、カフェチェルビーの権利も剥奪することはない」

「だとしたら……」


 図々しいかもしれないが、私はレリック殿下に理想を話した。

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