第3話 爆弾攻撃を受けました

 朝、麦谷紅ばくや くれないは登校すると早速田主輝奈子たぬし きなこのもとにやってきた。そして指を突き付けて言った。


「ふっ。今日こそあなたをテロの標的にし、この社会を恐怖におとしいれるわ」


 田主は首をかしげて不思議そうに言った。


「ふぁれ、そもそも何で父ではなくてわたしを狙うんですか。わたしではなく父だけを狙えばいいと思うのです」


「ふっふっふ。もちろん田主金五郎も抹殺するわ。そしてあなたも標的にする。本人だけではなく娘まで抹殺まっさつすることで、わが組織の冷酷れいこくさを世に示し社会を恐怖のどん底に突き落とすのよ!」


 田主は全然怖がってない様子で答えた。


「ふぁあ、おっかないのです。だけど、わたしの父は陣笠じんがさ議員といわれる下っ端の政治家の端くれなのです。しかも人気がないので次の選挙で落選するのは確実といわれているわけです。放っておけばやがて世の中から忘れ去られる小物なのです。だからテロの標的にする価値は皆無なのです」


「ええっそうなの!」


 麦谷は失意のあまり顔色が悪くなった。げっそりとした表情で教室のドアに手をかけながら言った。


「心理戦により戦意を喪失そうしつさせるとはさすがね。田主輝奈子、やはりあなどれないわ……」


 古川先生が声をかけた。


「麦谷さん、体調不良ですかー」


「体調不良で帰るのではありません。一撃離脱のゲリラ戦法だから、目標達成により撤収するのです」


 麦谷は悔しそうに負け惜しみを言い、教室から出て行った。


 後ろの席のメガネをかけた少女――友塚瑚小美ともつか ここみが思わず声をかけた。


「田主さん、政自党の幹事長は陣笠議員じゃなくて大物なんじゃない?」


「ふぁ、そうなんですけど、これで抹殺するだけの価値が失われたのでもうテロの標的にされることはないのです」


 田主は少し笑った。


 ――だが。


「ふっ、態勢を立て直し反転攻勢に出ることにしたわ」


 麦谷が腰に手を当てながらいつもの自信満々な態度で言った。彼女が「帰宅する」と言ってから一時間も経っていない。


「ふぁあ……。立ち直りが早すぎるのです」


 田主はあきれた。



 学校の昼休憩の時間、麦谷は自信満々な態度で田主の弁当を手に持って現れた。


「ふっふ、あなたの昼休みを絶望に変える恐ろしい飢餓きが作戦を決行するわ。敵の補給を断つのが戦略の基本だからね!」


「麦谷さん、それはわたしのお弁当じゃないですか!」


「ふっ、もう遅いわ。」


 麦谷が弁当箱のふたを開けると、ご飯の部分が空っぽになっていた。


「わたしのお昼ごはんが……」


「あなたのご飯は、このわたしがおいしく頂いたわ!」


 田主は項垂うなだれた。麦谷は一瞬勝ち誇った顔となった。しかしすぐに顔色が変わった。田主の目が三角に吊り上がっており、怒りをあらわにしていたからだ。


「食べ物のうらみは恐ろしいのです。悪いテロリストは拘束して拷問ごうもんにかけるのです!」


「えっ、拷問て何?」


 田主はすばやく麦谷の後ろに回り込み、両手でくすぐった。


「きゃははは!く、くすぐったい!もっ、もうやめてっ!」


「二度とわたしのお弁当に手を出さないと約束するのですっ!」


「わ、わかったわよ。降参するわっ!もう二度としないから、お願いだからやめてぇ~!」


 こうして田主は麦谷を降伏に追い込んだ。くすぐりを止めるやいなや、麦谷はどこかに走り去っていった。


「麦谷さんは立ち直りが早いから、どうせまたすぐにからんでくるのです……」


 田主はため息をつきながら独り言を言った。田主の予測は当たった。


「ふっ。さっきの拷問の報復よ。爆弾攻撃を受けるがいいわ!」


 麦谷は黒くて丸い物体を投げつけ去っていった。物体は田主の机の上に乗っかった。


「ふわあ!これは舞田居ぶたい高校購買の名物、爆弾おにぎりなのです。……そっかぁ、少しは悪いと思って買ってきてくれたんですよね。たぶん……」


 田主は麦谷のことを少し許すことにした。

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ボッチなたぬきとぽんこつテロ娘~暴走する美少女テロリストとちょっとずるい少女のドタバタほのぼの闘争劇 伊野部すぺく @inosupe

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