第8話 大団円
作者は、最近の小説で、最後の章を、
「大団円」
という言葉でまとめることが多い。
正直、大団円という言葉を使うことが楽だからだ。しかし、この言葉は、確かに最後の場面という意味で使われる言葉であるだけではなく、本当の忌として、
「すべてがめでたく収まる結末についていう」
というのが正解なのであるが、今まで使ってきた小説の中で、果たして本当の大団円を迎えたものがいくつあったであろうか?
特にオカルトとしてのジャンルの中で、本人としては、
「奇妙な味」
というジャンルだと思っているような内容で、そもそも、
「すべてがめでたく」
などという話は、そもそもの小説の趣旨において、辻褄はあっていないといってもいいのではないだろうか。
そういう意味では、本当の大団円ではなかったと思われるものも少なくはなかったと思うがこの小説においてはどうだろう?
正直、今この時点において、正確な着地点を見いだせておらず、漠然としたラストしか見えていない作者にとって、これが本当の大団円かどうか分からない。
だが、それは作者の思いであって、主人公にとって、そして、登場人物にとって、大団円と言えるかどうかは、終わってみないと分からない。
特に今までの作者の小説は、大団円が主人公の側にあるのか、それとも、登場人物にあるのか、そのあたりも曖昧だった。
小説によっては、最後には主人公だけの話になっていたり、主人公そっちのけで、いつのまにか、最後には誰が主人公であったのかすら分からなかった話もあるだろう。
何しろ作者が、最後まで、書きながらイメージを膨らませているのだから、それもしょうがないことであり、それだけ、
「行き当たりばったりの小説」
を書いてきた証拠なのだろう。
だが、作者としては、
「そのわりには、思っているよりもうまくまとまった。いや、いささか強引ではあるが、何とかまとめた」
と思っている作品も多いと思うので、それはきっと、小説を書けるようになった時の、
「小説を書けるか書けないかの境目は、いかに最後まで完結させられるかという意思によるものである」
という境地に至ったことが、一番の重要事項だったという意識が、頭の中にこびりついているからであろう。
まだ、最初の頃は、
「何とか、プロになって、世間に認められたい」
と思っていたが、それも、まだ若い頃で、中年から、初老と呼ばれる年齢に近づいてくると、そんな意識も薄れていき、
「とにかく、書ける間にできるだけ書き続けよう」
という、
「質より量」
を選択したからであった。
人間、年を取ると、いろいろなところが衰えてくる。今まで見えていたものが見えなくなってきたりすると、書き続けるのも結構きつかったりする。そうなると、
「いつまで書いていられるだろう?」
と考えるようになり、気が付けば、使える時間をフルに使って、書きまくっている自分がいたのだ。
「いつも似たような作品ばかりになっているのではないか?」
とも思うが、別に人の作品をまねているわけでもないわけなので、別に構わないとも思っている。
書いたらそのまま、ストックして、次に作品の取り掛かり、時期がくればアップすると言ったルーティンが、毎回のこととなっているのだ。
ただ、
「続けることに意味がある。継続は力なり」
という言葉が座右の銘だと思っているので、作者はそれを貫いているのだ。
さて、このお話の主人公である遠山は、先輩に連れていかれたソープで、気になった女の子と似た女の子と、再度ソープに行って、気になった女の子に出会う前に、大学で見かけることになるだろうと思っていた。
なぜなら、その女の子と大学で出会うのは、いつも定期的で、少なくとも一週間に二度ほどは見かけていたからだった。
ソープに再来店しようと思っているのは、二週間後で、それまでには、計算上は四回くらいは会えると思っていた。
しかし、実際に大学に通ってみると、出会うことができたのは、一度もなく、
「どうしたんだろう?」
と思っていたのだが、
「いないなら、いないでいいか?」
と思うようになった。
本当は気になっているものを、無理に気にしないようになっていたという思いと、その感情を逆にソープの女の子に向けても構わないというような、不思議な感情を抱くようになっていたからだった。
そのソープの女の子の源氏名は、ひまりと言った。えいみという女性が最初に会った時に感じた、
「大人のお姉さん」
というイメージとは違い、まるで妹のような雰囲気に、
「ロリキャラ」
をイメージしていた。
そもそも遠山はロリキャラが好きであって、前回は先輩の勧めでもあり、目的が、
「童貞卒業」
とハッキリしていたので、先輩のいう通りにしたのだ。
もちろん、それが大成功だったのは間違いなく、明らかの前回は前回で、大満足だったのだ。
しかし、次は先輩に内緒で行ってみようと思っている。次回からは、誰にも遠慮もいらずに行ってみたかった。
というのも、それまで、自分が抱いていたソープというものに対しての偏見のようなものが解けたことで、それまでの考えが偏見であったということを自覚したことで、次からは堂々と一人で行けると思うのだった。
ほとんどの男性は、ソープを好きだといっても、どこか後ろめたさのようなものを抱いていると思っていた。
ただ、その後ろめたさという感覚が実はくすぐったいものであり、それも快感の一つとして感じている人がいるというのも事実だということを、遠山は知らなかった。
だが、遠山は自分には、もう後ろめたさなどないという意識を持つことで、他の連中とは違うという感覚が、自分にとっての快感をこみあげさせる力になると思っているのであった。
だから、予約をする時も、別におどおどした様子もなく、一人で店に向かう時も堂々としていた。
昔のように、今は、客引きはほとんどいない。法律で禁止されているからだ。ただ、地域によっては、まだ行っているところもあるということであったが、遠山の向かうソープ街では、客引きはほとんどいなかったのだ。
その日は昼の真っただ中に出かけた。ほとんどの客は仕事帰りや、飲み会のついでという人が多いだろうと思ったので、平日の昼間であれば、よほどのことがないと、そんなに混んでいることもないと思った。
確かに、来店して待合室に入ると、そこでは、誰もいなかった。受付を済ませて待合室で待っている感覚は、二週間経っていたのに、まるで昨日のことのように思い出される。それに今回は、自分が会いたいと思う子を指名しての来店だった。待合室に入ると、生まれる緊張は、まるで魔法にかかったように自分を支配した。
「きっとこの感覚だけは、どんなに慣れてきても、新鮮な気持ちのままいられそうな気がするな」
と感じたのだ。
どんなに慣れても、新鮮な気持ちを忘れさせないでいてくれる場所があるというのは実に安心感を与えてくれる。そういう意味で、初めてきたあの日の感動は、きっと何年経っても忘れることなどないのではないかと感じるのだった。
待合室の雰囲気も、前に相手をしてもらって、先輩を待っている時と変わりがない。今日も、他に誰も客がいないのも、遠山を安心させることに繋がった。まるで、店を自分が貸切ったかのような大きな気分になれるのも、なかなかの快感だったのだ。
女の子は待合室まで迎えにきてくれた。一種のサプライズのようだったが、
「待合室に他のお客さんがいない時は、たまにこうやって待合室まで行くんですよ」
と彼女は言って、お部屋まで前と同じように、手を引っ張るようにして連れて行ってくれた。
確かに大学で見かける女の子と似ているが、髪を掻きあげているので、雰囲気は血経っていた。
彼女は、紹介写真では、口元にぼかしが掛かっていたので、完全に顔が分からなかったが、こうやって顔全部が見えるようになると、想像していた通りだったので、それもビックリしるばかりだった。
正直大学で見る女の子よりも、目の前にいる女の子の方が遠山には好みだった。
「この子は、ショートカットが似合っているのかも知れない」
と思ったのだ。
大学で出会う女の子は、肩よりも髪が長いので、小顔に見えるのだが、お店での女の子は、髪をかき上げているので、少々顔が大きく見える。これは、ショートカットの女の子の顔が大きく見えるということへの証明のようであり、彼女の自分を見る目がハッキリしているのを感じたのだ。
そこから先は、彼女の攻めに身を任せるというところであろうか。それは、
「攻めであり、責めではないのだ」
というのも、まともな正攻法という意味で、彼女の妖艶さがかすんで見えるというわけではない。
ひまりという女の子は、確かに最初に相手をしてくれたえいみと比べると、テクニック的には劣っているのかも知れないが、その誠実な相手の仕方は、好感が持てるものであり、これが、彼女の魅力だと、遠山は思った。
前に相手をしてくれたえいみに対しては、
「これからも続けて指名したい」
という意識はそれほどあったわけではないが、ひまりとは一緒にいる時間が長くなればなるほど、
「まだまだ一緒にいたい」
と思わせるものを持っていた。
夢のような快楽を受けることができたその日は、前の時のように待合室で待つこともなかったので、そのまま、店を出て、食事に行った。身体には、まだまだひまりの余韻が残っていて、
「この快感、いつまで続くのだろう?」
と思ったのだ。
食事を済ませても、もう少し、街でいろいろ行こうと思っているところもあったのだが、身体の快感が残っている状態で、
「このまま、寝ると気持ちいいだろうな」
と感じたことで、食事だけを済ませて、まっすぐに家に帰ってきた。
そして、すぐに横になって眠ってしまったのだが、確かにその選択は間違っていなかったような気がする。
夢の中に、ひまりが出てきたからだった。
その夢の中で、ひまりは、遠山に従っていた。まるで何を言ってもいうことを聞く、言いなりの女の子であった。遠山はすぐに、
「これは夢なんだ」
と感じた。
その感覚から、
「相手に何を言っても、どうせ夢だから」
という思いから、少々のきつめのプレイ、さらには、羞恥心を煽るようなプレイを推し進めた。
彼女のMの部分を引き出したのである。それは逆に自分のS性を引き出させることになり、
「やっぱり、俺は多重人格なのだろうか?」
という思いを改めて感じさせた。
しかも、ひまりにも同じことを感じ、同時に、大学で見かけるあの女の子も、
「多重人格で、自分とは、SMの関係を気づくことができる相手なのではないか?」
と感じた。
そう思うことで、
「もしそうなら、彼女との出会いは運命であり、SMの関係を育む相手として、彼女も俺を待っているのかも知れない」
という、傲慢とも思える妄想を抱いていたのだ。
そして、次の日のことだった。大学に行くと、今までの二週間、一度も顔を合わさなかった彼女と、顔が合った。彼女の方は遠山の顔を見ると、明らかに動揺しているようだった。それを見て、遠山は今までにない自分の何かが目覚めたのか、声をかけたのだ。
その時の感覚は決して思い切ってという雰囲気ではなく、まるで必然の行動であるかのように、
「ひまりさん」
と声をかけた。
彼女もそれを聞いて、背中に電流が走ったかのように、背筋が伸びて、怯えている様子を見せながら、目は、遠山をしっかりと見ている。
遠山がニヤリと微笑むと、彼女はニコリと笑って、
「あなたを待っていたのよ」
というではないか。
「どういうことだい?」
と聞くと、
「あなたが、私の本性をいつ見抜いてくれるのかということを待っていたのよ。それで私も覚醒できると思ったの」
という。
「覚醒とは?」
と聞くと、
「それはあなたがこれから自分で見つけていくものなのよ。私はそれに協力する。お互いに覚醒していくことが、私たちの間での宿命なんだわ」
と彼女がいうので、遠山も頷いた。
二人はそれから、お互いの覚醒をそれ以後知ることになるのだが、遠山とひまりは、お互いにSMの関係がピタリと嵌っていた。ベッドの中では、ひまりは決して遠山に逆らうことをしない。まるで奴隷のごとくだ。自分でも、
「淫乱奴隷」
などという言葉を口にしてはいるが、それはあくまでの自分を鼓舞しているかのようである。
そう、このお話のこの章は、
「大団円」
である。
「すべてがめでたく収まる結末についていう」
というのが大団円というものであり、主人公と、準主人公に当たる人は、
「めでたく」
と言ってもいいかも知れないが、丘の登場人物はどうであろうか?
ただ、その後の他の登場人物について、敢えては語らないが。それぞれにめでたく終わったといっていいだろう。
もちろん、そこには、
「遠山と別れたことによって」
という経緯があるのだが、それでも、最後には皆、
「収まるところに収まった」
という意味で、めでたくといっていだろう。
それを思うと、作者がこの章だけではなく、今までの作品も、そうであったと思うようにしようと考えている。だから、きっと、これからも、ラストは、
「大団円」
というのが、しばらくは続くものだと考えていた。
( 完 )
大団円の意味 森本 晃次 @kakku
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