第7話 石ころのような存在
恥ずかしさがこみ上げる中、えいみのサービスが続いていく。マットの上で、すでに感覚がマヒしてしまったので、ベッドに行ってからは、最後には何が起こったのか分からないくらいであったが、最後は頭の中が真っ白になりながら、腰から下が、快感で小刻みに震えているのを感じた。
「これが、セックスというものか」
と思うと、少し味気ないものを感じた。
それは、相手を風俗嬢だと思っているからかも知れないと感じた。これが好きになった相手であれば、愛情が入ってきて、もっと自分の奥にある感情が醸し出されるのではないかと思うのだった。
そう思うと、感覚がマヒしている思いが、味気なさに変わっていき、脱力感をいかに憔悴させないようにすればいいのかと考えさせられた。しかもここから罪悪感などを感じてしまうと、せっかく連れてきてくれた先輩に対して失礼だった。
ここで罪悪感を感じるということは、完全に気持ちが冷めている証拠であり、この状態で先輩に会ってしまうと、気持ちのままの態度が表に出てしまうと思ったからだ。
だからと言って、決して、えいみさんが悪いというわけではない。えいみさんは、精一杯のサービスをしてくれたのだと思った。
実際に途中までの快感は、
「また味わいたい」
と思うほどだった。
しかし、最後、我慢できずに快感を放出した時、一気に身体から湧きおこる脱力感が、どうしていいのか、最後には、余韻も確かにあった。震えも快感だったはずなのに、
「果ててしまうと、こんなものなんだ」
と、思うのだった。
果ててしまうと、脱力感が罪悪感に結びついてくるのは分かっていた。ただ、それは、虚しい行為によるものだと思っていたので、相手がいれば、違ってくると思っていたはずなのに、この感覚は残念でしかなかった。
だが、そんな自分を受け入れてくれたえいみだったが、彼女にはどこまでその時の遠山の気持ちが分かったというのだろう?
彼女もプロとして、今までに何人もの童貞を相手にしてきたことなので、分かっていることだろう。
そういえば、待合室で待っている時に。先輩が言っていた。
「自分が童貞であることを隠そうなんてしなくてもいいんだよ。隠そうとしても、相手には見抜けれていることだろうし、だけど、隠そうとしている姿を見て、かわいいと思う女の子もいるからね。でも、必要以上に隠そうとしなくてもいいんだ。どうせバレルなら、最初から童貞だといっておけば、彼女も喜んでくれるはずだよ。何しろ初めてを自分がもらえると思っただけで、何かご褒美をもらえた気がするその子は、一生懸命にいい思い出を作ってあげようとするはずだからね。それに、女の子の気持ちであったり、男性にはなかなかわかりにくいところを教えてくれたりするので、会話の中からでも、いろいろと勉強になるはずだからね」
と言っていた。
「なるほど、だから先輩は、このえいみさんをあてがってくれたんだ。確かにえいみさんは素晴らしいと思うし、先輩の心遣いが感じられる分、本当にえいみさんでよかったと思えるのだが、最後のこの憔悴感はいかんともしがたいな」
と思うのだった。
この憔悴感というのは、どうしようもなかった。だが、この憔悴感というもの、本来の意味とは少し違っている。実際の憔悴感というものは、
「気がかりなことや疲れ、病気などによって、痩せて衰弱すること」
のようである。
果ててしまって、気がかりに思うというのは、その通りなのかも知れない。気がかりというよりも、不安や寂しさのようなものがあるからではないだろうか。そういう意味では、確かに違っている。
「この場に似合う言葉ってないのだろうか?」
と思っていると、以前聞いた言葉に、それにふさわしいものがあった。
最初は、
「どんな意味なの?」
と聞いたが、どうも抽象的な意味として、曖昧なところがあり、使うタイミングにはいくつかあるようだ。
その言葉というのは、
「賢者モード」
というもので、快感が最高潮に至ったりした時、第五に訪れる憔悴感のようなもののようだ。
その時には必ず、後ろめたさや罪悪感が伴い、その裏返しというか、反動のような感情と言えるのではないだろうか。
この一見、
「賢そうな雰囲気」
に感じられるこの言葉であるが、実際には、セックスが大きな要因となっている。
そもそも、この言葉は、遠山がまだ大学生で、童貞を喪失した頃には、まだまだ浸透していなかった言葉だったのかも知れない。なぜなら、その言葉が生まれたのは、ネットが浸透してきてからのことだったからだ。
賢者モードというのは、
「セックスや、自慰行為のあと、男性が陥ってしまう、冷静になって、我に返ることで感じる脱力感のことをいう」
というものである。
この賢者モードというのは、相手の女性から見て、
「まるで悟りを開いた賢者のように見える」
という思い切り皮肉を込めた言い方なのだろう。
「どうしてこういう状況になるのか?」
というと、いろいろな説があるという。
例えば、脳内ホルモンの影響として、射精後に分泌されるホルモンが、性欲を減退させる作用があるというものであるという説。
さらには、野生動物の名残というものもあるという。そもそも、普段から危険に晒されて理宇野生動物は、性行為後が一番危ない瞬間だと言われる。つまり、そんな性行為をオスは冷静に見てしまうという名残が残っているのだ。なぜなら、敵襲を受けても、冷静に太刀打ちできるような体制を取っておかなければならないという考えだ。
さらには、子孫を残そうとする本能の働きもあると言われる。一度の射精で、いかに子孫を残すことができるかということを基本に考えると、一度射精することで、神経をすり減らすという考えから、そのあと、頭の中から、セックスを切り離すという本能が羽田らしてしまうのかも知れない。
それぞれに諸説はあるが、説得力はそれなりにあるだろう。
これが女性とはまた違うものであり、女性は一回のセックスで何度も絶頂を迎えることができる。それに比べて男性は一回で賢者モードに陥ってしまうと、そこから先は、その気まずさを、
「自分のせいではない」
と思いたいのだろう。
そう思うことが、何とか自分を正当化させようと考え、セックスという行為に嫌悪感を抱いてしまい、いくら隣に好きな人がいても、罪悪感から、脱力感を経て。下手をすれば、鬱状態に近いものとなってしまうこともえてしてあるだろう。
そうなってしまうと、本来であれば、達成感のようなものがあってしかるべきなのに、達成感を得るまでに感じる冷静さと脱力感から、
「すべてを悪いこと、罪悪感へと一足飛びに飛んでしまうことで、賢者モードというものが成立する」
と言えるのではないだろうか。
そして、風俗での賢者モードには、
「お金で女性と快楽を買った」
という思いから、罪悪感は、まるで犯罪を犯した人間のように思えてしまい、
「お金がもったいない」
という発想と、
「お金で愛情を買う」
という、安直で安易な考えしかできない自分を苛めるかのような感情にいたる自分を、嫌悪するのだろう。
「どうして、お金で幸福な時間を買っているのだ」
と思えないのか。
もし、そう感じることができれば、たとえ、賢者モードに陥ったとしても、それは本当に一瞬で済むことかも知れない。女性だって、何度も絶頂に陥るとは言っても、一瞬くらいは、賢者モードに入るものではないだろうか。少なくとも、
「呼吸を整える時間」
というものを、男性にもあるように、女性も感じているからであった。
そんな賢者モードであるが、前述のようにお金の問題から、罪悪感というものも存在しているという感覚がある。
ただ、この賢者モードというのは、ある意味、
「多重人格」
というものも、影響しているのではないかと、冷静になった遠山は感じていた。
先ほどまで、あれだけ欲望のままに身体が反応していたのに、もう身体が反応するというのは、条件反射でしかない。
まるで自分の罪悪感を打ち消そうとでもしているような敏感さが身体に残っている。
それは、脱力感とはまったく別のものであるはずなのに、この敏感な身体は何なのだろう?
「これこそ、多重人格のなせる業なのではないか?」
と考えられるほどだった。
しかも、この賢者モードには、正反対の性格と、反動が含まれていて、反動が敏感な身体にしているのか、反動が、冷静さを生んでいるのか分からないが、ここまで果てた瞬間に変わってしまうなど、ビックリであった。
確かに、一人での自慰行為は、
「本来ならセックスで味わうことを、自分だけで慰めるなんて、情けないだけだ」
と、情けなさに自分の中での罪悪感を感じるもので、
「身体が敏感なのに、気持ちは冷静になっている」
というのも、冷静にさせられたことが、反動だと思わせるに十分な状況を作り出しているのが、賢者モードなのかもしれない。
賢者モードに陥ることで、欲望への言い訳のような感情だったとしても、頭の中が真っ白になりながら、呼吸が整っていくうちに、逆に、達成感のようなものも出てきたのは、えいみという女性がしっかりとフォローできる女性だったからなのかも知れない。
自分を見失いかけている遠山に、優しく寄り添ってくる。最初は、賢者モードになりかかっている遠山を優しく見守っていたのだが、遠山自身はそれどころではなく、
「せめて、何とか、罪悪感だけは取り除きたい」
と思っていたが、そもそも、罪悪感を取り戻せないから、このような賢者モードに陥るのであって、その理屈が分かっていないから、それどころではない状態になっていたのだった。
それをよく分かっているえいみは、遠山をじっと見つめている。
そして、あるタイミングで、ぐっと身体を寄せてきて、遠山を抱きしめるのであった。
そのタイミングは、遠山にとっては、願ってもいないタイミングであり、それが、いかにも、
「えいみのえいみたるゆえんだ」
と、あとになって、遠山に感じさせるものであった。
この賢者モード、今から思えば、
「最近にも感じたことではなかったか?」
と感じると、
「そうだ、あゆとの電話えっちをした時ではないか」
あの時は目の前に相手がいなかったことで、賢者モードを知られることはなかったが、そう思っていたのは自分だけで、相手は何といっても主婦である。
男性が、賢者モードに陥ることくらいは十分に分かっていて、その対処法も知っていたことだろう。
だが、彼女としても、あのような電話は初めての経験であったろうから、彼女としても、まさか、童貞の遠山に、体よくあしらわれるなど、思ってもいなかっただろう。
そういう意味で、彼女が罪悪感を感じたとしても、それは無理もないことだったに違いない。
その時のことを思い出すと、実に恥ずかしい。お互いにどのようにしていいのか分からない状態を作り出したのは、遠山だった。
彼には、電話であれば、そんな不思議な雰囲気を作り出すことができたのか、それとも、主婦としてのあゆの中に、そのような淫靡な香りが漏れていたのか、それを遠山には感じることはできなかった。
だが、えいみとのリアルなセックスは、お金が絡んでのことだとはいえ、ネット上の二次元のような感覚ではなく、明らかに相手を感じることのできるものだからだ。
電話では聴覚でしか感じることのできないものを、リアルであれば、五感すべてで味わうことができる。
「五感って、本当に素晴らしい」
と、遠山は感じた。
えいみがそれを教えてくれたのだと思うと、すぐに賢者モードも元に戻るように思えてならなかった。
だが、さすがに二回戦を行うだけのことはなく、そもそも目的が童貞の卒業だったので、何とか卒業できたのはよかったことだ。ただ、あくまでも、
「素人童貞」
を卒業できたわけではないので、半分くらいの気持ちだった。
それでも、えいみを目の前にしていると、満足感が溢れてきて、彼女がまるで女神様のように見えてきた。そして、先輩が万能の神のゼウスのように思えてきたのは、大げさであろうか。
実際に、その日はそれくらいの気持ちであり、特に時間がいっぱいになり、名残惜しい思い出えいみと別れてからは、先輩が出てくるのを、待合室で待っていた。
最初に入った時は、本当に緊張からか、意識しているつもりで、ほとんど周りが見えていなかったような気がしたが。その待合室が思ったよりも、広いことを感じたのだった。
客は、来た時と同じで、誰もいなかった。だからと言って、
「この店が流行っていないわけではない」
と思っている。
開店間際であれば、最初の客が、
「よーいどん」
で、始まりは一緒だが、それ以降は客の選ぶ時間帯や、嬢が用意するタイミングで、時価がずれてくる。
しかも、そんな状態で客が待合室で会うということは、それだけ店側が客を待たせているということなので、それは、流行っている流行っていない以前の問題で、店側に問題があるということになるのだ。
それに、こういうところで客同士がかち合うというのは、客同士もあまり気持ちのいいものではないだろう。そこまで店側が考えているということであれば、逆に店の不手際を考えてしまったこちらが悪いということになる。
冷静に考えて、
「あの先輩が連れてきてくれる店なのだから、そんな変な店ではないだろう」
ということであった。
それを思うと、流行っていないということはないと思えるし、その証拠に、待合室に設置されている灰皿を見ると、吸い殻が結構溜まっていたのだ。
「もっと頻繁に掃除すればいいのに」
と、嫌煙家としては、そう思いたくなるほどであった。
しかし、逆にそれだけ待合室に人が満遍なくいるということなのかも知れない。それを思うと、あまり余計なことを考えてはいけないとも思った。
これは、最初に呼ばれる前から気づいていて気になっていたのだが、それが、雑誌やマンガが置かれているところに置かれていた。この店の女の子のアルバムであった。
紹介アルバムのようなのだが、きっと、ここの受付で女の子を選ぶ時に見せてもらった写真のようなものを、メンバー全員が入っているのだろう。
最初の受付で見せてもらったものは、今すぐに入れる女の子の写真だけのはずなので、店の女の子のごく一部のはずである、
待合室にも、数人の写真がパネルになって貼られているが、それは、イベントの宣伝写真として作られたものだろうから、きっと、人気のある女の子ばかりなのだろう。
ちなみに、そういう人気がある女の子を、
「ランカー」
というようだが、それも後で先輩に教えられた。
まず最初にアルバムを開くと、そこには、ランキングが出ていた。このランキングの高い順のベストスリーなどをランカーというのだと、言葉を先輩から聞いてすぐにピンとは来たのだ。
そのランキングの最初に書いてあるのが、
「本指名ランキング」
ということであった。
そういえば、待合室に書かれている料金のところに、指名料の下にさらに本指名と書かれていて、本指名料はさらに千円高かった。
「これっていったい何なんだろう?」
と思い、今度は思い切って、店員さんに聞いてみた。
すると店員さんは、気軽に教えてくれた。まるで常連さんの相手をしているかのような親しみが籠っていて、温かみを感じさせた。
「本指名というのは、一度お遊びいただいた相手を、再度、ご指名いただいた場合です」
というではないか。
その時は、それだけ聞くと、
「ありがとうございます」
と言って答えたが、先輩に後で再度聞くと、
「それはね。リピーターが多いと、それだけ女の子のランクが上だということだろう? だから、女の子が店の影響に貢献するわけだから、女の子の歩合給になるわけなんだよ。そうしておけば、女の子だって頑張ってリピートしてもらおうと、一生懸命に頑張るし、店にとってもありがたいことだからんえ」
というのだった。
さらに先輩は続けた。
「店側とすれば、フリーの女の子、指名料をもらわずに、相手を選ばずにランダムでしか選ばれない子にだって、チャンスを与えなければいけない。だから、フリー限定などという割引サービスだってあるんだ。そうしないと、女の子がどんどん辞めちゃうことになりかねないからね」
というのだった。
実際に、こういう業界の女の子の入れ替わりは激しいらしい。同業の店で気が付けば働いているなどということは、日常茶飯事だという。
そんなソープランドの豆知識も教えてもらっていると、実に楽しくもなるのだが、その時の待合室で見た写真というものが、印象としては、ハッキリと残っていたのである。
その中に、若干、気になった女の子もいた。気になった女の子の中には、
「大学キャンパスで、たまにすれ違う気になる女の子」
に似た子の写真を見つけたのは、少し感動ものであった。
もちろん、他人の空似なんだろうと思ったが、どうしても気になって仕方がなかった。
それを見た時、ひそかに、
「今度はこの子にしてみよう」
とすでに、次回のことを決めていた。
その子の印象は、そんなに目立つ女の子ではないということだった。
大学ですれ違っても、挨拶すらしてくれない子で、知り合いの中にいたとしても、一度無視されてしまうと、怒りを覚えるよりも前に、
「知り合いの中に、あんな子いたのか?」
ということすら、意識しないくらいの子であった。
ということは、まわりが見て印象が薄いというだけではなく、彼女自身が、自ら気配を消しているのではないかと思えるほどだったのだ。
実際にそんな気配を消していると、却って意識される子だっているだろう。特に大学生の男女が大学キャンパスですれ違うのである。お互いに、どこか少しでも印象に残れば、相手が気配を消そうとしても、その感覚を意識しないわけにもいかない。
つまりは、遠山の発想として、
「自ら、光を発しない星」
というイメージを頭の中に持ったのだ。
以前、高校の科学の授業で、先生が脱線する中で、
「宇宙には、想像もできないようなことがあるんだけどね」
という前置きの中で。
「星というものは、太陽のように自ら光っている恒星と呼ばれる星以外に、その恒星の光を受けて、光っている、地球のような惑星や、月のような衛星がいるんだけど、実際には、反射しているから見えるわけだよね? でも、広い宇宙では、光を吸収してしまうと言われる星もあると考えられているんだ。つまりは、まったく光を利用しない星、もっといえば、そばにあるのに、その存在がまったく分からない星があるというんだ。人間だったら、気配というものがあるから、見えなくても何となく存在感のようなもので感じることはできるかも知れないが、その星はまったく気配すらない。そんな星が地球とぶつかるのではないかという学説を唱えた人がいたんだけど、もし、本当にそういう星が宇宙にあれば、実際に怖いよな」
ということであった。
あくまでも、その話はフィクションだということであったが、星の存在を否定できないだけに、センセーショナルな話として、今でも、遠山の頭の中に残っていた。
そして、遠山はその時、同時に、
「人間にもそんな人がいれば怖い」
ということだった。
「気配をまったく出さない人、見せていても、まったく意識しない人。それはまるで、道端に落ちている石ころのような存在で、見えているのに、誰も気にすることのない存在の人間。そんな人がいて、自分たちを殺そうとしているとすれば、透明人間よりも怖いかも知れない」
と思ったりしたのだった。
そんな、
「気配のない星や物体」
という存在が、人間にいたとしても、それは不思議ではないことだ。
昔から、
「誰もいないはずのところに人がいた」
であったり、
「まったく気配もないのに、扉を開けたら人がいて、次の瞬間に見ると、そこから姿が消えていた」
などという話をよく聞いたものだった。
ホラーと言ってもいい話だが、これが、ホラーではなく、
「気配を打ち消すことができる人間」
という存在を認めることの方が、よほど、ホラーのような伝説を考えるよりも、まともに思えるのではないかと思うと、気配を消している人の存在を、いつの間にか認めている自分に気づくのだった。
待合室で、そんなことを考えていると、
「まさかとは思っているけど、あの子がここで働いているとしても、別に不思議はない気がする」
と思った。
自分が気配を消すことができるという素質のようなものを持っていることに気づいているのであれば、
「普段は大学生だけど、裏の顔はソープ嬢」
という女の子がいたとしても、不思議でもないだろう。
幽霊騒ぎを信じるよりも、よほどあり得ることのように思えたからだ。
むしろ、幽霊騒ぎだって、このような能力を持っている人が、幽霊騒ぎの中にいたとしてもおかしくはないと思えるからだった。
遠山はその写真を見ていると、自分の中で、その子の存在が大きくなってきていることに気づいていた。
「できるだけ早いうちに。この子を指名しよう」
と思ったのだ。
もちろん、他にも可愛い子がたくさんいる。そして、気になる女の子も、いないわけではないので、先輩が出てくるまでの間、少しでもたくさんチャックしようと思うのだった。
先輩はなかなか出てこない。ただ、実際には時間がそんなに遅く進んでいるわけではなかった。
「本来なら、もっと時間が遅くなってほしいと思っているような状況なのに、そうではないということは、どうも、自分の意識がマヒしているからではないのか?」
と感じた。
待合室という雰囲気が異様なのか、それとも、大学で意識したことのある女の子を思い出すことで、頭から離れない女の子の存在を感じたからなのか、どっちにしても、次に考えることは、また変わっていた。
「今度、この店でこの子と対面するまでに、大学で、彼女と出会うことがあるのだろうか?」
と考えたことであった。
なぜ、そんなことを感じるのかは分かる気はしたが、大学でその子と会ったとしても、その時に何かを感じるのだろうか?
もし、何かを感じるとすれば、この店の女の子としての、写真に写っている子との対面の時に何かを感じることになるだろう。
大学での女の子は、あくまでも気配を消そうとしているので、こちらが意識したとしても、彼女はその、
「意識という光」
を吸収してしまって、自分から相手に何か反応することはないだろう。
「声をかけたとしても、相手に伝わるかどうか分からない」
という感覚さえ芽生えるほどで、まさかとは思うが、声をかけた瞬間に、消えてしまったりなどしないだろうか?
そんな発想は、却って、ホラーからせっかく離れた自分を、またホラーの世界に引き戻させるように思えた。
「少なくとも、この店の女の子に会うまでは、そんなホラーな感覚になってしまってはいけないんだ」
と思うのだった。
そう思ってしまうと、二人とも消えてしまうような気がするのだが、それは、またしても、ホラーに結びつくことであって、どっちにしても、ホラーになってしまうことに、違和感を覚えてしまうのだった。
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