第6話 癒しというもの
先輩に連れていってもらったソープランド、そこは、この地方では、一番の歓楽街であり、しかも、日本でも有数の歓楽街と言われるところであった。風営法で守られているが、法律というのは、それほど甘いものではないようで、先輩がいうには、
「この地方でソープランドを作っていいのは、この街の、一丁目と二丁目に限られているんだぜ。しかも、新しく営業してはいけない。一つのチェーン店が、支店を出すというのであれば、問題はないということだけどな」
ということを言われた。
「じゃあ、新規参入というのはできないということですか?」
と聞くと、
「ああ、そういうことになるね。しかも、いろいろとこの界隈には特殊な法律なんかもあったりするんだ。きっとそれは県の条例なんだと思うんだけど、タクシーは夜の決まった時間、歓楽街の一帯では、客を乗せてはいけないらしいんだ。もし乗せようとすると、そこで待機しているパトカーがやってきて、すぐに処罰されることになるんだ」
というではないか。
「じゃあ、警察が覆面でそのあたりに潜んでいるということですか?」
「ああ、そういうことになるな。元々は、ここの大通りに客待ちでタクシーが乱立することで、道が混むのを防ぐためなんだけど、客からすれば、実に迷惑な話に感じられるけど、立場が変われば、また違うんだろうな」
と先輩は言うのだった。
確かに、自分が仕事などで、この道を利用していたら、タクシー待ちなどという理由で混雑したら、腹が立つのも当たり前というものだ。
しかも、前述の救急車の話ではないが、この混雑のおかげで助かる命が助からない。
などという話も、当然のごとく、あり得ることだからである。
今の年齢になって思うことであるが、最近の訳の分からない伝染病による、問題によって、
「助かる命が助からない」
というのが、実に身近に感じられるようになったのだ。
特に、令和三年という今年の出来事として、
「医療崩壊」
が各地で起こっていた。
伝染病に罹っているということが分かっていても、医療施設には入院できず、軽症者が入る宿泊施設もいっぱいで、下手をすれば、重症に近い人でも、自宅療養を余儀なくされたりした。
そんな時、症状が急変し、救急車を呼んでも、まさかの、
「お迎えにいける救急車がありません」
などという事態になったりする。
もし、救急車が空いていて迎えにいくことができても、
「受け入れ病院がありません」
ということで、たらい回しにされるということになってしまうのだ。
何が悪いといって、一番悪いのは医師会ではないだろうか?
医師会が、伝染病の患者を受け入れると、経営に支障をきたすということで、受け入れを拒否する。病院も、
「伝染病に罹った人がいるところに患者は来ない」
ということで、病院経営に支障をきたすのが怖いからだというのは分からなくもないが、そのせいで、一部の病院が完全に野戦病院のようになってしまい、何よりも患者の助かる命が目の前で皆、バタバタと死んでいくというような状態になってしまうのだから、救いようがないという状態になってしまうのだった。
「他の国ではそんなことはないのに」
と思うのも無理はないことだ。
他の国から見れば、
「日本のように、諸外国に比べて、圧倒的に患者の割合が少ないのに、どうして、医療がひっ迫し、崩壊するのか、理解できない」
と思われているようだ。
確かにそうだろう。それだけ、利益のために、病院も、国家も国民を見殺しにすることを何とも思っていないという証拠だろう。口では、
「国民の命が一番」
と、ほざいておきながら、これこそ、
「偽善というものではないか」
と言えるのではないだろうか。
先輩に連れていってもらったそのお店は、大衆店と言ってもいいところで、一応、六十分という平均的な時間設定をしてくれ、
「それで話をするな」
と言ってもらった。
もちろん、初めていくので、どのようなサービスがあるかも分からないので、六十分という時間が長いのか短いのか、分かるはずもない。
お店に入ると、女の子を選ばせてくれた。今ではパネルなのだろうが、当時は写真を数枚持ってきてくれて、どの子がいいのかを選べるシステムだった。
先輩に相談すると、
「この子がいい」
ということで、教えられた。
そのさりげなさに、
「相談することが分かっていたかのようだ。さすが先輩、よく分かっている。やはり持つべきものは、優しい先輩だな」
と感じたほどだった。
女の子を決めて、待合室に入ると、そこでは、テレビが映し出されていて、壁には、このお店の女の子のパネルが貼られていた。
自分が指名した女の子を探すと、すぐに見つかったが、他の客は、その写真を見ながら、
「次はこの子にしよう」
とばかりに、考えるのかも知れない。
それとも、これから相手をしてもらう女の子への気持ちを高めるという意味でも、他の女の子の写真が貼ってあるというのは、刺激になっていいのかも知れない。
ただ、遠山にはそんな余裕はなかった。
先輩の方は気持ちが大きなもので、座り方もふんぞり返っていた。
ちょうど他の客もいなかったので、二人だけだというのは、ある意味気は楽だったが、さすがに先輩ほどの読経などあるわけもなく、気が付けば、貧乏ゆすりをしていた。
先輩のそのことには気づいていたようだが、それを指摘するような野暮なことはしない。
全廃は、写真を見渡しながら、頷いていた。
「いつも見ているにも関わらず、また見て頷くというのは、待合室という雰囲気は、何度来ても、新鮮なものなのかも知れないな」
と、緊張しているくせに、冷静にそんなことを感じることができるのだった。
その部屋は今のように、室内完全禁煙というわけではないので、灰皿も置いてあり、先輩は喫煙者なので、タバコをふかしていた。それでも、いつもに比べて吸うスピードが結構早いのが感じられたので、先輩も何だかんだいって、緊張しているのか、それとも、これが先輩のペースなのか分からなかったが、
「自分も何度か通えば、同じようになるのだろうか?」
などと考えるのだった。
このお店は、客を名前で呼ばずに、番号札の番号で呼ぶ。この頃くらいから、個人情報というのも騒がれ出したので、それも当然のことであろう。
「番号札十二番のお客様」
と呼ばれ、それが自分であると分かると、遠山の緊張は一気に高まった。
思わず先輩を見ると、ニコニコ微笑みながら、
「頑張ってこい」
と言われた。
「何を頑張ればいいんだ?」
と思わず笑ってしまうと、先輩は緊張がほぐれたと思ったのか、安心したような顔になった。
「俺くらいでも、この瞬間って、結構緊張するんだぞ。だけどな、この緊張が快感だったりするんだ」
と先輩に言われたが、その時は、まだピンとこなかった。
何しろその時は、緊張感で気持ちがはちきれそうになっているからだった。
恥ずかしいという気持ちと、先輩がいうように、頑張ろうという気持ち、そして最後になって襲ってくるかも知れない罪悪感や憔悴感を思うと、それぞれの感情が入り混じってしまって、
「負のスパイラルを形成するのではないか?」
と思うと、今の心境のどの気持ちが一番強いのかが分からない分、何に対して緊張しているのかを思うと、
「最初に感じた恥ずかしさではないか?」
と感じるのだった。
注意事項を説明されて、スタッフの男性から、
「そのカーテンの向こうに、嬢はおられますので、ご一緒にお部屋までどうぞ」
と言われ、カーテンを開けると、そこには、セクシーな衣装を身に着けた一人の女の子が立ってった。
「こんにちは、初めまして」
と言って、軽く首を横に傾げるように挨拶をしてくれた。
あどけない表情がどこか小悪魔的なのだが、そもそも小悪魔というのがどういうものなのか分かっていなかったが、
「初対面の女の子が、首を横に傾げるようにして笑うと、思わずこっちも同じようにしたくなるような魔力を感じると思うけど、そういう雰囲気を小悪魔っていうと覚えておけばいい」
と。以前先輩から教えられた。
彼女の素振りは、よく見ていくと、先輩が以前から話をしてくれている女の子の雰囲気によく似ている。毎回同じタイミングでの話ではないので、それを積み重ねて考えることがなかったので、話の中で一人の女の子を創造することはできなかった。
そのわりに、よく、先輩が話していたことだと気が付いたものだと感じたが、それだけ、自分でも、
「この子のことをもっと知りたい」
と感じたのかも知れない。
確かに、お金を払って相手をしてもらう女の子なのだから、恋愛対象とは違うのだろうが、これも先輩からの話だが、
「お金を払って相手をしてもらっているわけなので、自分のものだとは決して思ってはいけないけど、せっかく二人きりになれる時間を得たんだから、いくら疑似恋愛とはいえ、恋人気分になって一緒にいるというのは、別に悪いことではない。逆に、その時間を楽しもうと思うくらいじゃないと、お金を払う以上、もったいないぞ」
と言われたものだ。
それを思い出していると、スタッフが、
「お楽しみください」
と言った言葉の意味が何となくではあるが分かった気がした。
「そうか、ここでは楽しめばいいんだ」
ということに気づくと、相手が笑顔で接してくれるのを、ありがたく受け入れればいいのだ。何も変に緊張してしまう必要はない。身体を固くして、せっかく気持ちがいいものを半減させてはもったいないではないか。
そう感じたのだが、だからと言って、急に言われても、何をどう楽しめばいいのか分からない。
彼女は自分の名前を、「えいみ」と言った。
そういえば、受付で女の子を選ぶ時、名前を見たつもりだったのに、それすら忘れてしまっていたのだ、
「そんなにまで緊張していたのか?」
と思ったが、何しろ、生身の女性の身体は初めてだから、それもしょうがないことだった。
以前、先輩のところで見たAVがあったのだが、それがちょうど、童貞の筆おろしだった。
それも、ソープでの筆おろしの場面であり、あたかも、
「お前の童貞卒業はこういう感じになるんだぞ」
と言わんばかりの様子だった。
それを嬢と二人でお部屋までの通路を歩いている時に思い出したのだ。
手を握りながら、彼女は、指を、こちらの指の間に挟んでくるようだ。隙間がないほどに駆らませてくる状態に、休みはなく、汗を掻くはずのない掌が汗を掻いているような気がしてくるから不思議だった。
「どんなに緊張して汗が出てきたりしても、掌から汗を掻くことはないんだ。汗を掻いたとすれば、それは快感からなんじゃないかな?」
と先輩がいうので、
「本当ですか?」
と聞くと、
「俺の勝手な感覚だけどな」
と言って笑っていた。
ただ、確かに掌に汗を掻くというのは珍しいようで、実際に今掌に汗を掻いているのを見ると、先輩のいうことが、これほど信憑性のあることだとは、思ってもみなかった。
先輩のように、学校の成績だけではなく、雑学的なことをよく知っている人は、尊敬に値する。遠山が、歴史を好きになったのは、実はこの先輩のおかげだった。大学に入ってから少しして、先輩と、自分の同級生と三人で話をしたことがあった。同級生の友達は、歴史が好きで、あまり歴史に対して詳しくない自分は、なるべく歴史の話を避けていたのだった。
しかし、先輩がちょっとしたことで、歴史の話をし始めた時、まるで水を得た魚のように、友達は堰を切って話始めた。
ほとんど、激論に近いもので、正直、遠山には二人が何の話をしているのかすらまったく分からなかった。完全に蚊帳の外だったのだが、先輩はそれを意識していたという。友達は、普段から歴史の話ができないことに対して、かなり鬱積したものがあったのだろう。隣に遠山がいることなどまったく気にすることなく、歴史の話に没頭していた。
それを見て、
「申し訳ないことをしたな」
と、遠山は思ったが、こればっかりはどうしようもないと思うのだった。
そんな様子を先輩は話をしながら気にしていたのだろう。その日、友達と別れて先輩と一緒になった時、言われたのだ。
「相変わらず、歴史が嫌いなようだな」
と言われて、苦笑いをしながら、
「ええ、勉強全体があまり好きではないんですが、特に歴史となると、まったくダメなんですよ。暗記しないといけないと思うと、どうもダメで、歴史が好きな人の気が知れないというか……」
と、言葉を選びながらではあったが、完全に歴史というものをディスっている状態だったのだ。
それを見た先輩はため息をつきながら、
「あのな、歴史って、別に暗記の学問じゃないのさ。それに、学問と言えば学問なんだけど、クイズのようなものだと思えば、楽しいと思えるんだけどな。だって、知っているだけで、まわりから尊敬のまなざしが得られるんだぞ。もっとも、本当に歴史が嫌いだという人にはその尊敬が分からないかも知れないが、少しでも歴史に興味のある人は。博学な人を見て、自分もあんな風になりたいって。思うんだよ」
というのだった。
「そんなものかな?」
と、少し投げやり風にいうと、
「そんなもんだって、人から知っているだけで尊敬のまなざしを受けるんだぞ。こんなに楽しいことってないだろう?」
という先輩の話を聞いて、なるほどとは思ったが、その時はまだ、実感が湧かなかった。
だが、あれは、キャンバスの中で、その歴史の好きな友達と一緒にいた時、あれは、私学食内だったと思うが、数人の団体がいて、一人が歴史の話をしていた。
明らかに知ったかぶりな様子で話をしているのだが、まわりの人は、
@うんうん」
と言って、その話を聞いている。
遠山は、それを違和感なく見つめていたが、友達は、次第に身体が小刻みに震えているのを感じた。
「どうしたんだろう?」
と思っていると、どうやら、笑いをこらえているようだった。
「何をそんなに堪えているんだい?」
と聞くと、彼は小声で、
「だってさ、あの男の言っていること、実はでたらめなのさ。いかにももっともらしいことを言っているけど、どうも、少し話がずれているんだよ。知らない人がきけば、辻褄があっているように聞こえるけど、実はでたらめなのさ」
というではないか。
「どうしてそういうことになるんだい?」
と聞くと、
「歴史というのは、絶えず研究され続ける学問なんだよ。発掘や考古学の研究もおこなわれたり、歴史の研究はどこの大学でもやっている。そのため、最近では、いろいろな発見が行われていて、今までの定説が、実は違っていたなんてこと、今ではざらなんだよ。例えば、聖徳太子は名前が違っていたとか、他の人でも残っている肖像画は時代背景から、その人ではありえないとか。有名なところでは、鎌倉幕府の成立年が、今は、いいくにつくろうではないんだ。面白いだろう?」
というのだ。
「なるほど、歴史はどんどん上書きされていくので、それについてこれなくて、自慢げに話しているのは、実に滑稽な光景に見えるということだね?」
と聞くと、
「ああ、そういうことになるね」
と、友達はいうのだった。
「なるほど、そうやって考えると、歴史って面白いね」
というと、
「歴史の面白さはそれだけじゃないんだ。特に最近はテレビや本でも、歴史に対してのいろいろな切り口から製作されたり、著作されたりしているものがあるからね」
と言われ、
「それってどういうものなんだい?」
「例えば、一つの瞬間を逆にたどって、どうしてそうなったのか? という視点から逆に見るやり方。さらに、敗者という側面から、戦争や歴史を見るというやり方。そういうものが結構あったりするんだよ」
「なるほど、逆説という意味でたどってみるというのも楽しいかも知れないね」
「君の場合は、科学的なことに興味はあるようなので、タイムパラドックスなんかに興味あったりするだろう? それだって一種に歴史のようなものなんじゃないか?」
と聞かれたので、ここは、遠山の持論を口にした。
「俺の場合は少し違うんだ。あくまでもタイムパラドックスというのは、自然現象のようなもので、歴史とは違う気がするんだよね。歴史って、人が作るものじゃないか、作為的なものがあるというか、科学で解明できるものではない。俺は、タイムパラドックスは自然現象なので、科学で解明できると思っているんだよ。だから、人間が作り上げてきた歴史というものに、抵抗があるのかも知れないね」
と言った。
これは今まで実際に思っていたことではなく、友達と話をしている時に思いついたものだった。それだけに。余計に興奮が激しく、激論になっていたのかも知れない。
それを聞いた友達も、
「そうかそうか、そこまでは考えたことはなかったな。今の話には、僕もちょっと感銘を受けた気がするよ」
と、言って、彼も興奮しているようだった。
「だから、歴史にあまり興味を持っていないというのが、本音なのかも知れないな」
と、今思いついたことなのに、いかにも歴史に興味がない理由にしてしまったところは、少し悪賢かったと、感じた遠山だった。
「でもね、歴史って、人間が作ったものなのだろうけど、すべて人間の意志でできあがったものではないだろう? 偶然の積み重ねが今の時代を作っているのであって、君だって、今までに偶然のなせる業だと思ったことがたくさんあったと思うんだ。それを自然現象ではないと言い切れるかい?」
と言われて、
「確かにそうかも知れないな。世の中に起こることは、必然もあれば、偶然もある。どちらも歴史であって、それを人間一人一人に当て嵌めると、それが人生だということになるんだろうな」
と、遠山がいうと、
「そうだよ。その通り、騙されたと思って歴史を勉強してみるといい」
と言われ、どんな本を読んだりすればいいのかを教えてもらって、読んでみると、結構興味深いことがたくさん書かれていて、いつの間にか、歴史に嵌っていた。
教養を自分で身に着けるというのは、快感となるものだ。しかも、教養は身に着ければ身に着けるほど、どんどん増えていく。それだけやりがいもあるし、教養が増えていけば、考え方も多種多様になり、人生の見え方が新しいものになってきたような気がするのだった。
「歴史の勉強って面白いだろう?」
と言われ、
「ああ、騙されてみてよかったよ」
と言って、笑って話せるようになるまでに、数か月くらいのものだった。
それだけ、本を読む時間を毎日のように決めて読んでいると、次第に、その時間が一日に占める割合がどんどん深くなっていく。
最初は一日意時間くらいだったものが、今では四時間になった。しかも、集中しているので、四時間と言っても、二時間くらいの感覚だ。その分、一日があっという間に過ぎるのであるが、不思議なことに、一週間であったり、一か月という長い期間になると、想像よりも長く感じられるのだった。
それだけ今までの感覚から正反対になってきたということであろう。
先輩のことを思い出していると、自分が歴史を好きになった時のことが思い出された。
「人間というのは、緊張している時ほど、自分を客観的に見ようとして、普段考えていることを、その時はまったく違う背景なのに、考えてしまうということが往々にしてあるのかも知れないな」
と先輩も言っていたが、今まさに、通路を女の子に手を引かれながら歩いていると、そのような感覚を覚えたのだった。
「くらいですから、気を付けてくださいね」
と言われたが、確かに暗いとは思ったが、彼女の服が光っているように見えて、それほど暗いとは思わなかったのだ。
「こちらです。どうぞ」
と言われて中に入ると、なるほど、彼女が暗いですからと言った理由が分かった気がした。
明らかに中は明るかったのだが、目が慣れてくると、そんなに明るいという感じがしなかったのだ。
「お客さんは、初めてなんですね?」
と言われたので、ちょっとびっくりして、
「あ、ええ、そうなんです。でもよく分かりましたね?」
というと、
「ええ、実はね。お客様の先輩さんから頼まれたんですよ」
「えっ、どういうことなんですか?」
「自分の後輩に童貞君がいるから、筆おろしをしてやってくれってね」
「それをあなたに?」
「ええ、そうなの。だから、女の子を選ぶ時、先輩は私を選ぶように、リードしていなかった?」
と聞かれて、
「まさしく、その通りだ」
と、思うと、何やらやられt感があったが、決して悔しいという思いや、してやられたという思いもなかった。
しいていえば、
「もう、しょうがないな」
と言って、苦笑いをする感じであろうか。
これも一種のサプライズだと思えば。腹も立たないのであった。
「私もね、先輩の気持ちもあなたの気持ちも分かる気がするの。分かりたいって思っているからなんだろうって思うんだけど、ソープランドって聞くと、皆さん、いかがわしいお店というイメージがあると思うんだけど、別にやっていることは、誰だってしていることじゃないですか。ただ、そこにお金が絡んだりするので、恋愛という純粋な感情を正義のように感じている人には分からないでしょうけど、私たちだって、お客様と、一定の時間、恋愛をしていると思って、その思いを感じて帰ってもらいたいと常々思っているんですよ」
とえいみは言った。
その言葉を聞きながら、次第にえいみの身体が密着していって。服が脱がされていく。
まるで夢のような時間がここから繰り広げられるのだが、もちろん、そのすべてが初体験だった。
誘導されながら感じる快感は、想像以上のもので、
「どうして、今まで来ようと思わなかったのだろう?」
と感じたくらいだ。
確かに彼女の言うとおり、彼女が寄り添ってくれる快感は、何と表現していいのかと考えてしまった。
「そうだ。癒しだ」
と感じた。
今まで癒しという言葉はよく聞いていたが、その癒しとはどういうものなのかを想像だけはしたことがあった。だが、その癒しを誰が与えてくれるのかということになると、まったく分からなかった。
「恋人ができれば、彼女が与えてくれるのだろうか?」
と思ったが、そんな話を誰からも聞くことはなかった。
最初は、
「皆恥ずかしがって言わないだけではないか?」
と思ったが、別に悪いことではないのに、それを言わないという方が違和感があるというものだ。
それを思うと、恥ずかしさというものが、何なのか、考えさせられるのだった。
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