【短編】オタクじゃないカノジョがホラゲーしてるのを眺めるラブコメ
夏目くちびる
第1話
「私さぁ、実はゲーム得意なんだよねぇ」
「ほう」
「子供の頃ねぇ、お兄ちゃんのマリオサンシャインで120個集めたし」
「マジでか、スゲェじゃん」
「でしょう? しかも、怖いものとかも全然大丈夫なんだよー!」
「そっか」
「だから、カレ君のやってるゲームも出来ちゃうもんね〜」
ということで、カノジョが俺の好きなバイオハザードのリマスターをプレイする事となった。
言わずもがな、有名なホラーサバイブアクションの第一作目のリメイク。個人的に、バイオシリーズの中で最も面白く怖い作品だと思っている。
新しいプラットフォームへ移植されるたびに購入してクリアするくらい、俺の思い入れがあるゲームの一本だ。
「私、女子だからジルでやろ。私、女子だから」
「そうだね」
因みに、我々はアラサーです。女子でも男子でもありません。
「登山? それは険しくて困難な道でしょ〜」
どうやら、そういうことらしい。因みに、スタート時の質問はゲー厶の難易度を決める選択肢だ。
「おぉ〜、へぇ〜。なんか、音楽が怖いんですけど」
「そうだな」
「うわ、人食べてるよ〜。怖いよ、これ〜。なんで人なんて食べるの〜? うぇ〜」
「そうだな」
しばらく進んで、マークが刻まれた重要なキーアイテムを入手した。
「この鍵、どこて使うの?」
「同じマークが刻まれてる扉が開くんだよ」
「剣のマークでしょ? これは兜、これは鎧。え〜、ないよ〜」
「探してごらん」
「ちょっと待って! インクリボンない! 嘘でしょ!? セーブできない! カレ君! これ壊れてる!」
「www」
思わず笑ってしまった。やるかな〜と思っていたが、まさかこんなに早くやらかすとは。
「なんで笑うの!?」
「ごめんごめん、階段下の現像室に置いてあるから行ってみ」
「現像!? ちょっと待って! うはは! 地図わかんなくなっちゃった! あぁ! やめてよ! やだぁ!」
そして、カノジョはゲームオーバーとなった。理不尽っぷりに恐れをなしてやめると思ったのだが、続けてみるらしい。
「もっかい!」
「www」
ということで、出来るだけインクリボンをの使用を抑えてここまできた。セーブファイルは分けたほうがいいというアドバイスが、何気に功を奏したようだ。
「あれ、この扉壊れそうなんだって〜」
「おん」
「なんでお金持ちなのにドアも直さないんだよ〜。これ通らないほうがいいのかなぁ……」
「さぁ?」
「大体、なんでこんな意味の分からないアトラクションを家に作るんだよ〜。この家の持ち主、絶対にトイレ行けなくて困るよ〜」
往年の謎にもキッチリと突っ込んでくれるカノジョが、俺は大好きで仕方なかった。
「あ! 見てよカレ君! ショットガン! ショットガンありますけど!?」
「おお」
「取っちゃうよ? いいよね? でも絶対来るよ? 知ってる? これ取ると来るから」
「www」
「あれ、来ない……。ああぁぁ!! 待って! 天井! 天井がヤバいです! ちょっと、これ絶対におかしいから! 私悪いことしてないもん! なんでそんな酷いことするの!?」
かわいい。
「あぁ、またゲームオーバーだよ〜。前にセーブしたのどこだっけ……」
「壊れてる扉開ける前にしてたよ」
「あ、ホントだ。よかった〜」
「ショットガン取って、出口の扉開ける前に戻ろうとすると助かるよ」
「ほんとぉ? 嘘だったら怒るよ?」
「www」
信用ねぇなぁ、俺。
「やだ! やっぱ嘘じゃん! あ! バリー! バリーって誰!? うはは!」
「www」
「なんかダーティハリーみたいだぁ。カレ君が見てた変な映画の人……」
こういうのを何気なく覚えてくれてるからマジで大好き。
「犬笛? 犬笛ってなに?」
「人には聞こえない波長の音を出す笛」
「それは分かってる! 何に使うのってこと!」
「わかんない」
「うそつきぃ! あぁ! そんなぁ……」
しれっと殺されながら、カノジョは笑顔なのか怒りなのかよくわからん顔でションボリしていた。
「ハーブ生えてた庭あるじゃん?」
「うん」
「そこで使うんだよ、本当はヒントをくれるファイルがあるんだけどね」
「もしかして、私ってショートカットしてきた?」
「そんな感じ」
「んふ、やっぱ才能あるんだよなぁ。意識せずにそういうことやっちゃう女なんですわぁ……」
どちらかといえば、俺は一周目は死ぬほど探索してメチャクチャ時間をかけながらクリアするタイプだから、カノジョのドヤポイントがよく分からなかった。
「あ! これは!?」
「気が付きましたか」
「さっきのドリルついてる部屋のやつかぁ!? もしかして!?」
「www」
「だ、だめ、ダメですよぉ……。うん……。こういうの、私、私って分かっちゃいますからぁ……。ゲーム得意なタイプの女ですからぁ……。うわ!? なんだぁ!?」
「www」
「暗闇! 暗いですここ!」
「www」
そんなわけで、クリムゾンヘッドまで踏破してエンブレムを集め、カノジョが操作するジルはゲーム中盤の別館まで辿り着いた。
「犬さぁ、なんであんなに強いのぉ?」
「さぁ?」
「人より強いじゃん。私、ドーベルマン嫌いになったわぁ……」
「かわいいよ」
「なにこれ、虫の音するじゃん。キモーイ……」
どうやら、何度も殺されてかなり体力を削られたらしい。意気消沈といった様子で、力なくパッドを操作している。
「蜂だぁ」
「うん」
「うわ! 刺された! 蜂は刺しますかぁ!?」
「www」
「ハチさんさぁ、そういうのやめようよ。こんなおっきいハチ、直に会ったら絶対に泣いちゃうよぉ」
「これは怖いよな」
「あ、地下に行ける。地下ですよ、地下。行きたくねー。うわ、行きたくねーんだけどぉ……。なんで地下に行くんだよぉ……。壁ぶっ壊して逃げようよぉ……」
流石に、最初のロビーの犬に襲われるイベントを回収出来るほど隅々まで探索していないのである。
「サメ!?」
「www」
「あぁん! あぁ! やだ! 海洋恐怖症です! わかって! 私は海洋恐怖症ですからぁ!? 海洋恐怖症ですからぁ!?」
「www」
「ひえぇ。進みたくねぇ……。カレ君、ヒントちょうだいよぉ……」
「倒さなくても結構楽にスルー出来るよ」
「あ、本当だ! はっ! 雑魚がよぉ。海洋恐怖症とか嘘に決まってんだろうがよぉ……。新しい水着買ってんだよ、こっちはよぉ……」
早く見たいと思った。
「これで、なに? 進めるようになったの?」
「その外枠を使ってロビーの奥の鉄扉に進めるよ」
「あぁ、そういう……。いや、あんな扉くらい絶対に壊せるもん。グレネードあるのに……」
「www」
「グレネードあるもん。あと、この青い宝石は何に使うのかわからないし……」
ついでにいうと、血清イベントは普通に失敗している。横道のイベントは、流石に気付きにくいだろうか。
「あぁ、女の子がここで閉じ込められてたんだ。マジで可哀想。ふぅん、へぇ、顔の皮……。やだぁ、ジルのかわいいお顔が……」
「www」
「あぁ!? これなに! これがリサ!? 殺される! 男の人ぉ!!」
「www」
「笑ってないで助けろ!」
流石に怖すぎてプレイできなくなったのか俺に手渡してきたから、小屋と小道のつなぎ目のところでウロウロしながらリサ・トレヴァーをハメていると、操作感の違いにムカついたのかカノジョが俺からパットを引ったくって膝の上にドカッと座った。
「勝ったつもり?」
「まぁ、有り体に言えば」
「私もできますけどね、それくらい」
「まだセーブしてないよ?」
「……今回はこれくらいで勘弁したるわ」
ハンターを超えて、やっぱりクレストを回収せずにロビーへ。扉の鍵がないことに気が付いてブチギレてから、カノジョは再びハンターのいる部屋へ戻ってアイテムを取った。
「気づくワケなくない?」
「そうだな」
「つーか、なんでハンター生きてんの? さっきめっちゃ撃ったじゃん」
「さぁ?」
「これさぁ、もしかして最初の登山がどうとかってヤツでハードになってる?」
「www」
正確には、ノーマルモードだけど。
「うわ、行きたくねぇ……」
「グレランかショットガンでふっ飛ばして素通りするのがセオリーだよ」
「……まぁ、私もちょうど同じことを閃いてましたからね。カレ君が説明したそうだったから迷ってるふりしてあげただけですけどね」
「www」
「ショットガンはあるけど、ボスとかで詰まないかなぁ。ヤダなぁ……」
やはり、そこそこゲームの心得はあるらしい。むしろ、なまじっか実力があるからこそ負けず嫌いが発動しているとも言えるだろう。
「うわ、リサだ。うわぁ、可哀想……。私はママじゃないよぉ……」
「マジで悲しいよな」
「つよっ!? ちょ、カレ君がバリーになって助けてくれるとかないの!?」
「ないよ」
「バリー! バリー!! 銃返してあげたじゃん! やっつけてよバカ! ちょっとお!?」
「www」
紆余曲折あり、ステージは最終局面へ。休憩を取りながらとはいえ、ここまでで既に10時間以上が経過していた。
「オールひろゆき?」
「それは2だな」
「そっかぁ。うわ、植物人間だぁ。違う、植物になった人間かぁ……」
「そうだな」
「あれ、死なないよ、これぇ……」
「焼かないとダメだよ」
「焼く? でも、マッチない……っ! やだぁ!! ちょっと!! 触手がヌルヌル! ハメ殺される!! あぁん!! 乱暴しないで!!」
「www」
そのまま、カノジョは殺されてしまった。流石にショックがデカかったのか、操作できずボーッとしている。
「これさぁ、どこから?」
「サメのとこクリアしたあたりじゃない?」
「うわ、もうやだよぉ。クモとかマジでキモいもん」
「www」
「なんでインクリボン無いのよぉ……」
「www」
「本当にやだぁ。怖いもん、だってぇ。マジで無理ぃ……」
確かに、あのへんの難易度は初見プレイ民にクリアさせる気がないと思う。むしろ、よく一人でここまでやれたと思うくらいだ。
「ねぇ、カレ君」
「うん?」
「さっきのとこまでやって?」
ということで、15分足らずで地下から研究所に辿り着いた。何度もタイムアタックを走っているため、この程度の再走はお手の物だ。
「……ムカつく」
「ごめんね」
「ここの暗証番号は?」
「ファイルを探さないと」
「暗証番号は!?」
「www。8462です」
探索もせずにあっさりと燃料のカプセルを手に入れてラストバトルへ。どうやら、もう飽きてしまったようだ。
「なんでカレ君のジルは階段でホバー移動してるの?」
「最速で上り下りする方法だから」
「ズルじゃん、そんなの。やり方教えて」
「やっても意味ないでしょ」
「面白いからやりたい」
「www」
ということで、カノジョが操作するジルは施設の時限装置を作動させた。今更何を言っても仕方ないが、クリスが助からずタイラントとの最終決戦もないノーマルエンドだ。
「これ、間に合うのかなぁ」
「間に合うよ」
「うわ、クリムゾンヘッドだ。でも、私はあなたの動かは見きってますから。残念でした。大体、人の女に抱き着いてくるような男は! あぁ!! みんな復活してる!!」
流石、俺のカノジョ。最後まで期待を裏切らない。
「またサメのとこから? 嘘でしょ?」
「いや、あなたがトイレ行ってる間にセーブしといたよ。カプセル取ったとこ」
「だいしゅき、今日はいっぱいしゅきしゅきしたげる」
ゲームくらいでそこまで愛してくれると、ゲーマー冥利に尽きるのである。
「……ふぅ、これでクリアですか。バイオハザードも大したことないな!」
「そうだな」
「クリアランク、Bだって。これ、すごいの?」
「普通くらいかな」
「ふぅん。まぁ、初見プレイで普通ランク取れたら凄いっしょ。やっぱ、私はゲーム出来るんだよなぁ」
「www」
「ご飯食べいこ、疲れたから」
そんなわけで、俺たちは近所の居酒屋へ向かった。
焼き鳥を頬張りながらいつまでもスペンサー邸のムカつきポイントを語るカノジョを見て、俺は絶対にこいつと結婚しようと思った。
【短編】オタクじゃないカノジョがホラゲーしてるのを眺めるラブコメ 夏目くちびる @kuchiviru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます