現代社会で生きる人々に共感や共鳴を呼び起こす物語です。

この作品の魅力は、小学校教員の女性の日常を綴りながら、自分のルーツやアイデンティティを見つめ直すことです。

主人公は、子供の頃から田舎を軽視して都会に憧れていましたが、田舎が無くなるという現実に直面すると、田舎への愛着や郷愁を感じてきます。田舎は、自分の出身地であり、忘れられないものだと気づきます。

一方で、現代社会の変化と伝統の対立も背景にしています。ダム建設は環境問題やエネルギー問題に対するひとつの解決策ですが、同時に歴史や文化や自然を失うことも意味します。主人公は、その矛盾に直面することになります。この視点も素晴らしいです。読み進むにつれ、久しぶりに考えさせられました。どのようにバランスを取っていけるかが、大切なポイントですね。

また、この作品の魅力は、主人公の心理描写が細やかで感情移入しやすいことです。彼女は、母親からの電話に衝撃を受けたり、田舎の風景を思い出したり、決断をしたりする様子が丁寧に描かれています。特に最後の「一回帰るかー……あの、ど田舎に」という台詞は、主人公の複雑な感情が表れています。このセリフは、「ど田舎」という言葉で田舎への軽蔑や遠ざかりを示しつつも、「一回帰るかー」という言葉で田舎への思いや決意を示しています。このように、主人公は自分自身と田舎との関係性を模索する姿がリアルで魅力的です。


このように、この作品は、読者に自分の故郷や社会について考える機会を与える素晴らしい小説だと思います。