最終話 深夜同盟をこれからもよろしくお願いします
夜十時。
夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。
やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。
――――――――――――――――――――
「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」
「……バルバ・ベルゴォルだ……」
「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」
「いや~~~、はっはっは。なかなかの炎上だったよね~~~」
「……」
「あっ、ちなみにいま声聞いたからわかると思うけど、バルバ・ベルゴォルはちゃんと生きてるぞ! いますごい顔で見てきてるけど!」
「ところで炎上って謝らなくていいの?」
「何について謝るのかちょっと言ってみろ」
「私のせいじゃないしな~~」
「それにしても炎上に次ぐ炎上だったなあ。私はあんまりピンと来てないけど」
「そりゃお前は暢気に自分の部屋で寝ていただろうが」
「回線直るまでしばらく掛かったからね! その間も大変だったんだって?」
「まあ……こちらに入ってきている情報によれば、コスタズは混乱。あとはクレームの山だ。森の隠者からは爆笑したというクレームが入っているし、魔女からも同様のクレームが入っているな。魔物研究者からはここで終わらせるなというクレーム……というか、もっと魔物情報を聞かせろと言う要望があるし、冒険者からは多種多様のクレームと『お前が勇者かよ』というツッコミ、そして諸々だ」
「へー」
「へー、じゃない! それをみんなこっちで処理したのだぞ! せめてお前も何か!」
「めんどくさくて……」
「お前がやり始めたことだろうが!?」
「ああ、それと――あの後何があったのか詳しく教えろ、という要望は一番あったな」
「あのあと? うーん。バルが、武器がねーじゃんってツッコミ入れたけどー」
「ツッコミではないが? というかちゃんと最初から話せ。あのあと、勇者の武器はきちんと形になった。形になったというか……、まあ、うん」
「なっただろ! 武器はどうした? って聞かれたけど!」
「そりゃそうだろうが! あれほど困惑したことはないわ!」
+++――――――――――――――――――――+++
……
光がアーシャの胸の前で収束して、勢いよく弾けた。
それは勇者の武器が形になった瞬間だ。これでもう、アーシャは勇者として認められた存在になった。しかしその手にも、体のどこにも、それらしいものはない。なにひとつとして付属されたものはない。
同時に過負荷になった魔力回線がすべてシャットダウンし、魔王の魔力を引っ張りあげながら「どこか」に向かってネットワークが無理矢理繋がろうとしている。
「……お前、武器はどうし……」
『オラァーーッ!! この配信聞いてるかァ!?』
「はあ!?」
バルバ・ベルゴォルは困惑していた。
だがアーシャは続けている。
『お前たちの作ったシステムだけ残ってるせいで、こっちはなんだか色々大変な事になってんだよ!!』
「な、な……お前、いったい――いったいどこに『配信』しているんだ!?」
「え、いや、どこって――神の手駒である魔王が殺せる武器ってことは。たぶん、届くだろう?」
「だからどこに!」
「神に」
+++――――――――――――――――――――+++
「というわけで、寝ぼけた神々に文句を言うための武器――今回の勇者の武器は、私の声になったぞー! あんまり実感ないんだけど」
「……いや……まあ、いいんだが……」
「ちなみに一回聞きたいけど、これ私が魔王殺すとか言ったら死ぬの?」
「何故そう思いながらいま言ったんだ?」
「まあ私、あんまり自分が勇者って実感無いけど」
「せめて自覚くらいは持て。というより、自覚が無いとはなんだ。これまでの勇者の条件である『強い意志』には、魔王を倒すという意志がほとんどだったのだぞ。あの瞬間、お前は何を考えていたのだ」
「うーん。結構怒ってたんだよ、あのとき」
「は?」
「マジでふざけんなと思って。この話を黙ってた上層部的なのもそうだし。ここまで続いてた魔王と勇者の歴史が、もうとっくに飽きてた神々が残したシステムだけになってるとか、ふざけんのもいい加減にしろよと思ったら、こう、なんかペカーッて光ってた」
「そりゃお前からすればそうだろうが……」
「それで出さなくてもいい犠牲を双方出してるとか考えたら、魔王より神絶対ぶん殴るの意識になってて。でもいないなら、呼べばいい、と思って」
「……」
「……ひとつ聞くが、なぜ吾輩をそこで巻き込むんだ」
「バルが魔王だから」
「あ~~、もう、お前に聞いたのが間違いだった……」
「それに結構私はバルのこと気に入ってるしなぁ。殺すとか嫌だよ」
「じゃあ尚更なんでさっき試したんだ」
「そういうこともある!」
「というわけで、神に届いてるかは知らないけど、バルを殺す勇者が出てくるまではこの配信も続けるぞ。そういう約束だったからな、深夜同盟は!」
「勝手にしろ! 吾輩は知らん!」
「暇つぶしにはちょうどいいだろ~」
「というわけで、このへんで少々ブレイク! 深夜同盟をこれからもよろしくね! それじゃ新生・邪霊楽団の音楽をお楽しみに! それじゃあね~」
魔王城ラジオ『深夜同盟』 冬野ゆな @unknown_winter
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