刻の香り
私は高校で星について学んでいる。特にやりたいことも見つからず、面白そうだからという理由で高校専門学校に通い始めた。私は元々北海道に住んでいたが、親の転勤で東京に引っ越してきた。それ以来ずっとこの都会で暮らしている。初めの頃は、あの雪が降る綺麗な街に未練を残して夜泣いていたが、暫く経つとそんなことも忘れて利便性の高いこの街で幸せに暮らせるようになっていた。そんな中、私は1つのニュースを見た。それは今年の夏に、ネオワイズ彗星が観測できるというもの。知った途端、飛び跳ねながら喜んでその彗星について調べた。ネオワイズ彗星とは約6800年周期で、他の浮かんでいる星の比べてほんの少しだけ輝いている彗星だ。是非とも観測したい私はすぐに飛行機のチケットを手配し、新千歳空港へ向かった。言わずもがな街明かりの多い東京で見るより、高緯度で人工光が少ない北海道の方が綺麗に見える。ガイドブックで、明かりがあまり無さそうな所を探して私はそこを目指した。今から6800年に一度の特別なものを見れると考えると、興奮して夜も眠れなかった。
花弁を見て彼女に会いたくなったが、連絡を取れる訳もなく、親に聞くのもなんか恥ずかしいので八方塞がりの状態となっていた。万が一会えた時のために常にその花弁を持ちながら日々を過ごしていた。友達から今度、近くで彗星が見れると聞いて、息抜き程度について行くことにした。星なんて興味なかったが断る理由もないし、6800年に一度と聞いたら行った方がいいと感じた。
当日、友達が綺麗に見える場所を教えてくれたのでそこに向かって歩いた。そこは子供の頃、彼女と約束を交わしたラベンダー畑だった。モヤモヤとした何かが胸につっかえるような感覚がして、あまり夜空に集中出来なかった。なかなか彗星が見えず集中力が切れて、辺りに疎らになっている人達を見渡すとそこには彼女の姿があった。空から彼女の姿が照らされていく。と思った束の間彗星はすぐに消えてしまった。でも、彗星よりも彼女に出会えたことの方が嬉しく、そんな興奮が冷めないうちに彼女と会話したいと思った。でもそこにはもう姿はなかった。
今日はネオワイズ彗星が見れる6800年に1度の日。これについての論文を書けば評価がかなり上がるだろう。でもそれ以上にただただ見たいという純粋な心からの衝動の方が何千倍も大きい。近くに畑があってそこは明かりが少なく、カメラも設置しやすいと先輩から聞いていたので私はそこに向かって歩いた。着くと既に三脚を立てている人や高校生のような若い人たちもいた。近くに咲いていたラベンダーに少し目移りしたが、それでもネオワイズ彗星の方が美しいはずなので瞬きをしないで夜空と向かい合った。
「あっ!」
一瞬だったが確かに今、光の筋が現れていた。すぐにレポートを書く為に急いでその場を後にした。歩いている途中も、本物の輝きに見蕩れていた。
「すいません」
彗星のことで頭がいっぱいで周りのことが目に入っていなかったのだろう。地元の高校生らしき人とぶつかってしまった。するとその男の子が言った。
「覚えていますか。この花を」
ラベンダー
花言葉 『あなたを待っています』
『期待』
『疑惑』
あなたを待っています。 10まんぼると @10manvoruto
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