あなたを待っています。
10まんぼると
花枯れ
僕が彼女に出会ったのは幼稚園の頃の話。親同士が同級生ということで、一緒に花火大会に行くことになっていた。当時の僕は活発でどんな人とも明るく話していた。だから、初対面の彼女ともすぐに仲良くなっていた。近頃引っ越す事になったということになっていたようで、最後にこの町で過ごしたいらしい。幼稚園生の彼女なりに愛着があるんだと感じた。そんな彼女と一緒にりんご飴を食べたり、金魚掬いをしたりと沢山楽しんでいる中1つの約束を交わしていた。親が焼きそばを買いに行列に並んでいる時、見つからないように目をかいくぐって近くの神社の方に向かった。すると、辺り一面にラベンダーが広がっていた。2人ともその圧倒的な景色に見蕩れてしまっていた。幼稚園生だった僕の身体がすっかり覆われてしまうほどの、大きくて高い花がまるで夜空を目指すように咲いていた。その中から、2つの花を摘み取って1つは彼女の手に、もう1つは僕の手に。
「また、ぜったいにあおうね」
「うん」
2人の声はラベンダーを成長させるような期待がこもっていた。その後、浴衣に花の残り香が染み込むまで遊び呆けた。家に帰って僕は花瓶にその約束の花を刺した。
高校生になった俺は、そこそこの偏差値の学校に言って、試験で低めの点数を取って半ば諦めかけていた。中学校時代は勉強に対して熱心で、学年でもトップクラスの成績で親からも期待されていた。でも、イメージしていた煌びやかな青春とは違って、屋上禁止の頭髪規制などの制約があることを知って、モチベーションを落としたからだ。入学して初めてのテストで200人中150位という結果を親に見せると、こっぴどく叱られ塾にも通わされるようになってしまった。それでも、環境に対する嫌悪感のせいで勉強のやる気はあまり上がらなかった。そしてそんな点数を何回も取っているうちに、親との会話も減り文句も言われなくなってしまった。
「こんな切り替えの出来ない息子でごめん」
同じ屋根の下で生活するのもしんどくなってきたので一人暮らしをすることにした。高校の近くにある少し古めのアパートへ荷物を運ぶために引越し業者を呼んだ。親からお金を貰えるはずもなく、バイトで貯めたものから払うのでかなりの出費となってしまった。
「バイト増やさなきゃな」
そんなことを考えながら部屋を整理していると、とあるものを見つけた。それは1つの花弁だった。もう枯れてしまっていたが微かに香る匂いに懐かしさが溢れ出てきた。今まで忘れていた彼女は一体何処で何をしているのだろうか。
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