第4話 修理業の助手になった日

シャンクとの出会いも早かった。

シェーリーと出会った翌日、「合わせたい人がいるから」と言って、さっそく僕を連れ出した。


それで、この自動車修理の小さな工場にやってきた。

事務室で顔を合わせたときの、シャンクの開口一番の言葉は、それなりに衝撃的だった。


「シェーリー、また君は、とんでもないものを拾ってきたものだね。こいつ人間じゃないか!?」


それに対してシェーリーも言い返す。


「でも、彼は雑木林の池の中で死にかけてたのよ」

「そうだとしても、君はこれまでで、一番大きな厄介ごとを背負いこむつもりかい? 転生者が持ってた情報や道具の類を密売するなんてのとは、勝手がぜんぜん違うぞ」

「そんなこと言ったって、じゃあ、そのまま放置して野垂れ死にでもさせておけばよかったかしら?」

「そうとまでは思わないが、せめて、人間のコミュニティの近くへ連れて行くだけで止めておくことだってできただろう」

「そうすべきでないと、直感的に思ったのよ!」

「うむ、まあ、」


シャンクはため息をついた。


「それに彼は、たぶん、私たちの仕事の役に立つかも」

「なぜ、そう思うんだね?」

「私の直感」


シャンクは深いため息を漏らした。腕を組んで、それから何かを思案するかのように小さく唸った。


「よろしい……ならば早速、採用面接といこうか」


そう言って、棚からフォルダーを取り出した。それで、そのページを開いて、僕に見せてきた。


「これを見て、これがなにか分かるか?」

「図面?」


見せられたものは、図面だった。電気回路らしき図面だった。

もちろん、これがどんな機械に使われる、何のための回路なのかは、わからなったが、とにかく、それらの記号が電子部品や制御機器を意味するもの、ということは容易に理解できた。


「その、これは、電気回路の図面だというのは分かります」

「なるほどね」


そのとき、シャンクの表情に少し変化があったような気がした。


「この図面は、地球の世界で使われている記号で書いてみたものだ」

「そう、ですか」

「君、技術系の心得があるようだな。地球ではどんな暮らしをしていたのだね?」

「えっ、それは、」


そのとき、シェーリーが会話に割って入った。


「シャンク、彼は記憶があいまいなのよ。今だって自分の名前すら思い出せないんだから」

「それならば、なんて呼べばいいんだね?」

「レイン、って呼んでください」

「レイン?」

「私が考えてあげたのよ」


シャンクはフォルダーをそっと閉じると、またしてもため息を漏らした。


「まあ、とにかく、思い出は全部忘れてしまっているが、知識に覚えはある、ということのようだね」


聞くところによると、たいていの転生者は、地球時代の記憶、そのときの持ち物を持った状態で現れるらしい。

でも僕は、シャツと作業ズボンだけで他に持ち物はなく、記憶もひじょうにあいまいだった。自身の名前すら、今も思い出すことができない。

こうして分かったことは、おそらくは技術者的な仕事をしていたのだろう、ということだけだ。


シャンクは、なにやら机の引き出しから取り出すと、僕に手渡してきた。

なんとか手に乗せることができるサイズで、古い電話機のダイヤルみたいなものと棒状の折り畳みアンテナみたいなものが付いている機器だった。


「なんだと思う?」

「ええと、電話? 携帯電話ですか?」

「そうだとも、わかっているね。これは君に渡しておく」

「いいんですか?」

「ははは、ウチが仕事を手伝ってほしいと思ったときは、電話をかけるからね。そのときは、よろしく頼むよ」


そうしてここに、奇妙なトリオの関係が出来上がったのだ。

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